全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

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番外編3.隣の領地で会議

82.そうなるために


 とにかく今は、テアティリルさんたちがコーインクルリズ様と衝突しないように説得しなきゃ。

「ま、待ってください! テアティリルさん!!」
「どう待つって言うんだよっ……!! 俺たちはもう何度かあいつの差し向けた部隊と交戦してるんだぞ!!」
「ぶ、部隊!? コーインクルリズ様の!?」
「ああ……その度に逃げてきたが、そのせいでコーインクルリズもむきになってる……今度こそ、俺たちは討伐されるっ……!」

 それを聞いて、フーウォトッグ様が「それも絶対、誰が差し向けたのか分かりませんよね?」って言い出した。

 すると、テアティリルさんは彼を怒鳴りつけてしまう。

「そんなことないっっ! 確かに、領主コーインクルリズ様のご命令でって言ったんだ!!」
「言うだけなら私にも言えます。例えば私が、実は領主から送られた使い魔だったと言ったら、あなた方は信じますか?」
「はっ……!??」

 突然そんなことを言われて、テアティリルさんはますます狼狽し始める。

「な、なんだよそれっっ……!! おっ……お前らっ……コーインクルリズのスパイだったのか!!??」

 ひどく焦った様子で言うテアティリルさんを見て、フーウォトッグ様は首を横に振る。

「……例えばの話です。落ち着いてください。あなたが混乱すると、あなたについてきた方々も混乱してしまいます」

 彼が回復したばかりのテアティリルさんの仲間たちに振り向くと、みんな、こっちの様子を不安そうに見つめている。みんな、彼のことを頼りにしているんだ。

 フーウォトッグ様は、ふうっとゆっくり息を吐いて言った。

「その、あなた方を襲ってきた方々は、領主の一族の旗などは掲げていましたか?」
「もちろんだ! それにっ……紋章だってっ……! 領主の家の紋章がついた杖や剣を持っていた!!」
「そうですか」

 そう言って、彼は木の上の使い魔の鳥たちに向き直る。

「やって見せますが、いいですね?」

 彼がたずねると、小鳥たちは頷いた。
 それを見たフーウォトッグ様は、彼らが留まる木に魔法の光を飛ばす。するとそこに、コーインクルリズ様の一族の紋章が現れた。

「はっ……!!?? な、なんだよあれっっ……!!」
「その程度のものなら、私にも作れると言うことです」

 驚くテアティリルさんに、フーウォトッグ様は平然と言って、すぐに紋章を消す。だけど、領主の一族の紋章の偽造なんて、重罪だ。

 僕は慌ててフーウォトッグ様を抱きかかえた。

「ふ、フーグっ……! まずいですよっ……!」
「領主の冤罪を晴らすためです。そこにいる小鳥たちも、問題ないと囀ってくれていました」

 そう言って、彼はテアティリルさんに振り向いた。

「討伐命令のときも、似たようなことが起こっていたのでしょう」
「そ、それはっ……確かにそうだが、危機が迫っていることは事実だ!! ほ、本当にっ……領主は俺たちを殺す気なんだ!!」

 切羽詰まった様子の彼は、僕に向き直る。

「だからっ……!! たっ……頼む!! トル!! 俺たちと一緒に戦ってくれ!!」
「待ってください!! そ、そんなっ……こ、困ります!!」
「……気持ちは分かる…………そんなことをしてしまえば、お前は俺たちと一緒に逆賊だもんな」
「ぎゃっっ……!???」

 逆賊!??? そんなものになっちゃうのか!?? 領主が逆賊なんてことになったら……まずいんじゃないのか?

 それでも、テアティリルさんは僕のことを仲間だと思ってくれているらしい。

「戸惑うのも……よくわかる! だがっ……頼む!! 俺だけじゃっ……!! もうみんなを守りきれないっ……トル!!!! 助けてくれ!!」

 彼は真っ青で、切羽詰まっているようだった。

「テアティリルさん…………」

 武人として名を馳せた領主を敵に回したと信じ込んで、ずっとみんなを守ってきたんだ……

 僕は、そっと彼の肩に手を置いた。

「……落ち着いてください。さ、さっき言ってたじゃないですか……僕らは、仲間になるべくしてなったんです!! このまま討伐なんて、させません!」
「トル……」

 彼が顔を上げたところで、背後で大きな爆発の音がした。木々が吹き飛び土が跳ね上がり、倒れた木々の山の向こう、崩れた岩の上に、一人の男が降り立つ。

 長い茶色の髪と魔法で強化されたマントが風に靡いている。その手には、夜を照らす強い魔法の光を纏わせた巨大な剣を握り、切っ先をこちらに向けていた。

 コーインクルリズ様だ…………

 彼は、崩れた岩が積み上がる山の上で宣言した。

「出てこいっっ!! 逆賊どもっっ……!! 俺はすぐに帰らなくてはならないっっ……!! 今すぐ出てこないなら、お前たちの頭ごと森を吹き飛ばすぞ!!」

 ……思いっきり殺す気で来てる…………

 巨大な剣には、魔力を注いでいるんだろう。鋭く輝き、炎のような魔力と風を纏っている。
 会議の前にフーウォトッグ様から渡された資料によれば、彼は剣を使い、威力を増幅させた魔法を使うらしい。

