全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

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番外編3.隣の領地で会議

96.見せつけて


 抱きしめられたまま見上げたら、僕の髪が殿下の体に触れて、微かに揺れた。

「で、殿下…………あ、あのっ……」
「ん…………? どうした?」
「……え……えっと…………あの……そ、そろそろ行かないと……」
「ああ……そうだったな…………着替えを手伝う」
「そっ……そんなっ…………! 僕は…………っっ!!??」

 戸惑う僕だけど、すでに殿下の手は僕を捕まえてしまっている。そのまま体を近づけられて、「着替えよう」なんて囁かれたら、すぐに体が蕩けてしまいそう。抵抗なんてできなくて、されるがまま部屋に連れていかれそうになっていたら、アンソルラ様が部屋に入ってきた。

「トルフィレー」
「わっっ……!!」
「なんだ? そんなに驚いて」
「……な、なんでもありません…………」
「着替えたかー? ヴォーヤジュが来てるぞー」
「え? ヴォーヤジュ様が?」

 慌てて殿下から離れようとしたけど、殿下に腕を掴まれてしまう。

「後で続きをするぞ」
「へっっ!??」

 慌てていたら、ドアの向こうから、ヴォーヤジュ様の声がした。

「……相変わらず、仲がいいな」

 彼は、ドアの向こうに立って微笑んでいる。誰の前でも殿下がこの調子なのはいつものことで、驚いたような様子はないけど、目のやり場に困っているようだった。

 彼には夜会の時間まで客間で待っていてもらっていたはずだ。
 どうしたんですかと聞くと、彼は心配そうに言った。

「……ここに、コーインクルリズが来ていないか? さっきまで客間にいたんだが、飛び出していってしまったんだ」
「こ、コーインクルリズ様がっ……!? た、大変だっ……探さなきゃ………………ここにはいらしていませんが……」

 すると、アンソルラ様がヴォーヤジュ様の肩にとまって言った。

「大丈夫だって。ランクイズイルたちが探しに行ったから。そろそろ来るだろ!」

 ちょうどその時、テリラフイル様とランクイズイル様に連れられて、コーインクルリズ様が歩いて来る。

「ほら! 着いたぞ!! トルフィレの部屋だ!!」

 ランクイズイル様にそう言われても、コーインクルリズ様は無言だったけど、どこかほっとしたような顔をしている。

 ヴォーヤジュ様も、安心したように言った。

「……コーインクルリズ……よかった……」

 すると、テリラフイル様が彼に「心配かけてすみません」と言って、コーインクルリズ様に振り向く。

「ほら、皆さん心配しますよって言ったじゃないですかーー」
「……うるさい…………トルフィレの部隊が持っていたのが、あの粗悪な魔法の道具に見えたから……確認に行っただけだ」
「そんなわけないでしょ。結局見間違いだったし、部隊の人も驚いていたじゃないですか。そういう時は、いなくならないで僕らに言って下さい。ランクイズイル様が、コーインクルリズ様がいないって喚くから、また迷ってるのかと思いました……」
「…………迷っていない……」

 そう答えながら、コーインクルリズ様はそっぽを向く。

 だけど、テリラフイル様やランクイズイル様が心配する気持ちも分かる。

 コーインクルリズ様、ヴォーヤジュ様の領地に行った時に、道に迷ったらしい。テリラフイル様とランクイズイル様が、城門で門番の人と話している間に、気づいたらいなくなっちゃっていたようだ。
 魔物の気配を感じて、それと戦いに行っていたらしいが、気づいたら領主がいなくなっていて、テリラフイル様たちは大慌て。ランクイズイル様なんか、大声でコーインクルリズ様を呼びながら町中を走り回り、ちょっとした騒ぎになったようだ。そのころコーインクルリズ様は魔物と戦っていただけで、ランクイズイル様が心配していると知って城に飛んで戻ってきたから、正確に言うと、道に迷っていたわけではないらしいんだけど、ランクイズイル様が「フラフラ歩くな! 迷子になるんだから!!」と怒鳴り、喧嘩になったせいで、隣の領主が迷子になっていたと、しばらく町で話題になったらしい。最近では、以前僕が助けた魔法使いの人やテアティリルさんたちが、ランクイズイル様の部隊として働くことになり、コーインクルリズ様の護衛についているようだ。

