極悪で役立たずな僕に責め苦を与えると脅迫した悪名高い公爵様が今日も僕に甘い。監禁されて迫られてるような気がするのなんて、きっと勘違いだ!

迷路を跳ぶ狐

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80.もしかして……聞かれた!?


 何度も肌を吸われて、いくつも跡ができていく。キスのあとができるたびに、僕の心臓は高鳴って、そろそろ限界だ。だけど、拘束されたまま必死に身を捩っても、それでは逃げるどころか足掻いて無様に悶える姿を見せてしまうだけだった。

「……んぁっ…………ぁっ……こ、公爵様っ…………!」
「いやらしい奴め…………煽っているのか?」
「そんなっ…………っっ!!」

 はだけたシャツに、公爵様が手をかける。これ以上されたら、ダメだ。だってもう下半身からたくさん熱が湧いて、すでに股間のあたりが辛い。馬車の中なのにっ……! 僕はどこまでいやらしいんだっ……!!
 公爵様の前で下半身を硬くして勃ててるなんて、知られたくないのに。

「あ、あのっ…………公爵様っ……」

 離れてって言う前に、公爵様の手が離れていく。それでも、寂しい。そもそもねだったのは僕の方なのに。

 公爵様が離れると、僕の拘束も外れる。そして乱された服も元通りになっていた。まるで何事もなかったみたいだ。僕の昂揚だけがそのまま。これじゃ僕だけ一人で発情してるみたいじゃないか。

 公爵様は、窓の外を見て言った。

「ついたな」
「え……?」

 本当だ。

 馬車が停まってる。僕、また伝え損ねてしまった。

 まだ公爵様と話したい。今じゃないと、嫌だ。だってこんなに体が熱くて、もう我慢できない。

 公爵様だって、容赦しないなんて言ったくせに、やっぱりいつも僕に甘いんだ。
 こうして途中で僕から離れてくれて、微笑んでくれる。僕がまだ、曖昧なままでいるからだ。

 本当は、公爵様ともっとそばにいて、好きにされたい。公爵様に満足してもらいたい。途中で止めたり我慢もさせたくないのに。
 それでも公爵様は、いつも僕に優しい。
 彼はいつも領地とそこに住む人たち、一族や城にいるみんなのことを思ってくれている。
 以前率いていた部隊に、公爵様をよく思わない一族がいた時も、自分に刃を向けたことより、立場の弱い魔法使いに手を上げようとしたことに腹を立て、ふざけたことをしていた連中をあっさり魔法一撃で黙らせたらしい。
 僕が公爵様に初めて会った時だって、不義理を働かれて腹を立てていても、僕の部隊を解散させてくれた。みんなを連れて行くこともできたのに、彼らのことも考えてくれていたんだ。

 そしてこうして今だって、僕のことを考えて、引き下がってくれる。手をとって、一緒に連れて行ってくれる。

 それなのに僕は……曖昧なまま、公爵様に甘えてしまっている。
 怖くてたまらないんだ。手の届かないはずの人に手を伸ばすのが。失いたくない、それくらいならこのままって、そう何度考えたか分からない。

 公爵様が、先に馬車から降りて行く。

 馬車の外は、公爵様のお城だ。そこに入っちゃったら、多くの人がいる。公爵家の方々だって待っている。また言いづらくなる。

 公爵様は、怯えられるのが嫌い。怖がられて震えられると、冷徹な目で睨むくせに、少し辛そう。
 それなのに、僕がこんなふうに怯えて、僕は一体何をしているんだ。

 もうあの時……初めて公爵様がここに迎え入れてくれた時に、気付けたじゃないか。公爵様は、僕じゃとても敵わないような人だけど、僕に触れて、今は僕のそばにいてくれているって。

「あ、あのっ…………公爵様っ……」

 叫んで、馬車から降りて行く公爵様を追う。

「公爵様っ……僕っ……!」

 叫んだら、すでに馬車から降りていた公爵様が僕に振り向く。

「……僕っっ…………こっ、公爵様が好きですっっ…………!! ……僕もっ……公爵様のこと、愛してますっっ!!」

 叫んで追い縋ろうとしたら、慌てすぎて転びそうになった。
 すると公爵様が魔法をかけてくれて、体がふわっと浮く。そして、魔法は優しく僕を公爵様のところまで連れて行ってくれる。

 いつの間にか僕の肩には公爵家の紋章のある美しいマントがかけられていた。大きな公爵家の紋章を見ると、公爵様のものだって言われているようで、何だか嬉しかった。

「あ……公爵様…………」

 公爵様は、馬車から降りたところで僕に振り向く。よほどびっくりしたのか、目を丸くしていた。

 けれどすぐに、いつもみたいに怪しく微笑む。

 そして、手を差し出してくれた。

 なんだか恥ずかしくて、一瞬、躊躇してしまう。

 だって、思いを告げたところだ。

 こんなことするの初めてで、公爵様の顔を見るのが辛い。こんなに緊張するの、初めてかも知れない。

 鼓動が速くなる中、僕は、恐る恐る手を差し出した。

 するとその手を、公爵様は強く握って引き寄せてくれる。

 あまりに勢いが良すぎて、馬車の扉から転げ落ちそうになる僕を、すぐに公爵様が抱きとめてくれた。

 外は、いつも僕が馬車で迎えられる城の玄関の前。

 僕が公爵様の手を取り馬車から降りると、周囲から、わっと歓声が上がった。馬車の外には、公爵家に仕える方々と、公爵様の一族の方々が勢揃いしていた。

 え……え!!??

 なんでみんないるの!??

 あ、そうか。出迎えだ。

 まるで、初めてこの城を去った時みたい。あの時は驚いたけど、今の方が絶対に驚いた。

 え、え!?? き、聞かれたのか!? 今の!!

 ライレトティロース様が「おめでとうございます!」って言ってくれる。他の公爵様の兄弟まで駆け寄ってきてくれて、「兄様、トグディウトル! おめでとうございます!」って言ってくれた。

「おめでとうございます! 兄上!!」
「閣下! おめでとうございます!」
「公爵閣下っ……おめでとうございます!」

 公爵家に仕える方々まで拍手してくれているし…………さっきの絶対に聞かれた……

 公爵様は、僕のことを抱きしめてくれる。

「俺も愛してる」
「公爵様っ…………」

 ……みんなに聞かれたなんて恥ずかしいけど…………

 だけど、公爵様のこと好きだし、こうされてるのは嬉しいから……いいか。

 みんなが「おめでとうございます!」って言ってくれる中、公爵様は僕の腰に手を回して歩き出す。

 僕はまだ恥ずかしくて真っ赤なのに、公爵様の手が力強くて、それが嬉しくて、その腕に身を委ねた。
 そして、また二人きりになったらさっきの馬車の中での話の続きをしたいと思いながら、公爵様と一緒に城に戻って行った。


*極悪で役立たずな僕に責め苦を与えると脅迫した悪名高い公爵様が今日も僕に甘い。監禁されて迫られてるような気がするのなんて、きっと勘違いだ!*完

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