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番外編3.隣の領地で会議
93.どっちも
ロティンウィース様は強く僕を抱きしめて、なんだか嬉しそう。
その顔を見ていると、僕は甘くてくすぐったくて、緊張するのに、ホッとする。こうしていていいんだって思える。
まだ、自分がここでこうしていていいのかと思うことはよくある。みんなが苦しんでいたのに、僕は何もできなかったのに、本当に、僕でいいのかって。
そんな、自分ごと消えたくなるような、恐ろしくて嫌な感情が、殿下にこうされていると、緩んでいく。
このままずっと、その腕の中に身を委ねていたくなるけど……
僕は、彼の腕を解いて、少し離れた。
いつもと違う僕の様子に、殿下は少し首を傾げる。
「……トルフィレ?」
僕は彼から離れたけど、それは、ほんの少しで、見上げればすぐそばに殿下がいる距離はそのまま。
それでも、殿下はもう、僕を強く引き寄せたりはしなかった。
僕が自分から離れたからだ……
僕のことを待っていてくれてる。ロティンウィース様は、いつもこう。僕がそうしたいと望めば、それを悟って叶えてくれる。だから僕はつい、それに甘えたくなる。
だけど、こうしてばかりなのは、嫌だ。
あの時、迎えにきてくれた殿下みたいになりたい。
「……あっ…………あ、あのっ…………殿下っ…………ぼ、僕……っ!! 領地だって、街や……街のみんなだって……すごく大切です!!」
「………………ああ、分かっている……トルフィレが、どんな思いで領主として働いているかも……分かっているつもりだ。だから俺は、トルフィレの力になりたいんだ!!」
そう言って、殿下は微笑んでくれる。
それが、何だか苦しく感じた。
コーインクルリズ様の領地の森でロティンウィース様が言ったこと、ずっと気になっていた。これでは拗ねたくもなるって。俺のトルフィレも俺には構ってくれないって……
僕には、ロティンウィース様だって、大切なのに。
「だけどっっ…………あ、あのっ……殿下のことだって、すごく…………た、大切でっ…………! 大切なんですっっっっ!!!!」
力の限り叫んだ。廊下に響いているのは分かっていたけど、勝手に声が出て、抑えることもできなかった。
だって今は、彼のことしか見えてない。
僕には、全部大事だ。領主として頑張ることも、街も、街のみんなも、僕のそばにいてくれる竜の部隊のみんなも、ロティンウィース様も。全部ないと、僕はどこかから崩れちゃうんだから、どれだって、大切にしなきゃならないんだ。
ずっとそうだったのに、彼はひどく驚いたような顔で、僕を見下ろしていた。大切って伝えただけで、そんな顔させちゃうなんて……
「だからっ…………あっ……あのっっ…………が、我慢なんて、することないんです…………僕は……殿下の……あの、は、は……伴侶……です、から…………」
恐る恐る言って、彼を見上げた。
彼は、頬を赤くしていた。
それを見たら、少しだけ気が大きくなった。
彼の肩に触れて、唇を近づける。不意打ちで肩を掴んで体重をかけたから、彼の体は僕に引き寄せられるように僕に近づいてくる。
差し出すように、唇を近づけた。
けれど、彼はそこで体を止めてしまう。そのまま身を委ねてくれれば、キスできたのに。
なんでっ……!? 今、拒絶された!?
だって僕は、殿下がキスをしたいのを我慢してるのかと思ったからっ……
いや……こんなの、下手な言い訳だ……
殿下がしたいから、じゃなくて、僕がキスしたかっただけだっ……!
殿下に近づきたくて、その身を、今度は僕に委ねてほしかっただけ。
「あっ……あのっ……」
嫌だと言われたような気がして、急に怖くなる。
も、もしかして、キスなんて、やっぱりしたくなくなっちゃったっ……!? まだ早い……ってこと!? それとも僕とはしたくない…………僕がこんな風だから、キスなんてしたくなくなった……とか…………そういうこと!?
焦る上に、勝手に悪い想像を続けて、もう動けなくなる僕。
すると、彼はそっと、僕の頬に触れてくれた。少し冷たいのに、触れられていたら暖かくなってきて、ますますドキドキした。
僕は、愛されることなんて知らなかった。だから、こうしてロティンウィース様と会えて、優しく触れてもらえるようになって、そっと包んでもらえて、こんなに嬉しい。
「…………トルフィレ……」
呼ばれて、身体がかすかに震えた。冷たくてもくすぐったいその手に導かれるように顔を上げたら、殿下の顔がすぐそばにあって、顔を背けようにも、そうすることができなくなってしまった。
「……嫌か?」
「……!」
愛おしげに言われて、何を聞かれているのかわかって、僕は首を横に振った。微かに首を動かした程度だったけど、それはちゃんと殿下に通じたみたい。
怖いくらいに心臓が高鳴って、目を閉じる。
視界が消えると、彼の唇が、そっと僕の唇を咥えるのが分かった。
初めて感じる柔らかくて優しい感触に包まれる。
ちゅって、優しい音がした。
大切に唇を吸われて、つい、腰が引けてしまいそうになる。
すると、腰に回った殿下の手が、僕を支えてくれた。
甘い音がして、何度も柔らかい唇で甘噛みされて、体が痺れてしまいそう。
立っていられなくなりそうなのに、彼はずっと僕を捕まえていて、動けない。
されるがままに唇を何度も咥えられて、抱き止められて、身体が蕩けて崩れちゃいそうだ。
力が抜けた唇が勝手に開いて、僕の中に、彼の舌が入ってきた。
愛してもらえるのはすごく嬉しいのに、僕は怯えて身を引こうとしてしまう。
彼は、簡単に僕が閉じていたはずのものを押し開けて、中に入ってきた。
触れてもらえて、もっとそばに行きたいのに、息が苦しい。熱が上がる。
反射的に逃げようとする僕を、殿下が離してくれるはずもなくて、強く抱き寄せられて、身を引くたびに、奥まで舌を押し込まれた。
「…………っ!!」
どうしていいかわからなくて、固まるばかりの舌に、彼が絡みついてくる。逆らうことができない。誰とも触れ合ったことがなかった場所を、彼のそれで丁寧に扱くようにされて、ぐちゃっと音がした。
力の抜けた僕を労わるように、彼はもう一度優しく唇で僕の唇に触れてくれた。
ずっとキスで呼吸できなかったからか、いつのまにか、涙が流れていた。それを、殿下が優しく拭ってくれる。
すっかり感覚を持っていかれたらしく、濡れた唇から物欲しげに涎みたいなものが落ちていくことにも、気づけない。指で触れられただけで、また身体が痺れそうだった。
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