極悪で役立たずな僕に責め苦を与えると脅迫した悪名高い公爵様が今日も僕に甘い。監禁されて迫られてるような気がするのなんて、きっと勘違いだ!

迷路を跳ぶ狐

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57.助けてくれて


 泣いている僕を強く抱きしめていた公爵様は、僕に回復の魔法をかけてくれた。

 自分の体を見下ろすと、もう怪我の跡なんてない。全ての傷が、すっかり塞がっていた。

 相変わらず、すごい……公爵様の回復の魔法。

「……もう……痛くないか?」
「…………い、痛くありません……」
「本当だろうな?」
「へっ……!? ……っ……!」

 回復はすぐに終わったのに、そっと頬に触れられて、なんだかこうして抱きしめられていることを意識してしまう。公爵様は回復の魔法がちゃんと効いたか確かめているだけなのに。

「あ、あのっ…………」
「回復が必要なら言え……黙っていたら容赦しない……ここで拷問してやる」
「んっ…………!」

 怖いこと言われてるのに……公爵様が切なそうな顔をしていて、僕を抱きとめる腕は、ひどく力強い。
 逆らったら酷いことされそうなのに、こうされていると、ますます胸が高鳴ってくる。
 鼓動の音で、自分が公爵様のことばかり意識していることを知って、なんだかもうこのままなんて、耐えられそうにない。
 だいたい、さっきまで逃げる途中だったじゃないか。

「……あ……あの……公爵様…………僕……みんなで逃げる途中でっ……」

 やっと周囲に振り向く僕。

 すると、すぐそばでポカンとして僕を見上げているリイルオンデラトとフェズールスと目があった。

 何してるんだ、僕は。
 公爵様の大切なものがバラバラになってしまったのを見て、パニックになって、みんなのことまで危険に晒してしまった。森へ逃げたみんなのことだって、助けなきゃ。

 けれど彼らには僕が怯えているように見えたのか、リイルオンデラトが、公爵様に平伏したまま震えながら口を開いた。

「……こ、公爵……こ、公爵閣下!! ど、どうか……トグディウトルを離してください……あの…………」
「り、リイルオンデラトっ…………!」

 彼の隣のフェズールスが、リイルオンデラトを止めている。彼はよほど怖いのか、真っ青だった。

 公爵様は、彼らに振り向いた。

「お前たち…………あの時、俺が解散した部隊の連中だな?」

 それを聞いて、二人ともビクッと体を震わせた。公爵様に咎められたと思ったんだろう。

「あ、あのっ…………お、俺たちは……か、閣下に逆らうつもりでここにいるわけでは……」

 リイルオンデラトが震えながら口を開いて、僕も慌てて公爵様に弁明を始めた。

「公爵様!! 違うんです!! 彼らは、無理矢理ここに連れてこられたんですっ……!! 彼らは何も悪くありません!! 僕に手を貸してくれて…………僕を助けてくれたんです!! みんな、盗まれた物を回収するのを手伝ってくれたんです!! ここにあるものがこんなことになったのは全部のせいです!! みんな、フィエイウル様に捕まってて、それでっ……あのっ…………み、みんな、逃げたばかりでっ…………ひどいことをされていてっ……あのっ……だからっ…………!」
「そうか…………」

 静かに言って、公爵様は、周囲で平伏しているみんなを見渡し、ライレトティロース様に向かって言った。

「全員保護しろ。ライレトティロース。回復の魔法をかけてやれ」
「承知しました! 兄上っっ!!」

 言って、ライレトティロース様の部隊が、怯えて立てなくなっているみんなの方に駆け寄っていく。

 そして、公爵様はフェズールスたちに振り向いた。
 彼らは小さな声で悲鳴をあげて、震えながら平伏してしまう。よほど恐ろしいのだろう。

 けれど公爵様は、優しく言った。

「……怯えるな…………トグディウトルを助けてくれて、ありがとう……」

 言われたことに驚いたのか、二人が顔を上げる。
 すぐに彼らのことを公爵様の回復の魔法が包んで、彼らの傷は癒えていった。
 二人はますます驚いていたけれど、リイルオンデラトがどこか遠慮がちに言う。

「感謝……いたします……」
「…………」

 公爵様は無言で顔を背けている。無表情でいるようだけど、少しだけ顔が綻んでいるようで、僕はそれがひどく嬉しかった。

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