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番外編3.隣の領地で会議
76.俺を差し置いて!
僕は、慌ててランクイズイル様とフーウォトッグ様の間に入った。
「おっ……お二人とも……落ち着いてください!! あの……それは、パーロルットさんが仕入れた魔法の道具なんですか?」
ランクイズイル様に聞くと、彼は、面倒臭そうに答える。
「そうだよ……インチキくせー野郎だが、魔法の道具の仕入れに関しては、あいつが一番だ……最近、粗悪な魔法の道具も出回っている。信用できる奴からしか、仕入れないようにしているんだ」
「…………パーロルットさんを、信頼しているんですね……」
「……そうは言ってねーだろ…………ただ、あいつの腕なら信じられるってだけだ……特に、結界の魔法の道具なんかは、領地を守るためには不可欠だ。そんなもんを、よく知りもしねー奴から受け取れるわけねーだろ!! 普段、結界の道具の点検をしてるのは俺だから、確認に立ち会うように言われてんだ…………置いていかれたわけじゃねーぞ……」
そうぼそっと、彼は俯いて言う。
もしかして、ちょっと拗ねてる……??
護衛なんだし、コーインクルリズ様には実力を認めてもらってるって言ってた。やっぱり、そばにいたいのかな……
すると、それを聞いた殿下が、腕を組んで言った。
「それだけ重要なものだ。お前にしか任せられないと、コーインクルリズが判断したのだろう」
「は!!?? こ、コーインクルリズ様がか!!??」
驚いたのか、彼は真っ赤になってそう言って、すぐに殿下から顔を背ける。
「…………な、何言ってんだ……お、お、俺がいつもやってるから、お、押し付けて行っただけだよ!! あいつは!!!!」
怒鳴るように言っているわりに、ランクイズイル様、嬉しそう。魔法使いの人が持ってきたリストでさっと顔を隠して僕らに背を向けるけど、チラッと見えたその顔は赤くなっていて、ニコニコしていた。そして、周りの魔法使いたちに、指示を出している。
「……ほ、ほら……早く確認、終わらせるぞ……今日は結界の様子も見に行かなきゃならねーんだから……」
言われて、すぐに返事をした魔法使いたちが、馬車から下ろされたものを確認している。魔法の道具が納品されたときは、一つ一つ、魔法で目当てのものか、不審な魔法がかけられていないか、全て確認しなきゃならないから、結構時間がかかるんだ。
すると、木箱の中から、小さな剣のような魔法の道具を取り出した男が、「お忙しいようなら、ここは引き受けますよ」と言い出した。
彼も魔法使いらしく、魔力を含んだ美しいローブを着ている。綺麗な長い金髪の男性で、ランクイズイル様に向かって、微笑んだ。
「それに、相手は仮にも、領主様と王子殿下。もう少し、弁えた方がよろしいのではないですか? 元冒険者のランクイズイル様」
「…………あ? うるせーよ……お前に言われたくねえ!! 失せろ!!」
言われても、その人は肩をすくめただけ。
誰かと思っていたら、フーウォトッグ様が小声で「あれはこの辺りで有名な商人のグリエイーレトです」って教えてくれた。
ランクイズイル様は、その商人に帰れと冷たく言って、僕に振り向いた。
「お前らは会議室戻ってろ。休憩のための部屋を用意させるから……」
「休憩なら、さっきまでしてました!! そうじゃなくて、戦況を聞きたくて……く、苦戦してるようなら、僕たちがコーインクルリズ様の援軍に向かいたいんです!!」
「うるせーーーーっっ!! 絶対だめだ! ざけんなよっっ!! 俺を差し置いて!!!!」
カッとなったのか、ランクイズル様は、怒鳴るように言う。
行きたいんだ……援軍……
ロティンウィース殿下が肩をすくめて言った。
「そんなに行きたいくらいに、魔物は強力なのか?」
「……そういうわけじゃねーよ……コーインクルリズ様なら、どんな魔物でも簡単に倒せる!」
「……誇らしげだな……」
「当たり前だろ? コーインクルリズ様はすげー人なんだ! だが……魔物の数が多い。しかも、近くに小さな村だの谷だの岩山だのが多い場所に出たせいで、戦いづらいんだ」
「だ、だったら、僕らがお役に立てると思うんです!!」
僕が口を挟むと、ランクイズいる様は、怖い目をして振り向く。
「だからって、俺が勝手に許可できるわけねーだろ!! だいたい、コーインクルリズ様は、援軍を嫌うんだ。足手まといが来るくらいなら、一人で戦いたいって、いつも言ってるからな……」
すると今度は、フーウォトッグ様が肩をすくめて言った。
「しかし、戦いにくい場所に出たことは事実なのでしょう? 放っておいて、近くの村に潜まれてしまえば、さらに時間がかかります。何より、部隊が引いた後で潜んでいた魔物に村を襲われては、ひとたまりもないでしょう」
「……それは……分かっているが…………」
難色を示すランクイズイルさんに、歩み寄ってきた人が言う。
「いいじゃないですかー…………ランクイズイル様」
近づいてきたその人に振り向いたランクイズイル様は、かなり面倒くさそうに「なんの用だよ……テリラフイル……」って呟いていた。
多分、魔法使いだろう。背は僕と同じくらい。真っ黒なローブを着て、頭にかぶっていた大きなフードを、僕らの前で後ろに下ろした。ショートカットのふわふわした藍色の髪の男の人で、大きな魔法の杖を持っている。そして、なんだか眠そうにあくびをしていた。
「……トルフィレ様は隣の領地を治める領主様で、そっちのロティンウィース殿下は、この国を統べる王家の方。あんまり待たせると…………えーっと…………疑われちゃう? かもしれません…………例えば、今日はもう会議開きたくないんじゃないか、みたいに…………」
そう言って、テリラフイルさんは、僕らに振り向く。
な、なんだか見透かされてるみたいで怖い……
冷や汗を流す僕に、彼は無表情のまま言った。
「……確かに、コーインクルリズ様、気が重いって言ってましたけど…………」
「えっ……!???」
つい、びっくりして声を上げてしまった。
そ、そんなに気が重いのか!? 僕と会議、開きたくなかったのか!?