 すごい殺気を感じる…………今にも剣を振り回して、この辺り一帯を薙ぎ払ってしまいそうだ。

 テアティリルさんたちが怖がるわけだ。僕だって今すぐ命乞いしたくなりそう。

 けれどテアティリルさんは、厳しい目をしてコーインクルリズ様を睨みつけた。

「……横暴領主めっ……!! これ以上、俺たちの居場所をぶっ壊されてたまるか!!」

 彼は、僕の手をぎゅっと握る。

「いくぞ!! トル!!」
「ま、待ってください!! テアティリルさん!! まずは剣を収めてっ……!! あ、あのっ……あのっ! ち、ちょっと待って?!」

 慌てる僕を、テアティリルさんは強引に連れて行ってしまう。

 そして、コーインクルリズ様に向かって、声を張り上げた。

「やめろっっ!!!! コーインクルリズ!!」

 森に響き渡るようなその声に、コーインクルリズ様は振り向いた。

 そして、一瞬で人を震え上がらせてしまいそうな顔で笑う。

「貴様か…………逆賊のリーダーは……そんな戦力で、俺に勝てるとでも……」

 言いかけて、彼は僕がいることにも気づいたみたいだ。

「貴様……トルフィレ・ホーイル?」
「は、はい…………お、お久しぶりです!!」
「黙れっっ!! 何が久しぶりだ!! 貴様っ……そこで何をしている!?」

 こうなるよな……やっぱり……

 僕も、何が久しぶりだよ。もっと気の利いたこと言え。

 とにかく誤解を解かなきゃいけないのに、早速口下手な僕を、コーインクルリズ様は睨みつける。

「貴様っ………………逆賊のリーダーだったのか!!」
「は!? え!? ち、違うっ……違います!!」

 なんでそうなるんだ!! 僕、隣の領地から来たばかりなのに!

 けれど、コーインクルリズ様はその思い込みに余程の自信があるのか、恐ろしい目で僕を睨んで言った。

「何が違いますだ! そうしてそいつらを率いているではないか!!!!」
「率いてません! 僕は森でたまたま彼らに出会ったんです!」
「誰がそんな話を信じるか!! さては、会議だなどと見えすいた嘘をついて、逆賊を率いて俺の領地を潰しに来たな!?」
「なんでそうなるんですかっっ!!!!」

 こっちはこっちで思い込みが激しい……なんでいきなり逆賊を率いたなんて話になるんだ。あと、僕の話も聞いてくれ。

 僕は、力の限り叫んだ。

「全く違いますっ……!! なんでそうなるんですか!! 僕はっ……そんなことしませんっっ!! 本当に違います!!」
「黙れっっ……!! 魔法の道具を盗んでは貴様の領地に運んでいる輩がいるというのは、本当だったのか…………」
「は!?? なんですかそれ!! い、今初めて聞きましたよ!???」
「まさかそれを、領主自ら主導していたとは…………そのまま反乱軍でも率いるつもりだったのか!!」
「違います!! なんですか反乱軍って!! それに僕、魔法の道具なんて、知りません!! そんな話、初めて聞きました! ちゃんと会議で説明してください!!」

 今度は突然反乱軍にされた。僕らはテアティリルさんとその仲間を合わせても十数人だし、装備だってほとんどない。どこをどう見たらそう見えるんだ。

 けれど、コーインクルリズ様のそばにいた魔法使いが僕らを指差し、朗々と言った。

「知らないだなんて、白々しい! 調べはついている! この領地から、多くの強力な魔法の道具が、あなたの領地に向かっているはずだ! あなたが知らないはずがない!!」
「僕は、本当に知りません!!」

 焦る僕だけど、その魔法使いはやけに楽しそうに笑って、コーインクルリズ様に向き直る。

「やはり……彼らは敵です。あなたの命を狙ったのも、彼らで間違いありません!! 彼らはこの森を巣にしてあなたの命を脅かす逆賊です!!」

 なんなんだあいつ……多分貴族なんだろうけど。
 コーインクルリズ様も、僕の話はまるで聞いてくれないのに、なんであいつの話は聞くんだ。

 僕の肩に飛び乗ってきたフーウォトッグ様が、その男を睨んで言った。

「トル……」
「あの…………もうバレたし、トルフィレでいいですよ?」
「あそこにいる魔法使いは、グリエイーレトの回し者です」
「え……!?」
「以前の盗賊騒ぎの際、森のことを調べ上げたときに名前が出てきました。あれは、コーインクルリズ様の暗殺騒動で拘束された貴族の残党です。あれの後ろには、さらに糸を引いている貴族がいるはずです」
「そんな……」

 僕らは逆賊なんかじゃないし、そんなものになるつもりだってない。何より、テアティリルさんたちを傷付けさせるわけにはいかない。

 僕は、コーインクルリズ様に向かって声を張り上げた。

「……コーインクルリズ様!! 僕らは、本当にそんなものではありません!!」
「黙れっっ……!!」

 怒鳴る彼の周囲に光が湧いて、無数の弾になり僕らに襲いかかってくる。

 嘘だろっ……も、問答無用!?

 しかも、恐ろしいほどの魔力だ。あんなもの食らったら、僕らなんて一瞬で消し飛ぶ。

 本気で殺す気!??

 驚く僕の前に、殿下が降りてくる。そして強い結界を張った。
 それに阻まれて、コーインクルリズ様の魔法は弾け飛んで消えていく。

 コーインクルリズ様は、ひどく驚いたようだった。

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