全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

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番外編3.隣の領地で会議

81.何がなんでも


 テアティリルさんは、どこか怯えているようで、僕は彼に向かって、そっと口を開いた。

「……テアティリルさん……僕たちは、コーインクルリズ様の手先なんかじゃありません……そもそも、まだコーインクルリズ様が本当にあなた方を有無をも言わせずに処罰しようとしていると決まった訳でもありません。で、ですから……まずは、落ち着いて状況を確かめてみませんか……?」
「…………確かにお前の言うとおり……討伐の命令が本物だったって、俺は証明できるわけじゃない……だ、だけどっ……コーインクルリズは、俺たちを殺す気だ! だって…………その……」

 彼は、言いにくそうに俯いてしまう。けれど、ついに決心したのか、悲痛な面持ちで叫んだ。

「お、俺たちってことになってるんだよっっ!! コーインクルリズを暗殺しようとした犯人!!」
「……犯人っ……? あ、暗殺っっ!!?? ……それって…………こ、コーインクルリズ様の暗殺未遂事件のことですか!?」

 びっくりして僕が聞くと、テアティリルさんは悔しそうに続ける。

「……そうだよ……俺たちは商人に雇われて、領主たちに武器や魔法の道具を運ぶ奴らの護衛をする仕事をしていたんだ。領主が魔物退治に行くときは、魔法の道具の運搬の護衛をよくしてたし、俺らだって、領主の力になれて嬉しかったのに…………だけど……コーインクルリズが巨大な魔物と戦っている時に道具を運ぶ途中、魔物に襲われて、囮として使われたんだ」
「囮って……」
「俺たちが魔物と戦ってる間に、領主の側近と商人だけが貴族の魔法使いの護衛連れて逃げたんだよ…………置き去りにされた俺たちは、魔物を振り切って、必死に逃げた……逃げ切ることはできたが、全員負傷して、それ以上戦える状態じゃなかったんだ。それで、なんとか領主のところまで行って、助けてもらおうとしたら…………お、俺たちが領主を暗殺しようとしたって、それがバレそうになって逃げたんだって言われて…………領主の側近って奴らが俺たちに兵を差し向けてきたんだよ。だからここまで逃げてきたんだ……街に戻りたくても、領主が怖くて戻れないし、俺たちを雇っていた商人も、俺たちが犯人だって言ってるみたいだし………………領主もそれを信じ込んでるんだっっ!! だから、俺たちを殺す気なんだ!!」

 叫ぶ彼は、ひどく怯えているようだった。

 すると、フーウォトッグ様が、僕の腕に飛びついてくる。

「わっ……え…………ふ、フーグ?」
「完全に、嵌められてますね」

 そう言って、フーウォトッグ様は、僕の腕の中でテアティリルさんを見上げた。

 突然猫が飛びついてきて、テアティリルさんも、びっくりしたようだけど、少し恐怖は紛れたみたい。

「その猫……なんなんだ? トルフィレの仲間か?」
「私のことより、あなた方、すっかり嵌められてますよ。その商人に」
「そ、そんなことっ……分かってるよ」
「囮にされ、無実の罪を着せられただけではありません。その商人にしてみれば、あなた方が囮になって死んでくれれば、無事に荷物を運べますし、報酬も支払わなくていい。あとは、魔物による殺戮、そうでなければ、領主による処刑で、口封じをする……あなた方に渡した、粗悪な武器や魔法の道具は、どちらも行われなかった時のための保険であり、あなた方の戦力を裂き、魔物か領主に殺されやすくするためのものでしょう」
「なっ……なんだよそれっ…………くそっっ……!!」
「その商人というのは、領主コーインクルリズ様の城にいた、あのグリエイーレトですか?」
「……な、なんで知ってるんだ?」
「城の中で、領主の側近二人とお話しされていましたから」

 フーウォトッグ様はそう言うと、木の上に留まっていた使い魔の鳥を睨む。けれど、鳥たちはまた何か揉み合っていた。

 テアティリルさんが、僕に振り向く。

「とっ……トル!! そういうことだ…………だ、黙っててすまない…………! 領主の暗殺を企んだ犯人だろうって疑われて、突き出されることが怖かったんだ……」
「…………き、気にしないでください。そんなの、誰もが恐ろしいと思って当然です」
「そ、そうか!! だったら頼む!! トル!! ロウィス!! あと、猫と竜!!」

 彼は、ぎゅっと僕の手を握った。

「おっ……俺たちと一緒に! ここをっ……守ってくれないか!?」
「え…………?」
「俺たちは、ここで生きてるんだ……頼む! ここを守ることに協力してくれないか? 頼むっ……! 魔物を退ける戦力が足りないんだ!!」
「……テアティリルさん…………わ、分かりました! もちろんです!! ぼ、僕も、この森の重要性は理解しているつもりです!!」
「トル…………あ、ありがとう…………」

 彼は、感極まったのか、泣き出しそうだ。そんなに喜ばれるとは思わなかった……

 だけど、僕の隣にいたフーウォトッグ様が、くいっと僕の服を引っ張って、苦ーい顔で僕を見上げている。

 な、なに?? 僕、何か変なこと言っちゃった?

