従者になりたい犬と犬に悪戯したい魔法使い様

迷路を跳ぶ狐

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第三章

26.ずっと?

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 デスフーイの魔法が、飛んできていた魔力の玉を弾き飛ばす。


「チイル! ここは俺に任せろ!」


 けれど、チイルは首を横に振る。


「僕がしでかしたことなんです!」
「これは火山の魔力で、お前の魔力じゃない! お前が呼んでるもんでもない!!」
「分かっています!! 僕が狐さんたちに頼んだんです!! 魔力を呼んでくれって!」
「なんだと!?」

 彼はデスフーイの手を振り払い、魔力の玉に向かって飛びかかっていく。けれど、彼は傷が癒えたばかりだ。動かない方がいい。すぐに止めようとしたが、その時、足元で声がした。


「すごーい。頑張ってるー」


 見下ろすと、そこにいたのは、屋敷で一番悪戯好きな狐のストゥーフィ。直感的に、彼が何かやったことを悟ったデスフーイは、彼の尻尾を摘んで釣り上げた。

「うわああああ!! な、なに!? 何するんですか!! デスフーイ様!!」
「おい……ストゥーフィ! お前、チイルに何かしただろ!!」
「な、何かって……僕、何も悪いこと、してないです!! チイルに魔力の使い方を教えてただけです!!」
「魔力の使い方だあ? なんでチイルがそんなことしてんだ!!」
「だって、チイルがしたいって言うからー!」
「チイルが?」
「下ろしてくださいーー!! 下ろしてくれなきゃ、これ以上話してあげません!」

 彼がこう言い出すと、本当に話さないことを知っているデスフーイは、不本意ながら渋々、彼を下ろした。

 すると彼は乱れてしまった尻尾の毛を丁寧に整えて、デスフーイに非難の視線を向ける。

「チイルが言ったんです!! 自分の力、制御したいって。だから、僕と、イノゼスで練習の相手してあげたんです! イノゼスだって、共犯だーー!!」

 彼が廊下の向こうの柱を指して叫ぶと、隠れていたらしい黒猫のイノゼスが、びくっと震えて顔を出す。

「ごめんなさい……チイルが休めって言われてるのは知ってましたが、チイルもお二人の従者になって頑張りたいっていうから……僕が火山の魔力を呼んだんです……そしたら、呼びすぎちゃって……庭がこんなことに……」
「お前が?」
「は、はい……れ、練習になると思って……も、申し訳ございません!!」

 彼は平謝りに頭を下げる。


 なるほど、庭がこんな事態になっていることや、チイルが話さなかったことに合点がいった。休めと言われているのに、魔力の使い方の練習を始め、その結果、庭がこんな状態になったのだ。


(そりゃ、なかなか言い出せないか……)


 この程度なら、デスフーイが魔法を使えば難なく打ち消せる。



「ったく、仕方ねえな」


 構えて、デスフーイは、庭で奮闘するチイルに向かって叫んだ。


「チイル! 後は俺に任せろ!! お前は屋敷に戻れ!」
「でも、全部……僕がやっちゃったことです!」
「やったのは狐だろ!」


 叫んだデスフーイに向かって飛ぶ玉を、チイルの爪がはじき飛ばす。

 けれど、彼の攻撃は必要以上に大振りで、このままでは、すべての玉を破壊する前に、体力が尽きて倒れてしまうかもしれない。


「チイル!!」


 デスフーイは、飛び出して行こうとするチイルの腕を捕まえた。


「お前は屋敷に戻れ!」
「デスフーイさま! 僕にさせてください!」
「お前、結構頑固だな!! 怪我が治ったばっかなんだぞ! 戻れ!!」
「お二人は僕を助けてくれましたっ……僕だって……」
「いらねえ世話だ! 戻るんだ!! 俺がやったほうが早い!!」


 この程度なら、束になってかかってきたところで、庭中を包む魔法で一度に片付ければいいだけだ。


 けれど、彼は首を横に振る。


 涙が散った。


 それが、チイルの腕を握った自分の手の甲に当たって、デスフーイは初めて、チイルが目にいっぱい涙を溜めていることに気付いた。



「僕も……僕だって、お二人にお仕えしたいんです!!」



 彼はデスフーイの手を振り払って、魔力の玉に向かっていく。


(……まさか、そのために……!? そのために、ずっとこんなことしてたのか……)
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