全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

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番外編3.隣の領地で会議

86.今さらか?


 コーインクルリズ様は、まだ少し悩んでいるように見えた。
 少しの間黙って、僕に背を向ける。

「……貴様の街の結界は、恐ろしいほどに強固だと……ランクイズイルが言っていた……」
「……ら、ランクイズイル様が?」
「…………しばらくの間、それを預ける……必ず、守ってくれ……」
「は、はい! 任せてくださいっ……!!」

 僕は、道具を使い、結界を強化した。

 それを確認したコーインクルリズ様が、剣に魔法をかけて光を放つ。それは、暴風のように辺りを包んで使い魔たちを破壊して行く。

 強い光は、僕らの方にまで襲いかかってくる。激しい威力の魔法で、僕の腕の方が折れてしまいそう。

 なんて力…………これが、武人と名高いコーインクルリズ様の実力!?
 流れ弾でこの威力って…………どんな力だよ……もう怖いくらいだ……殿下がいなかったら、絶対に結界を維持できなかった。

 ここはコーインクルリズ様に任せて、僕らはテアティリルさんたちを守ることに終始していてよさそうだ。

 焼けるような光を湛えた剣を構え、コーインクルリズ様が、恐ろしい目をして、敵になった魔法使いたちに言う。

「…………投降しろ。すれば殺さない」

 言うが早いか、彼の魔法は辺りを薙ぎ払う。あれだけいた使い魔は周囲の木々や岩と共に暴風に切り裂かれ、粉々になって空から降ってきた。

 さっきまで使い魔たちを一匹ずつ切り裂いていたのは、やはり、こちらを庇っていたからなんだろう。

 多分……これでもまだ手加減してる。僕らの背後にあった砦は、まだ原型を保っているし、彼の剣の魔法の光は、僕らの前に降り立っていた時より弱い。きっとあの時、牽制のために剣に纏わせていた魔法の光の方が、彼の本当の実力に近いんだ。

 恐ろしい威力を前に、敵の魔法使いたちはすっかり戦意喪失。腰を抜かすか、武器を捨てて泣き出したりしている。

 けれど、コーインクルリズ様は、彼らにそれ以上手をあげる意思はないらしく、武器を下ろして魔法の光を消した。

 テアティリルさんたちも、みんな無事だ。

 僕は、回復の魔法の薬を取り出した。ここに来る前に、パーロルットさんが渡してくれたものだ。

 それを持って、コーインクルリズ様に駆け寄る。

「あのっ……! これっ……よければ使ってください。魔力を回復してくれます……」
「…………」
「……あっ……よ、余計なことかと思ったのですが…………ぼ、僕たちも、守っていただいたので……お、お礼です!!」
「…………」

 コーインクルリズ様は、しばらく黙って、僕から顔を背ける。
 余計なことをして、不快な思いをさせたかと思ったけど、瓶は受け取ってくれた。

「あっ……それとっ……! これっ……! 資料です!!」

 僕は彼に、新しい資料を差し出す。
 さっき僕が渡した資料を、コーインクルリズ様はもう持っていないようだった。あれだけの使い魔の大群を一人で破壊してくれている時に、そんなもの持っていられないだろう。でも、心配いらない!! コピーならたくさんあるんだ!

 けれど、資料を差し出す僕から、コーインクルリズ様は顔をそむけ俯いて、ため息をついた。

「しつこい男だ…………」
「しっ…………しつっ……しつこくったって構いません!! さっきお渡しした資料は、戦闘でどっか行っちゃったみたいだから…………だ、大丈夫です!! コピーしたもの、たくさんあります! コーインクルリズ様の城を埋め尽くせるくらいあります!!」
「……………………そんなに必要ない……」
「だ、だったらっ……必要な分だけ差し上げます!! どうか、目を通してください!!」

 頭を下げながら僕が言うと、彼は少し黙って、口を開いた。

「いらんと言っただろう」
「……でっ…………でもっ……!」
「そっちはテリラフイルにでも渡せ。俺はさっきもう受け取っている」

 懐から、何回も折り畳まれて小さくなった紙を取り出すコーインクルリズ様。彼がそれを広げていくと、それは確かに僕が渡した資料だ。

 小さく折って持っていてくれたんだっ……!!

「……コーインクルリズ様…………あ、ありがとうございます!」
「何がだ?」

 彼は、僕に背を向けて空を仰いだ。

 すでに辺りは白み始め、魔法の照明はもう必要なくなっている。

 それを見上げながらコーインクルリズ様は、小さな声でぼそっと言った。

「礼を言うのはこちらの方だ」
「…………え?」
「魔力の回復…………助かった。礼を言う…………」
「あっ…………い、いえ……あれは本当に……使い魔と戦ってくださったお礼なので……」
「…………敗北を感じた相手は……貴様が初めてかもな……」
「へ!!?? 僕、絶対に勝てませんよ!??」
「…………聞かなくていいっ……! 愚痴だ!!」

 そう言って、彼は僕に向き直る。

 その時の彼は、ひどく真剣な顔をしていて、僕も自然と背筋が伸びた。

「コーインクルリズ様…………」
「馬鹿な真似をして恥ずかしい思いだ。これまでの非礼を詫びたい……領主、トルフィレ……申し訳なかった」
「え…………? え!? そ、そんなっ……!!」
「…………俺も、あなたと話がしたい……」
「コーインクルリズ様っ…………」
「…………今さら遅いか?」
「いっ……いいえっ…………そ、そんなことっ……あ、ありがとうございます!! 感謝いたします!!」

 お礼を言うと、彼の表情が微かに綻んで、僕も肩の力が、少し抜けた。

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