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第六章
57.それ、いる?
しおりを挟む「ねえ、それ、いる?」
ガルテイデに聞かれて、チイルは首を傾げた。
「いるって? なにが?」
質問の意味がわからなくて、聞き返す。
暑い日の縁側。二人並んでアイスを食べていたら、ガルテイデは突然チイルの首の辺りを見て聞いてきた。けれど、チイルには何のことか、さっぱり分からなかった。
すると、ガルテイデは、少し苦い顔をして目をそらす。
「僕は、チイルのことは、友達だと思っている」
「え……?」
「この火山に連れてこられて、最初は怖かったけど、チイルが友達だって言ってくれて嬉しかったし、今では、ここがすごく心地いい。感謝している。だけど、だから、その友人が、当然のように首輪をつけられ、犬のように扱われているのをみると、不安。チイルは、それでいいの?」
「ガルテ……」
ガルテイデが、本当にチイルを心配しているのが分かって、チイルは、少し嬉しかった。
彼が、初めて友人だと言ってくれたからだ。
そっと、自分の首輪に触れる。
これは、初めてここに来た時に、フィーレアとデスフーイからもらったものだ。
あの時は、どうしてこんなことになったのか、全く分からず、ずっと怯えていた。けれど二人が、あなたはもう自由だ、そうなっていいと言ってくれて、癒してくれた。
首輪も、怯えているチイルに言われてその不安を和らげるために、二人がくれたのであろうことは、分かっている。
首輪は、チイルが少し引っ張ればすぐに千切れる、脆いものだ。
それに微かに爪を立てると、首輪が少しだけ切れて、慌てて手を離した。
(こんなに……脆いんだ……)
一度もこれを千切ろうとはしなかったが、改めて脆さを知って、少し、寂しくなる。
「これ、お二人が僕にくれたんだ……僕が、欲しがったから……」
「……欲しがった?」
「うん……僕が怯えてたから、お二人がくれたんだ。あの時は、僕、魔力を扱えなくて、泣いてばっかりだったけど、お二人がここに連れてきてくれて、僕に色々教えてくれて……お二人にお仕えしたいって言ったら、いいよって言ってくれたんだ。だから、大事な首輪! 絶対いる!!」
「……チイルの気持ちは分かったけど……それでも、チイルはわかってない」
「分かってないって、なにが?」
「……従者になるなら、その首輪がなくてもなれる。それは、人を壊す悪魔の術。それにかけられたものは、四六時中辱めを受け、身も心も従属させられる。わざわざすぐにチイルが断ち切ることができるように作ってあるのに、ずっとそれをつけていると、それを承諾していると思われるかもしれない。外した方がいい」
「……え? え!? な、なんで???」
「されてもいいよって言ってるって思われてもいいの?」
ガルテイデが首輪に手を伸ばしてきて、チイルは慌ててそれを両手で隠して彼から離れた。
「や、やだ!! 僕、されてもいい!!」
「……なに言ってるの? されていいはずがない。やっぱり、チイルは分かってない」
「分かってなくない! 僕、お二人になら、なにされてもいい!!」
「……僕の話を聞いていた? 四六時中、辱めを受けるんだよ? 痛いことされたらどうするの?」
「お、お二人にならいい!」
「よくないよっ!!」
「い、いいの!! お二人がそうしたくて、喜んでくださるなら、それでいい!!」
「よくない!!!! なに言ってるの!? エッチなことされちゃうかもしれないんだよ!?」
「……っ! そ、それならもうされた!!」
「ええっっ!!??」
ますますガルテイデは驚いてしまう。
あの時のことを思い出すと恥ずかしくて、チイルは真っ赤になってしまう。
けれど、何度も首を横に振って続けた。
「さ、されたけどっ……僕っ……! 平気っ……! ち、ちょっと恥ずかしかったけど…………」
「……何されたの?」
「…………ほ、ほっぺに……ちゅー…………」
「……は? え? なんて?」
聞き返されてしまい、チイルはますます真っ赤になってしまう。
「き、聞こえなかったの!? な、何度も言うの……は、恥ずかしいのに…………」
「……ほっぺにちゅーって聞こえたんだけど?」
「聞こえてるなら、何度も言わせないで!!」
「だって……聞き間違いかと思って…………え? それだけ?」
「え? えっと……あ、パンツ脱いでって言われた…………」
「……チイル……やっぱり…………」
「カーテンと障子の向こうで脱いで、そのあと魔法の下着もらったんだ」
「それただの着替えじゃん」
「う……ぼ、僕も、あれは何されてるのかよく分からなかったけど……お二人とも、喜んでくれたはずだし……」
「……喜んでくれたの? どんな趣味……? どんなプレイ?」
「趣味? ぷれい??」
「……チイルはやっぱり分かってない。何も知らずにそんなものつけてると、そのうち二人に襲われる。外した方がいい」
「お二人が喜ぶならそれでいい!!」
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