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番外編.その後の街の領主
62.それだけは許せない
人質を失い、盗賊だか討伐隊だか分からない男たちは、ひどく焦り出す。
「お、おおお、お前!! 分かってるのか!? こんなことして……!! ただじゃおかないからな!! お、俺たちは、ヴォーヤジュ様に遣わされたって、言っただろ!!」
「ヴォーヤジュ様は、あなた方のしていることを許すような人ではありません。本当にそうだったとしても、それなら僕がヴォーヤジュ様と話をつけます」
「……何言ってやがる…………一体……なんなんだよ! お前っ……!」
男たちが、僕に向かって魔法の光を放つ。
それは、強い光をあたりに撒き散らし、眩しくて僕は目を瞑った。
目眩しかっ!!?? 散々人を馬鹿にしたくせに逃げるのかよ!!
光が消えた頃には、盗賊たちは僕らに背を向け、街の上空に飛んでいっていた。
冒険者さんがすぐに追おうとするけど、保護した人を放ってはおけない。彼は、へたり込んだままのその人に振り向いて、微かに迷っているようだった。
僕は、冒険者さんに振り向いた。
「ここにいてくださいっ……!」
「はあ!? お前はどうするんだよ!? 一人であいつら追う気か!? ああ見えて、少しは腕の立つ連中なんだぞ!!」
「……僕に任せてください。ヴォーヤジュ様の名を語ったことも許せないし、この街は、僕が守るって決めたんです。絶対に逃しませんっ……!」
僕は、魔法で空に飛び上がり、逃げた男たちを追った。
街の上空で僕の追跡に気づいた男たちは、すぐに僕に振り向く。
「しつこいんだよっ……! クソガキ!!」
「……僕はクソガキじゃありません。領主です」
「はあああ?? 領主うう? 馬鹿かてめえ!! こんなところでそんなことしてるガキが、なんで領主なんだよ!! ばーーーーか!!」
言って、男たちはゲラゲラ笑い出す。
別に僕のことはどうでもいい。
「今すぐに投降してください。こ、ここに来た経緯も……話してもらいます!」
「ふざけんな! お前みたいなガキに何ができる!!」
そう言って男は、地上に広がる街の方に、持っていた杖を向けた。
「……俺たちのことは追ってくるな……さもなくば、街の連中ぶち殺す」
「………………お前たち…………」
「俺はこう見えて、広範囲を攻撃する魔法が得意なんだよ……残念だったなあ? クソガキ! お前じゃ俺たちを拘束するなんて絶対にできねーんだよっ……!!」
男たちが、街に向かって魔法を放つ。けれどそれは、街に届くずっと前に、結界に阻まれ消えていく。
街を覆う結界は強化した。その程度の魔法が、街まで届くはずがない。
自慢だったらしい魔法が、地上まで届くことすらなくて、男たちは真っ青になって震え上がっていた。
「なっ…………なんだよっ……今のっ……! お前っ……な、何かしたのか!?」
「しました……あなたたちがここに来る、ずっと……ずっと前からです…………」
「な、何っ……!? 何をっ……!」
男たちは、ひどく焦っているようだった。
だけど、そんなこと関係ない。今の一言だけは、許せない。ここを壊そうとするなんて。
「すでに、この街の結界は強化されています。あなた方の、そんな付け焼き刃の攻撃で打ち破れるようなものではありません」
街のあちこちから、ふわっと優しい光が湧いてくる。全部、結界強化のための道具の光だ。
街の至る所に設置したそれには、常に魔力を注ぎ、絶やさないようにしている。
「この街は……常に僕が守っています。街を攻撃して逃げようとしても、無駄です」
「ひっ…………」
男たちは、すでに真っ青だった。戦意はないらしい。
だからと言って許すことなんかできそうにないけど、ギリギリの理性で、僕は彼らに拘束の魔法をかけた。それは、彼らの体を魔法の縄で縛り上げ、地上に下ろしていく。
地上におりると、拘束された男たちはみんな項垂れていた。
だけど、最後に喚いていた男だけは、僕を睨みつけ喚く。
「…………てめえっ…………たかが冒険者の分際でっ……! 調子に乗ってんじゃねえぞっっ!!」
「…………」
あんまりここで騒がれると街のみんなが怖がるし……早く連れて行ったほうがいいかな……