 テアティリルさんはますます僕の手を強く握る。

「そうか……トル! ありがとうっ…………今日は、領主が魔物退治に来ているんだ!! きっと、ここにも来るっ…………!!」
「へっ……?? あ、そ、それっ……!! 知ってます!! ぼ、僕も、本当は領主様にお会いしに来たんです!!」
「お前も…………? そうか…………だったらっ……俺たちと一緒に、領主と戦ってくれるな!?」
「………………………………え?」

 あ……あれ……??

 なんでいきなり戦う、なんて話になるんだ?

 魔物ならともかく……コーインクルリズ様は、討伐命令を出してないかもしれないってこと、分かってくれたんじゃなかったのか??

 それなのに、領主と戦う?? 僕は、会議に来たのに……

「たっっ……戦う!!?? こっ……コーインクルリズ様と!!??」

 僕がびっくりしてたずねると、テアティリルさんは、頷いた。

「もちろんだ。俺、言っただろ? コーインクルリズは俺たちを魔物と一緒に討伐する気なんだ!」
「ま、待ってください!! ぼ、僕の話も聞いてください!! 僕が力を貸すって言ったのは魔物のことで…………あ、あああの!! コーインクルリズ様が、あなた方を討伐しようとしてるって、決まった訳じゃないんです!! フーグもそう言ったじゃないですか!! あなた方は暗殺なんて、してないんですよね!?」
「当然だろ!! 俺たちは何もしてないっっ!!」
「だ、だったら……戦う必要なんて、ないじゃないですか!!」
「あるに決まってるだろ!! あの領主は、俺たちを暗殺犯だと思ってるんだ!! このままじゃ……俺たちは領主に処刑される!」
「そ、それだって、誤解を解けばいいんです!!」
「できるわけないだろ!!!! あの領主はいつだって、魔物と戦うことしか考えてないんだ!! 俺たちのことだって、殺しにくるに決まってる!!」
「お、落ち着きましょう!! まずは落ち着くべきです!! ま、まずは僕が、コーインクルリズ様に真意を聞いてみますから……」
「何言ってんだお前!! 領主がそんなこと聞いてくれるわけないだろ! お前はあの領主を知らないんだ!!!! 一騎当千だなんてもてはやされてるけど、あのバカみたいな威力の魔法で、あちこち吹き飛ばしてるんだぞ!! 領民に被害が出てないのが奇跡だっ…………あいつが来れば、みんな殺される!! あいつは、戦うことしか頭にないんだよ!! 話なんかっっっっ……聞いてくれるわけないだろっっ……!!」

 彼がそう叫んだら、あの会議室で背を向けられた時のことを思い出した。コーインクルリズ様に、そっけなく待っていろと言われ、置いていかれてしまった時のことだ。

「…………コーインクルリズ様は……」

 僕は、魔法で、この日のために用意した書類を呼び出した。コーインクルリズ様に、以前の盗賊騒動や街道のこと、この近くの魔物討伐のことも話し合うために用意したものだ。殿下にもフーウォトッグ様にもアンソルラ様にも、他のみんなにだって手伝ってもらって、来る日も来る日も、この日のために準備してきたんだ。

「……聞いて……もらいます……………………」

 ぼそっとつぶやいた僕に、テアティリルさんは訝しげな顔をする。

「……トル……? どうした?」
「聞いてもらいますっっっっ!! こ、コーインクルリズ様に聞く気がなくたって、き、聞いてもらえなくたって…………絶対に聞いてもらいますっっ!!!! だって、話し合うって言ってくれたのはコーインクルリズ様です!! そのためにっ……!! 僕はここにきたんです!!!!」

 勢いよく言った僕にびっくりしたのか、テアティリルさんは、目を丸くしている。

「な、なんのことだよ…………コーインクルリズ様が…………話し合い?」

 驚く彼に、僕は詰め寄って言った。

「こ、コーインクルリズ様は、ちゃんと会ってくれます!! だからっ……い、いきなり戦うなんて言わずに……ま、まずは、こっちが逆賊ではないと、コーインクルリズ様に分かってもらいましょう!!」
「……トル………………悪いが……それは絶対に無理だ」
「ぜ、絶対って……な、なんで絶対なんですかっ!?」
「今日、ここで大規模な討伐が行われる。この辺りの魔物を討伐しに、領主が来るんだ……それと同時に、俺たちのことも討伐する気なんだよっっ…………あの領主は!! だからもう遅いんだ!! 今日あいつは俺たちを殺しに来るんだよ!!」
「そんな…………」

 コーインクルリズ様が、討伐に行くって話は聞いている。
 テアティリルさんたちのことまでは聞いてないけど……あの時コーインクルリズ様はすぐに部屋を出て行っちゃったし、僕らに一から十まで全部説明してくれたりもしないだろう。

 だけど、だからってそんなことさせるもんか!!

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