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番外編.その後の街の領主
67.大切に
ランクイズイルさんは、僕に微笑んで言った。
「今回はお前の……あ、いや……トルフィレ様のお陰で助かりました。ありがとうございます」
そう言って彼が頭を下げてしまうから、僕は焦るしかない。
「や、やめてください! まだあんまり領主としての経験だってないし……だけど、領主として頑張りたいんです!! だから……またここに来てくれると嬉しいです!」
「お前……俺を呼んでいいのかよ? 領主様を馬鹿にしたならず者だぞ?」
「……ならず者だなんて、思っていません。ここにいらしたのだって……そのいなくなった人が心配だったんじゃないんですか? だから……一人で…………」
「別に……領地の端で警備してた冒険者がいなくなったって、ギルドの奴らが話してたから、探しに来ただけだ。急いでる時は、一人で行ったほうが早いんだよ……それだけだ!」
「……仲間を助けに来るような方が、悪い人であるはずがありません……僕だって、怯えていた時に迎えに来てもらって……涙が出るくらい嬉しかったんです…………コーインクルリズ様とも…………お話をしたいんです」
「……それは分かったよ…………任せておけ! トルフィレ様!!」
そう言って、彼は僕の背中を痛いくらいにバンバン叩く。
すると、殿下が僕を抱きしめて、「気安く触るな」と言って、彼を睨みつけた。
*
ランクイズイル様は、回復の魔法の薬があれば大丈夫だと言って、コーインクルリズ様の元へ帰って行った。アンソルラ様が率いる竜の部隊が彼らを送ることになり、フーウォトッグ様は拘束した盗賊たちの様子を見にいくと言って、警備隊の人たちと砦の方に向かって、僕はロティンウィース殿下と二人で、コーインクルリズ様に送る書簡の件を相談するため、先に城に戻ることにした。
でも、まさかコーインクルリズ様のところからその護衛の魔法使いが来るなんて、思わなかったな……
しばらくそのことを考えながら歩いていると、殿下が僕に振り向いた。
「トルフィレ……」
「は、はい! え? な、何か言いましたか?」
びっくりして焦る僕に、殿下は微笑む。
「……そう焦るな……コーインクルリズのことを考えていたのか?」
「…………はい…………会議が開そうで、よかったと思って……」
「そうだな…………」
あれ……? ロティンウィース殿下……少し、いつもと違う……なんだか寂しそうだ。
「あの…………殿下……?」
「ん……?」
「ど、どうかされましたか……? な、なんだか寂しそうです……」
「……そんなことはない……ただ……」
「ただ?」
「…………そばにいられなくて、悪かったな……」
彼は、そう言って俯いてしまう。
もしかして……ずっと、そんなことを考えて、そんな顔をしているのか?
彼は今でも、僕のことをしょっちゅう心配する。僕は全く怪我なんかもしていないのに、ぎゅっと抱きしめては、回復の魔法をかけようとする。
そして、その度に「遅くなって悪かったな」って言う。
遅くなんかない。ずっと待っていたところに、ちゃんと殿下は来てくれたのに。
「殿下……」
「……? どうした? トルフィレ」
そう言って、殿下は僕に振り向く。いつもと変わらないふりをしているけど、ちょっと寂しそう。
そんな顔、させたくない。殿下は僕の何より大事な人だ。
「あ、あのっ……ぼ、僕はっ…………! 領地も王都も大事にしている殿下が好きですっ…………僕のところに、こうして来てくれた殿下のことも………………あ、あのっ……き、今日は…………あのっ……王都から、帰って来てくれて……あの、あの……ほ、本当に嬉しくて……あ、ありがとう…………ございます……」
「トルフィレ…………」
彼は、しばらく黙っていた。
もう少し、上手く言えればいいのにーーーー! 王都から来てくれたのだって、結構無理したはずだ。
だから、もっとありがとうって伝えたいのにっ……!!
全然上手く言えない……
そもそも、こんなふうに人を好きになることとか、好きな人と歩くこととか…………全部初めてなんだ。
もう日が沈んでいて、あたりは暗い。この辺りは、いつも人通りも少ないんだ。
殿下と二人でいて、二人で見つめあっているだけなのに、緊張する。
も、もう無理っ……だけど…………目を逸らすこともしたくないっ……!
なんか言え! 僕!!
