全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
76 / 96
番外編3.隣の領地で会議

76.俺を差し置いて!


 僕は、慌ててランクイズイル様とフーウォトッグ様の間に入った。

「おっ……お二人とも……落ち着いてください!! あの……それは、パーロルットさんが仕入れた魔法の道具なんですか?」

 ランクイズイル様に聞くと、彼は、面倒臭そうに答える。

「そうだよ……インチキくせー野郎だが、魔法の道具の仕入れに関しては、あいつが一番だ……最近、粗悪な魔法の道具も出回っている。信用できる奴からしか、仕入れないようにしているんだ」
「…………パーロルットさんを、信頼しているんですね……」
「……そうは言ってねーだろ…………ただ、あいつの腕なら信じられるってだけだ……特に、結界の魔法の道具なんかは、領地を守るためには不可欠だ。そんなもんを、よく知りもしねー奴から受け取れるわけねーだろ!! 普段、結界の道具の点検をしてるのは俺だから、確認に立ち会うように言われてんだ…………置いていかれたわけじゃねーぞ……」

 そうぼそっと、彼は俯いて言う。

 もしかして、ちょっと拗ねてる……??
 護衛なんだし、コーインクルリズ様には実力を認めてもらってるって言ってた。やっぱり、そばにいたいのかな……

 すると、それを聞いた殿下が、腕を組んで言った。

「それだけ重要なものだ。お前にしか任せられないと、コーインクルリズが判断したのだろう」
「は!!?? こ、コーインクルリズ様がか!!??」

 驚いたのか、彼は真っ赤になってそう言って、すぐに殿下から顔を背ける。

「…………な、何言ってんだ……お、お、俺がいつもやってるから、お、押し付けて行っただけだよ!! あいつは!!!!」

 怒鳴るように言っているわりに、ランクイズイル様、嬉しそう。魔法使いの人が持ってきたリストでさっと顔を隠して僕らに背を向けるけど、チラッと見えたその顔は赤くなっていて、ニコニコしていた。そして、周りの魔法使いたちに、指示を出している。

「……ほ、ほら……早く確認、終わらせるぞ……今日は結界の様子も見に行かなきゃならねーんだから……」

 言われて、すぐに返事をした魔法使いたちが、馬車から下ろされたものを確認している。魔法の道具が納品されたときは、一つ一つ、魔法で目当てのものか、不審な魔法がかけられていないか、全て確認しなきゃならないから、結構時間がかかるんだ。

 すると、木箱の中から、小さな剣のような魔法の道具を取り出した男が、「お忙しいようなら、ここは引き受けますよ」と言い出した。
 彼も魔法使いらしく、魔力を含んだ美しいローブを着ている。綺麗な長い金髪の男性で、ランクイズイル様に向かって、微笑んだ。

「それに、相手は仮にも、領主様と王子殿下。もう少し、弁えた方がよろしいのではないですか? 元冒険者のランクイズイル様」
「…………あ? うるせーよ……お前に言われたくねえ!! 失せろ!!」

 言われても、その人は肩をすくめただけ。

 誰かと思っていたら、フーウォトッグ様が小声で「あれはこの辺りで有名な商人のグリエイーレトです」って教えてくれた。

 ランクイズイル様は、その商人に帰れと冷たく言って、僕に振り向いた。

「お前らは会議室戻ってろ。休憩のための部屋を用意させるから……」
「休憩なら、さっきまでしてました!! そうじゃなくて、戦況を聞きたくて……く、苦戦してるようなら、僕たちがコーインクルリズ様の援軍に向かいたいんです!!」
「うるせーーーーっっ!! 絶対だめだ! ざけんなよっっ!! 俺を差し置いて!!!!」

 カッとなったのか、ランクイズル様は、怒鳴るように言う。

 行きたいんだ……援軍……

 ロティンウィース殿下が肩をすくめて言った。

「そんなに行きたいくらいに、魔物は強力なのか?」
「……そういうわけじゃねーよ……コーインクルリズ様なら、どんな魔物でも簡単に倒せる!」
「……誇らしげだな……」
「当たり前だろ? コーインクルリズ様はすげー人なんだ! だが……魔物の数が多い。しかも、近くに小さな村だの谷だの岩山だのが多い場所に出たせいで、戦いづらいんだ」
「だ、だったら、僕らがお役に立てると思うんです!!」

 僕が口を挟むと、ランクイズいる様は、怖い目をして振り向く。

「だからって、俺が勝手に許可できるわけねーだろ!! だいたい、コーインクルリズ様は、援軍を嫌うんだ。足手まといが来るくらいなら、一人で戦いたいって、いつも言ってるからな……」

 すると今度は、フーウォトッグ様が肩をすくめて言った。

「しかし、戦いにくい場所に出たことは事実なのでしょう? 放っておいて、近くの村に潜まれてしまえば、さらに時間がかかります。何より、部隊が引いた後で潜んでいた魔物に村を襲われては、ひとたまりもないでしょう」
「……それは……分かっているが…………」

 難色を示すランクイズイルさんに、歩み寄ってきた人が言う。

「いいじゃないですかー…………ランクイズイル様」

 近づいてきたその人に振り向いたランクイズイル様は、かなり面倒くさそうに「なんの用だよ……テリラフイル……」って呟いていた。

 多分、魔法使いだろう。背は僕と同じくらい。真っ黒なローブを着て、頭にかぶっていた大きなフードを、僕らの前で後ろに下ろした。ショートカットのふわふわした藍色の髪の男の人で、大きな魔法の杖を持っている。そして、なんだか眠そうにあくびをしていた。

「……トルフィレ様は隣の領地を治める領主様で、そっちのロティンウィース殿下は、この国を統べる王家の方。あんまり待たせると…………えーっと…………疑われちゃう? かもしれません…………例えば、今日はもう会議開きたくないんじゃないか、みたいに…………」

 そう言って、テリラフイルさんは、僕らに振り向く。

 な、なんだか見透かされてるみたいで怖い……

 冷や汗を流す僕に、彼は無表情のまま言った。

「……確かに、コーインクルリズ様、気が重いって言ってましたけど…………」
「えっ……!???」

 つい、びっくりして声を上げてしまった。

 そ、そんなに気が重いのか!? 僕と会議、開きたくなかったのか!?

