全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

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番外編.その後の街の領主

63.ここにいてください!


 それから僕らのところには、いつも街を守ってくれている竜族の部隊の方々が来てくれた。捕縛した人たちを彼らに任せ、僕と冒険者さんは、アンソルラ様と一緒に、一度パーロルットさんの店に戻ることにした。

 店を抜け出して来ちゃったし、きっと心配してる。

 アンソルラ様は、いつもの小さな竜の姿に戻って僕の肩にとまってじっとしている。
 店に戻ると、随分お客さんが集まっているみたいで、店の外にまで人が溢れていた。

 そこには、いつも僕の武器を整備してくれているキャドッデさんもいて、僕に気づいて振り向いた。

「……トルフィレ様!?」
「キャドッデさん…………こんばんは……」
「ここで何してるんですか!!」
「え!? え、えっと……ば、バイトですっ!!」
「そんなこと聞いてないです!!」

 え!? なんで!? だって何してるんだって言ったのに!!??

 けれど、キャドッデさんは随分焦った様子で言う。

「そうじゃなくてっ……!! 何でこんなところで領主がバイトしてるんですか!!」
「す、すみませんっ……! パーロルットさんに頼まれて……」
「パーロルットさんに? あの人はまた…………トルフィレ様、大丈夫ですか? パーロルットさんに騙されて、変なことさせられてるんじゃないですよね?」
「そ、そんな……変なことなんて、させられてません……僕も、やってみたくて引き受けたんです!」
「……パーロルットさんの店の手伝いをですか? なんでですか?」
「ふ、普段……あまり街にいられないので……街を見てみたかったんです。最近、魔物退治で街にいられないことが多かったし……だ、だけど、心配かけちゃったみたいで……すみません……」
「……そんなこと、いいんです。後で城まで送ります!」
「え!!?? そ、そんなっ……ぼ、僕、一人で帰れます……」
「だって、また一人で領主がふらふら歩いてるなんて、放っておけません! トルフィレ様の魔法が強力なのは存じておりますが、こうやってパーロルットさんに捕まってるし……トルフィレ様は、俺たちの大事な領主様なんですからね! 俺らにもちゃんと大事にさせてください!」
「………………」

 大事に? 僕を……? そんな風に思ってくれるんだ……

 僕が俯いてしまうと、キャドッデさんはどこか恥ずかしそうに、顔を背けた。

「……すみません…………感情的になってしまって……領主様を相手に、無礼でしたよね……」
「そ、そんなことっ……気にしないでください……キャドッデさんたちが武器や道具を用意してくれるから、僕らは戦えるんです……」
「そ、そうですか? ま、まあ、俺も今じゃ、領主様の武器を用意する職人ですからね!」

 そう言って、彼は少し恥ずかしそうに笑う。

「あ! 武器!! 見せてください! 今朝も、魔物退治に行っていたんですよね?」
「……は、はい……」
「それに、結界の道具も。さっき、強化してましたよね? あれも、何か不具合があれば言ってくださいって、レグラエトが言ってました!」
「レグラエトさんが……?」

 街を守る結界を強化している道具は、もともとこの店で仕事をするレグラエトさんが作ったものだ。そのレグラエトさんが協力してくれるなら心強い。

 そう思っていたら、パーロルットさんが僕らに駆け寄って来てくれた。

「トルフィレ様。お帰りでしたか」
「あ……は、はい……! 盗賊たちは捕縛しました……す、すみません……お店の手伝い、あんまりできなくて……そ、それに、僕……全然商品売れなくて…………」
「そんなこと、いいんです。トルフィレ様が店の前でココアを飲んで宣伝してくれたおかげで、今日は大繁盛です。これだけお客様に来ていただけるなんて」
「そ、そうですか……?」

 そんな話している間にも、お客さんは店を出入りしていて、店に来た人が僕に挨拶をしてくれた。そのうちの一人、いつも行くパンの店の店主さんが、僕の方に駆け寄って来る。

「トルフィレ様……よかった……ここに来たら会えるって聞いて……これ、さっきアンソルラ様が忘れて行ったパンです」
「え…………?」

 ちらっと肩にとまったアンソルラ様に振り向けば、彼は「パンーーーー!!」って歓声を上げながら、有頂天で店主さんが差し出す袋の方に飛んでいく。街に帰って来てすぐにパン屋さんに寄っていたのか……

