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番外編.その後の街の領主
57.そんなに
僕にも働かせてくださいと言うと、パーロルットさんも嬉しそうだ。
「ありがとうございます!! トルフィレ様!! トルフィレ様が手伝ってくだされば、売り上げも上がります!!」
「え…………えっと……あんまり自信ないんですけど……」
「では、こちらにどうぞ!! 制服をお渡しします!!」
「は、はい!! …………え? みんな、制服なんて着てないのに……」
「さあさあ! 早く!!」
なぜか楽しそうなパーロルットさんに、ちょっと強引に店の奥の部屋に連れて行かれて、僕は、渡された服に着替えた。
だけど、店の人は誰も制服なんて着てない。
僕が着るように言われたのは、魔物から身を守るための魔法がかかった可愛らしいデザインの服。軽くて動きやすいのに丈夫そう。魔物から身を守るための防具も装備して、なんだか冒険者になった気分だ。
いつもは、殿下にいただいた装備で魔物退治に行っているけど、これだと、短剣をいくつも装備できて、遠出の時の野営で役に立ちそう。もしもの時に助けを呼ぶための小さな使い魔を飛ばすための魔法の道具も結びつけてある。
街中で魔物を倒す格好っていうより、長旅をするための装備といった感じだ。この店に来るお客さんには、そういう人が多い。隣町から来ている行商のラグウーフさんも、その一人だ。
着替えを手伝ってくれたラグウーフさんと一緒に、僕は店内に出て、商品を並べるように言われた。
今の時間はお客さんが少ない時間らしく、店内にはまばらに人がいるだけ。
だけど……お、お客さんが少なくても……き、緊張するっ……!! そもそもまだ人が怖いままなのにっ……う、うまくできるかな……
小さな箱に入った魔法の道具を、棚に並べていたら、一緒に仕事をしていたラグウーフさんが微笑んで言った。
「トルフィレ様……そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ……」
「はっ……はっ、はいっっ…………!」
「……すみません……僕が連れて来ちゃったせいで……」
「そ、そんなこと……いいんです! 僕もやってみたかったし…………ここにはいつもお世話になってるし……ちょっと緊張しますけど……ま、街のこと、じっくり見てみたかったんです!」
普段は領主としての仕事が忙しくて、森と隣町をつなぐ道路、城の往復ばかり。街の様子をじっくり見ている時間はないから、ちょうどいいはずだ!
すると、ラグウーフさんは少し困ったように言った。
「えっと……だからってパーロルットさんの店を手伝わなくてもいいと思うんですけど……トルフィレ様、領主なのに、こんなことしていただいて本当にいいんですか?」
「それはもちろんです! ……や、役に立てるかは分かりませんがっ……! ここの武器は僕も使っているし、が、頑張ってみます!」
「……そうじゃなくて……あの…………」
「それより、ラグウーフさんはいいんですか? 隣町に帰らなくて……」
「僕は大丈夫です! しばらくここで魔法の道具を売ることになっているので! トルフィレ様一人じゃ心配ですし!」
「……ラグウーフさん……」
……またみんなに心配をかけてしまった……やっぱり僕って、頼りにならないのかな……
「あ、危ないっっ!!」
彼に言われて、初めて気づいた。話しながら歩いていたせいで、気付いたら、目の前に棚があった。
僕がぶつかった棚はぐらっと揺れて、上から箱が落ちて来る。中には、僕も使ったことがある、小さな魔法の道具がぎっしり詰まっていた。
「わわわわわっっ!!」
「と、トルフィレ様っ!!??」
「わーーーーーーっっ!!」
落ちてきた箱を押さえようとするけど、それは僕の手をすり抜けて床まで落下。箱はひっくり返って、中に入っていた小さな宝石のような魔法の道具が、大きな音を立てて床に飛び散ってしまう。
その音に驚いて、周りにいたお客さんたちが、みんな僕に振り向いた。
は、恥ずかしいっ……! 早速やってしまった……僕の馬鹿ーー……
慌てて「申し訳ございません!」って言って、落ちた道具を拾い集めると、ラグウーフさんがすぐに駆け寄ってきて、手伝ってくれる。
「トルフィレ様……大丈夫ですか?」
「……は、はい………………す、すみません……」
「大丈夫です……僕もたまに似たようなことしちゃいますから……」
「ラグウーフさん……」
「それより、そろそろ忙しい時間になります。が、頑張りましょう!」
「……忙しい時間?」
「はい。みんな、仕事を終えて帰る途中、ここに武器の修理を頼んだりして、そのついでに店にも寄るんです。回復の魔法の薬とか、足りない武器を揃えて、明日の用意をするために」
「……装備……まだ街を歩くには、それが必要ですか……」
「装備を整えるのは、どこでもしますよ。それにここに来るのは、僕みたいに街から街まで移動したり、森に用事がある人が多いんです。トルフィレ様たちのお陰で、だいぶ魔物は減りましたが、森を通って隣の領地に行く時には、魔物に対する対策が不可欠だし……他にも……人気のない森の中では、強盗や誘拐なんかもあるから、みんな装備を整えていくんです」
「……やっぱり、まだ物騒なんですね…………」
「それでも、ディラロンテたちがいた頃に比べれば、ずいぶんよくなりましたよ? あの頃は街中でも魔物に注意が必要だったから……だけど今は、この街に来る人も、ずいぶん増えたじゃないですか! 冒険者の人も多いみたいだし……」
「そうですね……この街には、ギルドがないのに……」
「ここにはギルドがないけど、隣町で依頼を受けて、護衛や素材を集めるために来るらしいんです」
「護衛………… ラグウーフさんは、護衛を頼んだりしないんですか?」
「……僕ですか? 僕は、戦うのは苦手ですが、逃げるのは得意なんです。こう見えて、精霊族の魔法も使えるので、魔物に見つからないように隠れられるんです!」
「へえ……」
「それに……向こうで、冒険者の方に護衛を頼むと、往復で頼まないといけないんです。ここで商売をしてから帰るまでの宿泊費なんかも用意しないとならなくなるし……そんなことしてたら売り上げ全部なくなっちゃいます」
この街には、まだ冒険者ギルドがない。以前は街に魔物が溢れて、ギルドどころじゃなかった。
僕の一族もアフィトシオたちも、魔物対策を言い訳に高い税金を取っていたけど、やっていたのは、バレた時の逃亡先の確保と酒盛りと贅沢だけ。街に施設を作るなんて全くしてこなかったし、隣町までの道路は整備されていなくて、魔物の対策もほぼしてこなかった。
そんなことばかりしていて、よくこの領地は魔物で埋まらなかったなぁ……多分それは全部、ここに住んでいる人たちがいてくれたおかげだ。
そして僕は、搾取を繰り返した一族の置き土産……
な、なんだか、申し訳なさすぎて頭を抱えたくなってきた……みんな、僕なんかが領主で、本当にいいのかな……
最近では街道も少し安全になってきたけど、みんなが安全に行き来できるようにしたい。まずはそれからだ!! ここでの仕事も、そのためになるはず!!
「が、頑張ります!! 僕!!」
「……トルフィレ様!??」
「ぜっ……絶対に領主として頑張りますっ……!」
「す、すごい気合いですけど……あの……む、無理をなさらないように……」
「大丈夫です!! 任せてくださいっ……! た、たくさん商品、売ってみせます!!」
「……えっと…………そんなに売らなくても……」
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