 コーインクルリズ様は、ひどく恥ずかしそう。ヴォーヤジュ様に向き直って言った。

「……急にいなくなって……すまない……本当に迷ってはいない……ここは何度も来ているからな」
「そ、そうか…………それならよかった。例の、出回った粗悪な魔法の武器や道具の件についても……助かった。こんなに早く解決できたのは、あなたとトルフィレの協力があったからだ」

 ヴォーヤジュ様は、そう言って微笑んでくれる。

 僕も改めてお礼を言うと、コーインクルリズ様は恥ずかしそうに顔を背けた。そして、僕とは目を合わせないように、ぼそっと言う。

「…………夜会の準備があるだろう……そろそろ失礼する…………」
「え!? ……は、はい……す、すみません……待たせてばかりで……」
「……いや。気にするな。この城にいるのは楽しい……今日は婚約を発表する日だろう? 胸を張っていればいい」
「は、はい…………あ、ありがとうございます……で、でもっ…………えっ……と……どちらかと言うと、街道の開通を祝うことがメインで……」

 すると、ヴォーヤジュ様は腕を組んで言った。

「トルフィレの婚約発表がメインに決まっているだろう。王族と、彼らに近い貴族たちも集まるそうじゃないか」
「う……」
「違うのか?」
「いいえ……こ、こんなにたくさんの貴族の方々を城に迎えるなんて、初めてで…………」

 は、話しながら、すごく緊張してきた……

 ぼ、僕の城に、多くの貴族が来る……ウェクトラテス殿下も、夕方にはここに着くらしい。

 だ、大丈夫かな……僕…………婚約の発表どころか、緊張のしすぎで何も話せなくなりそうだけど……

 そう思って俯く僕に、コーインクルリズ様が優しく言った。

「……落ち着け…………婚約、おめでとう」
「……こ、コーインクルリズ様……ありがとうございます……」

 どうしよう……すごく緊張してきたのに、嬉しい……

 僕だって、怖いって思いながらも嬉しかったんだ。ロティンウィース殿下に「婚約したい」って伝えてから、もうかなり経つ。だけど、こんな場は初めてだ。

 すると、ロティンウィース殿下が僕を引き寄せ抱きしめてくれた。

「存分に見ておけ! 俺の伴侶だと言うことをな!」
「で、殿下っ…………!!」

 またすぐにこういうことしてっ……! ますますドキドキするじゃないか。

 そこに、ウェクトラテス殿下の呆れたような声が聞こえた。

「ロティンウィース……お前はまた……何をしているんだ……」

 廊下を歩いて来たのは、護衛を従えたウェクトラテス殿下。
 僕もコーインクルリズ様もヴォーヤジュ様もすぐに挨拶をしたけど、殿下は少し笑って「そう固くならないでくれ。招いてくれてありがとう」と言った。

 ロティンウィース殿下が胸を張る。

「当然です。兄上にも思い知っていただきたかったので。トルフィレは俺の伴侶だと!」
「…………お前……少しは自覚しろ。この夜会には、多くの貴族たちが注目している。急速に発展している領地を治める三人の領主が集まる上に、王子の婚約も発表されるのだからな……トルフィレにばかり夢中になって、失礼のないようにしろよ」
「もちろん、俺はずっとトルフィレのそばにいます」
「…………トルフィレにばかりかまけているなと言っているんだ」
「ただでさえ、貴族たちがトルフィレに注目している今、この上紹介だなんて……トルフィレに手を出すような輩が出てきたらどうするのです?」
「……心配しなくても、そのような者は現れないと思うぞ。お前のその溺れぶりを知っていて、トルフィレに手を出そうなどという命知らずな者はいないだろう」
「当然です。トルフィレは、俺の伴侶ですから」

 言って彼は、僕を引き寄せる。

「せっかくの婚約発表の日だ。思いっきり見せつけてやらないとな……」
「ろ、ロウィス…………でも、あの……」

 言いながら見上げていたら、離れるつもりだったのに、そんなことできなくなる。殿下にばかり夢中になっているのは、僕も同じ。殿下は僕を抱き寄せてくれて、僕はされるがままに、彼に身を委ねた。


*番外編3.隣の領地で会議*完

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