そんなことを考えていたら、突然男の頭に、布のようなものがばさっと落ちてきた。
「うわっ…………!! なっ……なんだよこれ!! なにしやがった……!?」
いきなり視界が隠されて慌てる男。その頭に落ちて絡みついているもの、僕のローブじゃないか。パーロルットさんの店で着替えた時に置いてきてしまったものだ。
なんでこんなところに僕のローブが飛んでくるんだ? あれはロティンウィース殿下からいただいた、すごく大切なものなのに。
ローブに手を伸ばそうとすると、それはふわっと浮き上がって、中から小さな竜が出てきた。アンソルラ様だ。
「トルフィレっ!!!! ここにいたのかーーーーっっ!!」
「あ、アンソルラ様?? なんでここに…………森の見回りに行ってたんじゃないんですか?」
「そっちは終わった! 街を飛んでたら、街の奴らがパーロルットの店でトルフィレが道具売ってたって騒いでたから、探してたんだ!」
「そ、そうなんですか!??」
騒ぎになっちゃってるのか……どうしよう……パーロルットさんに迷惑かけちゃったかな……結局全然売れなかったし……
アンソルラ様が僕の前まで飛んで来て、小さな竜から人に姿を変える。背中に小さな竜の羽がある、藍色の髪の背の高い男の姿で、真っ黒なマントを羽織り、肩につくくらいの長さの髪は、竜の柄の大きなリボンで括っていた。
「街の結界、強化しただろ? 見上げたらお前がいたから飛んできたんだ。パーロルットの店にローブ忘れてたぞ!」
「あ……えっと、それ……忘れたんじゃなくて……バイトで着替えていたんです…………」
「バイト…………?」
「あ、あのっ……でもっ……ありがとうございます!!」
やっぱり、これがあると安心する。ロティンウィース様からいただいた、大切なものだから。
ローブを受け取っていたら、さっき拘束した男たちが震えながら言った。
「あ、アンソルラ様…………こ、近衛隊長の……な、なんでこんなところに……」
さっきまで威勢が良かったのに、彼らは今はひどく怯えているみたい。
驚くのも無理ない。本来なら王都で殿下を守るはずのアンソルラ様が、こんなところにいるんだから。
アンソルラ様も捕縛された男たちに気づいたようで、彼らに振り向き首をかしげる。
「……なんだ? そいつら。何かあったのか?」
「はい…………盗賊の方々です……」
「……は!?? 盗賊!? なんでそんな奴らがここにいるんだよ!!」
「えっと…………それは僕にもまだ分からなくて……」
僕は、彼らに振り向いた。
「……話してくれますか?」
「…………お前、一体何者だ……?」
「…………え?」
「ただの冒険者が、なんで近衛隊長となんか話してんだ!!!? お前……一体なんなんだよ!?」
「え……えっと…………だから、僕、冒険者じゃないです……本当に、領主なんです」
「……まさか……」
「僕は、トルフィレ・ホーイル。この街を守る領主です……あなた方を捕縛します。抵抗をやめてくれれば、これ以上傷つけることはしません」
男たちは、それでもまだ信じられないといった様子だったけど、僕が受け取ったローブと、アンソルラ様の方を恐る恐るちらっと見て、信じるしかなくなったみたい。今度こそ、がっくりと項垂れていた。
もう反撃の意思はなさそうだ……ホッとした。
すぐそばにいた冒険者さんも、肩を落としてため息をつく。
「参ったな…………」
「え?」
な、何がだろう……
僕が振り向こうとしたら、彼は僕に微笑んだ。
「なんでもありません…………領主、トルフィレ」
「え……? え!?? あ、あの…………」
「協力してくださって、ありがとうございました……感謝致します……」
「そ、そんなっ……! ど、どうしたんですか?? …………あ! そうだ!! 結界の道具! 買いませんか!??」
僕が、パーロルットさんの店から持ち出した、小さな宝石のような道具を取り出して言うと、彼は、少しの間それを見つめて、ニヤッと笑った。
「……………………買いません」
「ええっっ!!?? な、なんで…………」
「なんとなく……癪だからな!」
そう言って、彼が微笑む。あの店で会った時みたいにちょっと意地悪そうだけど、なんだか楽しそうだった。
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