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第四章
33.覗きですか?
しおりを挟む騒がしい下着騒動の日から、少し経って、チイルと二人の魔法使いは、のんびりした日を送っていた。
その日から、デスフーイはチイルの前に出ると慌てるようになり、結局なにもできないままだったが、それでも、フィーレアはそののんびりした時間が好きになった。
朝もそうだ。昔から、早起きなどはしなかった。けれど、最近は、目覚めるのが早い。起きることが楽しみになったからかもしれない。
チイルは早起きで、日が昇る頃には起きてくる。だからだろうか。最近では、フィーレアも早く起きるようになった。
そして、彼と狐や猫たちと一緒に食事を取る。それは、フィーレアにとって、幸せな時間になっていた。
今日も、朝早くから目が覚めた。
まだ日も昇っていない。障子の向こうは真っ暗で、部屋の隅の行灯の、ぼうっとした明かりだけだ。
まだ、チイルも寝ているだろうが、フィーレアは布団から出た。
ここ最近、デスフーイも早く起きてくる。少し前まではいつも昼まで寝ていたのに。それも、チイルに会いたいからだろう。
いつも、デスフーイと二人の名前を一緒に呼ばれることにも、不満だった。
たまには、自分だけの名前を呼んで欲しい。今起きていけば、チイルと二人で会えるかもしれない。
そんな気がして、フィーレアは部屋を出た。
まだ少し眠い目を擦って、廊下を歩く。廊下には、小さな行灯があって、その明かりがなければ、おそらく真っ暗だったろう。まだ、朝と言うにも少し早い時間だ。
ぼんやりしたまま、静かな廊下を歩く。いつもは騒がしい狐や猫たちも、まだ寝ているらしい。庭からの虫の声や、かすかな風の音くらいしかしない。
雨戸の開いた廊下を抜け、少し行くと、チイルの部屋が見えてくる。
ついでだ。少し朝の挨拶をして行こうか。それとも、まだ寝ているだろうか。
歩きながらかぶりを振る。
まだ外も真っ暗な時間だ。彼もまだ寝ているだろう。最近になってやっとぐっすり眠れるようになったのだ。起こしてしまっては悪い。
そっと、部屋を通り過ぎようとしたが、その時、チイルの部屋の障子の前に人影を見つけた。
デスフーイだ。
彼は、チイルの部屋の前で障子をこっそり開けようとしていた。
「何をしているんですか?」
後ろから聞くと、彼はビクッと体を震わせ、振り向いた。
「な、なんだよ!! フィーレアか!! びっくりさせんな!!」
「驚いたのはこちらです。まさかあなたが、早朝から覗きをするような屑に成り下がったとは知りませんでした。殺していいですか?」
「よくねえ! だいたい、それどころじゃないんだ! 後、覗きなんかしてない!!」
「では、何をしていたんです?」
「今からここに忍び込むんだよ!」
「……覗きではなく、夜這いでしたか」
「違う!! そうじゃなくて、落としたんだよ!」
「……なにを?」
「この前買った媚薬! チイルに下着あげた日に!! あの時からないんだ……多分逃げた時に落としたんだよーー!!」
「……バーカ…………」
「なんだよ! バーカって!! 仕方ないだろ!! あの時めちゃくちゃ焦ってたし!! チイルには、まさか、媚薬落としたみたいなんだ、なんて絶対言えないし!!」
「……あれも結局、あの日から使えずじまいですね……あなたがウジウジいい出すから」
「なんだよ! お前だって二の足踏んだくせに!」
「それにしても、あなたはあの日からなんだかおかしいですよ? すぐ赤くなるし、チイルの前であたふたしたりして。変なものでも食べましたか?」
「……あの媚薬、多分俺にも効いたんだよ……」
「は?」
「とにかく、探すの手伝え!! 多分、この部屋にあるんだ!!」
「……バーカ…………」
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