青い顔で慌てだす僕に、アンソルラ様が言った。
「そんな顔すんなよ! トルフィレだって、会議の前、ガタガタ震えてたじゃねーか!」
「そ、それは……そうですけど…………」
つい、持ってきた書類をぎゅっと握ってしまう僕に、テリラフイル様が言う。
「トルフィレ様って、領地に出た巨大な毒の魔物も退けたんですよね? ……こちらとしても、あなた方が向かってくださるのなら……心強いです……魔物がたくさん出ちゃってー……困ってたんです…………よければ……向かっていただけますか?」
「は、はい!! もちろんです!!」
「では、ぜひ、援軍、お願いします……えーっと……南の……北かな? 東……西かも……の森の入り口に、砦があります。そちらへ向かってください」
「…………えっと………………す、すみません……どこですか?」
「ランクイズイルの使い魔が案内します……本当は彼に行ってもらいたいんですけど……コーインクルリズ様の留守中は、ここを守らないといけないので……」
彼がそう言うと、ランクイズイル様が、「俺も行く!」って言い出した。荷物の確認はもう終わったみたいだ。
だけどテリラフイルさんは「まだ他にすることがあるでしょ」って言って彼を宥めてから、僕に振り向いた。
「ここもこんな風なので……案内は、使い魔で勘弁してください」
「は、はい!」
「あー……でも、案内っていっても、コーインクルリズ様のところまで案内できるわけじゃないんで……森の中歩いて探してみてください」
「え!!??」
「……だって、コーインクルリズ様、一人で魔物倒して先に行っちゃうから。俺一人の方がやりやすいーって言って…………今朝は森の方に向かったみたいなんですけどー……もしかしたら……すでに発たれているかもしれません」
「…………わ、分かりました…………」
「……えーーっと……あ、これ…………魔物が出た辺りの地図……渡すんで、行ってみてください……こっちも人手不足なので、護衛なんかは出せないけど……代わりに……僕の使い魔をつけます。ご容赦いただけますか?」
「はいっっ!! 任せてください!!」
僕が答えると、彼はちょっと驚いて、殿下の方に振り向いた。
「……殿下も……それでよろしいでしょうか……監視みたいな真似しちゃうことになりますけど……」
「もちろんだ!! お前らの事情は分かっている! 領主がいない間に何かあったら大変だからな。警戒するのも分かる!」
「すみません……」
「気にするな! 魔物なんか、俺に任せておけ!!」
「……そうですか……では、お願いします……」
それを、ランクイズイル様がうらやましそうに見ていた。
「ちっ……なんだよ……お前らばっかり…………」
「え?」
振り向くと、彼はまたさっと顔を背ける。
僕は、恐る恐る彼に話しかけた。
「あの……もしかして、ランクイズイル様も、コーインクルリズ様と話したいんですか?」
「……悪いかよ…………あ、言っとくけど、護衛としてだからな! 護衛として、あいつの安全について話したいだけだ! だけど……あいつ忙しいし、最近俺のこと置いてくし……」
「……え、えっと…………だ、だったら、使い魔を通じて話せばいいんです!! こ、この前の誘拐事件のことも聞きたいし…………あの……襲われていた魔法使いさんは……」
「あいつなら、すっかり回復して、また森を守ってくれてる。あの時は、世話になったな……」
「い、いえ……それならよかった……あ! と、盗賊たちは、いつ引き渡せばいいでしょう……?」
「あー……それか……おい! テリラフイル!! どーすんだ?」
ランクイズイル様が聞くと、テリラフイル様が「えーっと……」って、少し考えて話し出した。
「それなら…………いずれ、こちらから使いを送ります。ご協力……本当に感謝しています……それにまた迷惑かけちゃったみたいで……すみません…………」
彼がそう言うと、ランクイズイル様もそっぽを向いて言う。
「…………悪かったな…………コーインクルリズ様のこと、頼んだぞ」
すると、彼の背後で、テリラフイル様がぼそっと呟く。
「トルフィレ様にそれを頼んでどうするんですか。バーカ」
それに腹を立てたのか、ランクイズイル様は、テリラフイル様に掴みかかった。
「誰がバカだ!! てめえ!」
「ら、ランクイズイル様! や、やめてください!!」
慌ててまた止めに入る僕。
ランクイズイル様は怒っちゃって止まらないし、テリラフイル様は「えー……なんでキレてるんですかー……」ってのんびり言ってるし、どうしよう……周りにいた魔法使いさんたちは、慣れているのか誰も止めずに「またやってる」って言っていた。
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