全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

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番外編2.その日の夜の二人

68*ロティンウィース視点*可愛い


「トルフィレが、可愛い……」

 ベッドの上で、ゴロンと転がりながら俺が言うと、そばにいたフーウォトッグが、呆れたように言った。

「どうしたんですか? ……突然……」

 彼は、大量の書類を、テーブルに積んでいる。何も言わないが、暗に急かしているんだ。俺が王都の会議から勝手に帰って来たことを怒っているらしい。

 だが、それになんの問題がある。俺は、王都なんかどうでもいい。トルフィレのそばにいたい。

 それなのに……俺はあいつの領地の城の俺用の部屋にいて、トルフィレも多分、ここから少し離れたところにある、あいつの部屋にいるんだ。

 トルフィレのそばに行きたい。

「トルフィレが可愛いんだ…………あいつの部屋に行きたい……」
「……行けばいいではないですか。ちょうどいいです。明日の森の見回りの件と、街道近くの宿の視察と、ヴォーヤジュ様に送る書簡をお二人で確認して来てください」
「そもそも、なんで部屋が別々なんだ? 一緒でもいいじゃないか」
「殿下がそう提案なさったのでしょう? それより、こちらにもサインをお願いします。それと、魔法の道具の仕入れに関して、明日までに返事が欲しいとパーロルットから言われているのではなかったのですか?」
「仕方がないだろうっ……! トルフィレと夜に同じ部屋になんかいたらっ……絶対押し倒すっ……!」
「そんなことしてる暇があったら、サインをお願いします。武器の整備の頻度に関して、殿下かトルフィレ様の返事が欲しいと、キャドッデから相談が来ています。こちらの書類にも目を通してください」
「そもそも、まだトルフィレの寝巻き姿も見ていないっ……ずっと同じ城にいるのにっ……!! 部屋は別だし、風呂も別……俺は、夜もトルフィレに会いたい……」
「トルフィレ様より、コーインクルリズ様に会ってください」
「キスがしたい……」
「コーインクルリズ様とですか?」
「違うっっ!! トルフィレとだ!!」

 俺が怒鳴っても、フーウォトッグは全く驚きもせずに、むしろ冷たい目をしている。

「私の話を聞いてくれていたとは驚きです。何も聞いていないのかと思っていました」
「聞いてはいた……書類だな。今やる……」

 ぶつぶつ言いながら手を差し出すと、彼も俺に書類を突き出す。

「そもそも、お前の方が俺の話を聞いていなかったんだろう……」
「聞いてはいました。返事をする必要があるとは思えなかっただけです」
「お前っ……!! それはひどいだろうっ!! 俺は悩んでいるんだ……トルフィレと……キスがしたい…………」

 すると、俺のベッドの上で小さな竜の姿になり、ずっと武器をいじり回していたアンソルラが顔を上げた。

「すればいいだろ。部屋も、一緒にすればいいじゃないか。それで、さっさと押し倒す!! 毎晩ヤれば欲求不満もおさまるだろ」

 すると、それを聞いたフーウォトッグが、彼を怒鳴りつける。

「何を言っているのです!! いきなりそんなことをしたら、トルフィレ様を怖がらせてしまいます!!」
「ああ?? なんだよ!! トルフィレだってやりたいと思ってるに決まってるだろ!!」

 また二人が言い争いを始めてしまった……この二人はいつもこうだ。

 しかし、今はこの二人にすら見せつけられているような気がしてしまう。二人はしょっちゅう一緒にいる。それなのに、俺とトルフィレは寝室すら別……

 提案したのは確かに俺の方だ。トルフィレと同じ部屋になどいたら、我慢は一切できない。

 トルフィレは俺を愛してくれているが、だからといって……

「どこまでならしていいんだ…………」

 呟いて、俺は頭を抱える。

 キスしたい。婚約だけではなく、結婚だって、今すぐしたい。

 しかし、トルフィレはまだ領主になったばかりで、俺も領主として領地を守った経験はない。
 トルフィレと二人でこの地を守っていくと決めているが、二人とも、領主としての経験は浅い。

 魔物は放置され、敵に対して無防備な状態だった領地を立て直すことが何より優先されるべきで、婚約はしたが、婚姻を結ぶことは後回しになっている。

 だが、そろそろいいんじゃないか……? 領地は安定して来たし。

 そう思ったが、トルフィレの頭の中は、領地のことばかりだ。
 そして、民を思い、領地を守るトルフィレが、俺は好きなんだ。

 しかし……

「もう……トルフィレと会って長いじゃないか…………関係を進めたいんだ……もっと…………触れてみたいじゃないか……」

 俺が言うと、フーウォトッグは呆れたように言う。

「しょっちゅう触れているじゃないですか。こちらが見ていて恥ずかしくなるくらいに」
「…………そうじゃない……」

 最近、トルフィレといると、我慢ができなくなりそうになる。

 二人で城に帰る最中も、まずかったんだ。

 二人で並んで歩いているだけで、手を繋ぐだけでは足りなくなるし、見上げられて、「殿下は僕の伴侶です!」と言われた時には、すぐにキスしてしまいたくなった。

 二人で領地の話をしている時も、会議に出ている時も、ただ食事をしているだけでも、もっと触れていたくなる。

 トルフィレは気づいていないだろう。俺がこんなことばかり考えていることに。ともすれば、誤解されてしまっているかもしれない。今日は彼のことばかり考えて、少し遠ざけてしまったような気がするからだ。

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