従者になりたい犬と犬に悪戯したい魔法使い様

迷路を跳ぶ狐

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第一章

4.逃げなきゃ!

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 再び、牢にはチイルだけになる。

 チイルは、デスフーイとフィーレアが去っていった方を、じっと見つめていた。

(一体今の、なんだったんだろう……逃してやる? そんなの、嘘に決まってる……逃げなきゃ……!!)

 信じたい言葉ではあったが、今し方会ったばかりの、しかも、自分を処分するために呼ばれた男の言葉など、信じられない。


 チイルは、全身に力を込めた。


 無理に魔力を引き出そうとしたせいで、腕が焼けるように熱くなる。捨て身の技だった。


 焼けるような熱は、チイルを繋いだ鎖を焼き切り、チイルは、床に倒れる。
 周りには、ちぎれた鎖がジャラジャラと音を立てて落ちてきた。


 ひどく息が上がっていた。すでに体力など残っていない。しかし、これはきっと、最後のチャンスだ。


 チイルは、フラフラしたままなんとか立ち上がり、牢の扉に駆け寄った。

(きっと、扉の鍵を焼き切るので、僕の魔力は尽きる。魔力が尽きれば死ぬかもしれない……それでも、ここにずっといるより、死んだほうがいい……っ!!)


 ここを出たら、海のそばにある街に行こうと決めていた。そこでは、幾つもの種族が手を取り合って生きているらしい。

 そこで、静かに暮らしたい。

 そんな小さな夢だけを希望に、チイルは扉に触れて、最後の魔力を込めた。



 かすかにドアの向こうから音がする。鍵が壊れた音だ。



 力を込めていた扉が突然開いて、チイルはそのまま床で倒れた。

 扉の向こうでは、長いかんぬきが、真っ二つになって落ちている。どうやら、扉ではなく、かんぬきが一番に焼けたらしい。そのおかげで、予定より少ない魔力で扉を開くことができた。

 好都合だ。



 チイルは部屋から飛び出した。



 すでに体力の尽きた体で、魔力を無理に引っ張り出している。酷使を続けた体は、もう言うことを聞きそうになかった。
 まともに歩くこともできない体で、ただ走る。階段を上がり、その先にあった扉を残った魔力で破壊した。


 飛び出した先は、村の外れだった。


 それから、無茶苦茶に走って、チイルは森に逃げ込んだ。


(森に逃げただけじゃダメだ……すぐに捕まる…………走らなきゃ……)
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