 青い顔で慌てだす僕に、アンソルラ様が言った。

「そんな顔すんなよ! トルフィレだって、会議の前、ガタガタ震えてたじゃねーか!」
「そ、それは……そうですけど…………」

 つい、持ってきた書類をぎゅっと握ってしまう僕に、テリラフイル様が言う。

「トルフィレ様って、領地に出た巨大な毒の魔物も退けたんですよね? ……こちらとしても、あなた方が向かってくださるのなら……心強いです……魔物がたくさん出ちゃってー……困ってたんです…………よければ……向かっていただけますか?」
「は、はい!! もちろんです!!」
「では、ぜひ、援軍、お願いします……えーっと……南の……北かな? 東……西かも……の森の入り口に、砦があります。そちらへ向かってください」
「…………えっと………………す、すみません……どこですか?」
「ランクイズイルの使い魔が案内します……本当は彼に行ってもらいたいんですけど……コーインクルリズ様の留守中は、ここを守らないといけないので……」

 彼がそう言うと、ランクイズイル様が、「俺も行く!」って言い出した。荷物の確認はもう終わったみたいだ。

 だけどテリラフイルさんは「まだ他にすることがあるでしょ」って言って彼を宥めてから、僕に振り向いた。

「ここもこんな風なので……案内は、使い魔で勘弁してください」
「は、はい!」
「あー……でも、案内っていっても、コーインクルリズ様のところまで案内できるわけじゃないんで……森の中歩いて探してみてください」
「え!!??」
「……だって、コーインクルリズ様、一人で魔物倒して先に行っちゃうから。俺一人の方がやりやすいーって言って…………今朝は森の方に向かったみたいなんですけどー……もしかしたら……すでに発たれているかもしれません」
「…………わ、分かりました…………」
「……えーーっと……あ、これ…………魔物が出た辺りの地図……渡すんで、行ってみてください……こっちも人手不足なので、護衛なんかは出せないけど……代わりに……僕の使い魔をつけます。ご容赦いただけますか?」
「はいっっ!! 任せてください!!」

 僕が答えると、彼はちょっと驚いて、殿下の方に振り向いた。

「……殿下も……それでよろしいでしょうか……監視みたいな真似しちゃうことになりますけど……」
「もちろんだ!! お前らの事情は分かっている! 領主がいない間に何かあったら大変だからな。警戒するのも分かる!」
「すみません……」
「気にするな! 魔物なんか、俺に任せておけ!!」
「……そうですか……では、お願いします……」

 それを、ランクイズイル様がうらやましそうに見ていた。

「ちっ……なんだよ……お前らばっかり…………」
「え?」

 振り向くと、彼はまたさっと顔を背ける。

 僕は、恐る恐る彼に話しかけた。

「あの……もしかして、ランクイズイル様も、コーインクルリズ様と話したいんですか?」
「……悪いかよ…………あ、言っとくけど、護衛としてだからな! 護衛として、あいつの安全について話したいだけだ! だけど……あいつ忙しいし、最近俺のこと置いてくし……」
「……え、えっと…………だ、だったら、使い魔を通じて話せばいいんです!! こ、この前の誘拐事件のことも聞きたいし…………あの……襲われていた魔法使いさんは……」
「あいつなら、すっかり回復して、また森を守ってくれてる。あの時は、世話になったな……」
「い、いえ……それならよかった……あ! と、盗賊たちは、いつ引き渡せばいいでしょう……?」
「あー……それか……おい! テリラフイル!! どーすんだ?」

 ランクイズイル様が聞くと、テリラフイル様が「えーっと……」って、少し考えて話し出した。

「それなら…………いずれ、こちらから使いを送ります。ご協力……本当に感謝しています……それにまた迷惑かけちゃったみたいで……すみません…………」

 彼がそう言うと、ランクイズイル様もそっぽを向いて言う。

「…………悪かったな…………コーインクルリズ様のこと、頼んだぞ」

 すると、彼の背後で、テリラフイル様がぼそっと呟く。

「トルフィレ様にそれを頼んでどうするんですか。バーカ」

 それに腹を立てたのか、ランクイズイル様は、テリラフイル様に掴みかかった。

「誰がバカだ!! てめえ!」
「ら、ランクイズイル様! や、やめてください!!」

 慌ててまた止めに入る僕。

 ランクイズイル様は怒っちゃって止まらないし、テリラフイル様は「えー……なんでキレてるんですかー……」ってのんびり言ってるし、どうしよう……周りにいた魔法使いさんたちは、慣れているのか誰も止めずに「またやってる」って言っていた。

あなたにおすすめの小説

義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。

竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。 あれこれめんどくさいです。 学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。 冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。 主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。 全てを知って後悔するのは…。 ☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです! ☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。 囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます

ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。 しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。 ——このままじゃ、王太子に処刑される。 前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。 中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。 囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。 ところが動くほど状況は悪化していく。 レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、 カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、 隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。 しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。 周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり—— 自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。 誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う—— ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。

めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。 その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。 ⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる ⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない ※全四話、予約投稿済み。 本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。 ※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。