「あ、ありがとうございます……」
「渡せて良かったです。トルフィレ様の好きなパンも入れておいたので、食べてください」
「ええっっ!!?? そんな……す、すみません……」
「以前、隣町までの街道で案内をしてくれたお礼です。お陰で無事に小麦粉とスパイスを手に入れることができました」
「……そうですか……よかった…………」
「だから、ちゃんとパン、食べてくださいね!」

 そう言って、店主さんは微笑んでパンを渡してくれる。

 パーロルットさんも嬉しそうだ。

「これだけお客様にも来ていただいて、売上も過去最高です。どうか、これからもここで媚薬を売っていただけないでしょうか?」
「……え、えっと…………」

 よく分からないけど、役に立てた……のかな?? それは嬉しいけど、僕……媚薬なんて売った覚えない……

「で、でも……フーウォトッグ様がお城で待っているので……」
「フーウォトッグ様には、私が使い魔を送りましょう。ぜひ、トルフィレ様にはこちらに残っていただきたいのです! アンソルラ様も帰ってきたようですし、もう少し、ここにいてください」
「え、えっと……」

 戸惑っていると、冒険者さんが呆れたように言った。

「ぼーっとしてる場合じゃねーだろ……客寄せに使われてんだよ。お前」
「え??」

 戸惑う僕を押し退け、パーロルットさんが前に出る。

「おやおや……困りますね。身に覚えのないことを言われては。私はただ、トルフィレ様にここにいて欲しかっただけですよ」
「…………どんだけ領主に懐いてんだ……」

 呆れたように、冒険者さんが言う。

 そんなことは無視して、パーロルットさんは「せっかくだから朝まで泊まって行ってください」って言ってくれるけど、そろそろ帰らないと、フーウォトッグ様が心配する。

 断る僕に、パーロルットさんは詰め寄ってきた。
 すると、僕らの間に、体格のいい短い茶髪の男性が入ってくる。レグラエトさんだ。

「そろそろやめておけ……パーロルット……トルフィレ様が困っている」
「私はトルフィレ様を困らせるつもりは毛頭ございません。ただトルフィレ様にここに残っていただきたいだけです」
「…………そんな真似をしていて、あの嫉妬深い王子殿下に処刑にされても知らないぞ」
「処刑? 何を言っているのでしょう。私は殿下に咎められるような真似をした覚えはありません」

 そう言って、パーロルットさんは僕の手をぎゅっと握る。

「これからは是非、毎日いらしてください」
「え、えっと…………」
「是非!!」

 そう言いながら迫られて、少し怖いくらい。

 すると、パーロルットさんの背後から、ぽんっと彼の肩に手を置く人がいた。

「やめろ……パーロルット。それは、俺の婚約者だ」

 そう言って、パーロルットさんの肩を掴むのは、今は王都にいるはずのロティンウィース殿下だ。

「殿下っっ!!」

 僕は驚いて、彼に駆け寄った。

 なんでここにいるんだ!??

 びっくりしたけど、そこにいたのは確かにロティンウィース殿下だ。

 妖艶な金色の長い髪の、僕よりずっと背の高い第二王子殿下で、見上げると、僕の名前を呼んで微笑んでくれる。

 でも、なんでここにいるんだ?? 今日は王都で会議があって、帰らないはずなのにっ……!

 それなのに、殿下はここにいて、僕のことをぎゅっと抱きしめてくれた。

「トルフィレーー。会いたかったぞーー!」
「で、殿下っ…………な、な、なんで…………か、会議はっ……!?」
「そんなもの、すぐに終わらせて来た!! トルフィレに会えないなんて、我慢ならないからな!」
「……殿下…………僕も……」

 そんなの、僕だってそうだ。王都での会議だから我慢してたけど……本当は殿下に会いたかった。

「僕も会いたかったです! ロティンウィース殿下!!」

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