なんか……こう、上手く気持ちを伝えることを…………
だけど何も思いつかない。
焦るばかりの僕に殿下は微笑んで、手を握ってくれる。
別に何かを話したわけじゃないけど、こうしていると、二人でここを守っていけそうな気がしてくる。
手を握られて、こんなふうに誰かに手を引かれて歩くのも、僕……殿下が初めてかも……
無理やり腕を掴まれて地下牢に放り込まれることは日常だったけど。
殿下とこうして歩くのは好き。だけど最近、こうするとやけに心臓が高鳴って困ることが多い。
やっぱり、なんか話そう。そうじゃないと、緊張でますます慌ててしまうっ…………! 一人でこんなふうに慌ててるせいで、言動もなんだか変だ……
殿下にそんなところを見せたくない! だって、好きな人の前だ。
「あ、えっと………………あ、あのっ……明日は、コーインクルリズ様の谷の方の森を見ておこうと思うんです…………盗賊たちの件もあるし、街道の方に行くことが多かったから……」
……こんなこと考えながらするような話題じゃない気がするけど…………だけど、領地のことも大事で、僕の頭は領地のことと殿下のことでいっぱい。
何より、ここを殿下と二人で守れるのが嬉しい。大切な人と、大切な場所を守れるなんて。
「その……向こうのほうの様子を見ておきたくて……」
「そうだな……ヴォーヤジュとの街道の視察の用意もある……その前に、少し飛んで行くか……」
「は、はい!!」
「フーウォトッグには、書簡の方を頼もう。盗賊対策のために、警備隊の方にはアンソルラを向かわせる」
「え………………?」
「……? どうした? トルフィレ」
「ま、待ってくださいっ……!! それでは、殿下の護衛は誰がするのです?」
僕が慌ててたずねると、殿下は面食らったようだったけど、すぐに僕に微笑んだ。
「森の中の状態は今は安定している。俺より、ここに戦力を残した方がいい。それに、今は道の警備の方に人手を割くべきじゃないか?」
「それは…………分かっています。だけど……」
「それに、俺が殿下だというなら、トルフィレは、この領地の唯一の領主だ。俺は王子だが、王座を継ぐには、兄上がいる」
「……殿下っっ!!!!」
つい、叫んでしまった。突然静かな街に僕の声が響いて、ロティンウィース殿下は驚いたみたい。
「な、なんだ……?」
「ロティンウィース殿下は……ぼ、僕の唯一の伴侶ですっっ……!! 僕のっ……大事な伴侶なのにっ……! 婚約だってしてますよね!?? それなのにっ……同じこと言ったら……怒りますからっっっっ!!!!」
「トルフィレ……」
つい、怒鳴るように言ってしまい、ロティンウィース殿下はひどく驚いたよう。目を丸くしていた。
「す……すまん……き……気をつける……」
殿下が、申し訳なさそうに言うから、僕も慌ててしまう。
「あっ……え、えっと……す、すみません!! 殿下は……領地のことを一番に考えてくれていたのにっ……! ぼ、僕っ……な、何て図々しいことをっっ……!! お、王子殿下に向かって……あの! あ、あのっ……そ、そそ、そうじゃなくて……あのっ……あ、えっと……僕はただっ…………で、殿下のことが大事で……あ! えっと……ご! ごめんっ……なさい! …………こ、声を張り上げたりして、申し訳ございませんでした……」
「……トルフィレ…………」
「……あ、あのっ……け、けれど、僕が殿下のことを……す、好きでっ……愛していることは、分かっていただきたくて…………だ!! だったら!!!! 殿下の護衛には、僕がつきます! 僕が、ロティンウィース様をお守りします!」
「トルフィレ…………」
これを言うのは久しぶり。この町で殿下に再会したばかりの頃、よく言ってたっけ……あの時は、殿下がここを助けに来てくれたんだと思った。
殿下が傭兵のふりをして、笑って僕に手を伸ばしてくれた時、僕、びっくりして、信じられなかったけど…………すごく嬉しかったんだ。いつか対峙して、一緒に戦った人が、目の前に現れて。
殿下……多分、あの時僕がどれだけ嬉しかったとか、分かってないんだろうな……
僕がどれだけ殿下のそばにいたいかも。
ロティンウィース殿下は、しばらく黙っていたけど、口元に手を当て、すぐに僕から顔を背けてしまう。
「頼りになる騎士だなっ…………」
あ、あれ!?? もしかして、笑われたっ……!?
確かに殿下の方が強いし、何言ってんだって思うかもしれないけど……
殿下は、また僕の手を強く握って歩き出す。だけど、いつもより少し手が熱いし、力も強い。
顔……あわせてくれないけど、いつもより、頬が赤い……?
なんでそんな顔…………
もしかして、照れてる!??
笑われたんじゃなくて!?
そんな顔されたら、僕の方が赤くなる。
顔を合わせてくれないのは、もしかして恥ずかしいのかな……どうしようっ……なんだか、可愛いっ…………
だけど、そんなこと考えてたら、もう僕の方が殿下の顔を見ていられない……
今度は僕が、絶対に殿下と顔を合わせなくて済むよう、俯いて歩いていた。
*番外編.その後の街の領主*完
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