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番外編.その後の街の領主
60.傷つけません
目当ての場所までは、ここからそう離れてない。
空を飛んだ僕は、町外れの空き家が多い辺りに降り立った。
ここは、以前はよく魔物が出現したあたりで、大きな商店は破壊されてしまい、周囲に残った空き家と一緒にそのままになっている。
僕が領主になってからも、よく魔物が現れて危険だったため、今は第一王子殿下のウェクトラテス様が結界を張ってくれている。結界の中には入れないけど、周囲はいつも誰もいない寂れた通りになってしまっているから、隠れるならここだろう。
道路はまだヒビが入って盛り上がったまま。街灯だけは修繕したけど、店や民家の明かりがまるでないせいで、ひどく暗く見えた。
壊れた道路の舗装には、僕の身長より長い大きな杭が深々と突き刺さっている。宝石と木々を集めて杭のような形にしたもので、結界を維持するために一般的に使われる魔法の道具だ。
まだ真新しいのは、ごく最近、ウェクトラテス様が設置してくださったから。
僕は、その結界の道具にそっと近づいた。
結界の道具に大きな傷がある。それを傷つけて中に入ろうとしたんだろう。おそらく、それでも結界はびくともしなかったはずだ。何度も傷つけた跡がある。下の方には、小さな針が刺さっていた。ここを開こうとした人がやったのかな……
冒険者さんも、そっとそれに触れて言った。
「精霊族の魔法だ。傷跡も、まだ新しい。昨日今日傷つけたんだろ……」
「今日だと思います」
「なんでそんなこと分かるんだよ?」
「僕、昨日のこのくらいの時間に、ここに来たんです。ここには以前から魔物が多かったし、ウェクトラテス様が結界を張ってくれているから、その様子を見ておきたくて……その時は、こんな傷ありませんでした」
「………………今日はバイトで昨日は結界見に来てんのか……?」
「はい」
答えながら、結界の道具の傷に触れてみる。かなり何度も傷つけている……よほど壊したかったのか?
「……なんでこんなところの結界を壊そうとしたんだろう……」
ぼそっと呟くと、冒険者さんは「中に金目のものでもあると思ったんじゃないのか?」って言っていた。
確かに、彼のいうとおりかも知れない。結界の向こうには、大きな商店が見えているし、中に何かあると思っても不思議じゃない。
……泥がついている…………泥だらけの手で抜こうとしたのか……?
結界の周りにも、今は無人の商店がある。その扉にも、傷がいくつかあった。
それを調べていたら、冒険者さんが、暗くて細い通りを指して、僕を引き寄せた。
「なんかいるぞ」
「え……?」
「人と戦った経験は少ないか? 話し声だ。まだ、こっちには気づいてない。ついてこい」
「は、はい!!」
僕は彼に連れられて、無人の細い路地を進んだ。
奥に進むと、だんだん、崩れた木箱が多くなって行く。魔物がこの辺りにある通りを破壊した時に放置されたままのものだ。
その向こうで、揉めるような声がした。
「いやっ……離してっっ……!! 離してっ!! お願いっっ!!」
叫んで暴れている男の人がいる。彼は、自分を捕まえる手を振り払うと、その場にうずくまって泣き出してしまった。小柄で長い髪はボサボサで、ひどく痩せている。着ているものは魔法使いのローブで、かなり上等なもののようだけど、今はだいぶ汚れているようだ。
うずくまった彼を、数人の男たちが取り囲んでいる。格好はみんな冒険者みたいだけど……多分違う。男たちうちの一人が、嫌がる人の腕を掴んで、強引に連れ去ろうとしているようだった。
「ふざけんなっ……!! さっさと立てっっ!! グズがっ……! ただじゃおかねえぞ……!」
「嫌っ…………もう嫌だ…………」
「このっ……!」
泣き出す彼に向かって拳を振り上げ、尚も連れて行こうとする男に向かって、冒険者さんが叫んだ。
「そいつを離せ……っ!」
彼は魔法の弾を放ち、うずくまった人を連れて行こうとしていた男の手を打つ。
すると、男たちは驚いて、冒険者さんに振り向いた。
「なんだっ……!? お前ら!!
「見りゃわかるだろ。冒険者だ。そいつを回収に来た」
「こいつを……?」
「お前らこそ、なんでそんなチビ捕まえていじめてんだ? 弱いものいじめか? どこのクズだよ?」
「弱いものいじめだと……? ふざけんなっっ!! 俺たちはこいつを魔物から守ってやったんだよ!! 森の中で、一人はぐれて逃げていたこいつを!! わざわざ回復の魔法の薬まで使って助けてやったんだぞ? その分、働いてもらわなきゃ困るんだよ!! 契約しただろーが! なんでも俺らの言うこと聞くってな!!」
怒鳴りつけて、男は魔法で契約書らしいものを呼び出して、僕たちに見せてくる。魔法で作られた契約書のように見えるけど……
「偽物ですよね? それ……」
僕が言うと、男たちは激昂して怒鳴る。
「ああ!!?? なんだとクソガキ!! ガキになんでそんなこと分かるんだ!!」
「……ガキじゃありません。僕は大人だし、それは偽物です」
アフィトシオやディラロンテも、似たようなものをたくさん持っていた。それに比べても、相手の男が持っているのは、だいぶ粗悪なものだ。
こういうものを作る魔法については、フーウォトッグ様に教えてもらったから、間違いない。
「そんなものを盾に、ここで人を傷つけないでください。大人しく投降すれば、あなた方のことも傷付けません。武器を捨ててください」
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