ドジで惨殺されそうな悪役の僕、平穏と領地を守ろうとしたら暴虐だったはずの領主様に迫られている気がする……僕がいらないなら詰め寄らないでくれ!

迷路を跳ぶ狐

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6.貴様のようなドジで間抜けな奴に、誰がそんな重要な役割を頼むか!

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 とにかく、王子から断罪の前に、今すでに断罪の危機に陥ってるんだ。先にこれをなんとかしないと、このままだと殺される!!

 なんで勝手に断罪されそうになってるんだ……ゲームの悪役も、今の僕と同じルートを辿ったのか? 絶対に僕みたいにドジなやつじゃなかったと思うんだけど……やっぱりなんかの間違いじゃ……

 だって僕は相変わらず、危機が多い。何しろドジでバカだから、歩いているだけで危機が来る。

 だけど、こんなところで負けてたまるか。このままじゃ、領主様は幽閉されて僕は悪役になって断罪されて死ぬんだから。

 考えるんだっ…………今ここで、反逆の疑いを晴らして、さらに王子からの断罪を回避するための最良の作戦を!!

 …………無理だな。

 僕に、そんなに一気になんでもできるわけがない。

 まず、この場をなんとか凌げれば、それでいい。

 とにかくこの城から逃げる気でいたけど、それは中止だ。この先ゲームが進んで、この城が惨劇に見舞われたら、好きにのんびり生きるどころじゃなくなるし、何より……一族に見捨てられた僕をこれまで置いてくれた場所と、そこにいた人が断罪されたら、僕だって寝覚め悪い。

 まずは反逆の疑いを晴らして断罪回避だ。ここで殺されたら、もう何もできない。

 僕は、領主様に向き直った。

「と、とにかくっ……僕が領主様を狙うなんて、そんな恐れ多いこと、する訳ないじゃないですか!!」
「どうだろうな?」

 言って、領主様は一つの道具を取り出した。僕がさっき投げつけたもので、すでに壊れている。だけどそもそも、壊れてるとか、そういう問題じゃない。領主に向かってそんなものを投げたりしたら、咎められるに決まってる。

「貴様……これは、捕縛の魔法に使うものだな?」
「え……えと……」
「こんなものを俺に投げつけて、どうするつもりだった?」
「い、いえ……別に、そんな……ぼ、僕は、そんな危険なものを投げたつもりはなくて…………」
「黙れ……貴様が俺の暗殺を企んでいたとは驚きだ」
「そ、そんなっ……暗殺だなんて、僕はそんなつもりありません!!」
「どう考えてもあるだろう!! なんだこれは!!」
「だ、だから…………それは……」
「領主の暗殺を企んだからには、覚悟はできているのだろう?」
「ひっ…………!!」
「……好きなだけ怯えろ。存分に拷問してから殺してやる……貴様は死罪だ」
「しっっ……!! なんでっ…………なんで僕を殺しちゃうんですか!? だって僕、これから領主様の命令で間者になるんですよ!?」
「間者?」
「……すみません。こっちの話です……」
「訳の分からない奴だ……貴様のようなドジで馬鹿で間抜けなクズに、誰が間者などさせるか」
「…………」

 僕もそう思う……

 つい頷いてしまいそうになる僕を、領主様は睨みつけて言う。

「……おかしな奴め。もう貴様はいらん。この場で死んでもらう……」
「ま、待って待って待ってください…………僕、あのっ……」

 せっかく僕、色々思い出したのに……

 なんで何もできずに殺されなきゃならないんだ!?

 お怒りはごもっともですがっ……!!

 まだ今殺されたら困ります!!

 それなのに、領主様の隣にいた護衛の魔法使いたちが僕を地面に押さえつける。

「わっ……え、えっ…………!?」

 両腕を掴まれて地面に押さえつけられて焦る僕。

 こんなことしてる場合じゃないのに!

 このままだと、何かする前に本当に殺される!!

「は、離してっ…………離してください! え、えっと……離してくれたら何でもします!!」
「黙れっっ!!」

 従者が僕を押さえつける。苦しくて、息ができなくなりそう。

「ほ、本当に……なんでも……」

 逃げなきゃ。せっかく思い出したのに、これじゃ台無しだ。こんなままで終わりたくない。

 どうしよう……とにかく今は、なんとかしてその場凌ぎをしなきゃ…………

「あ、あのっ……領主様っ……!! お、お願いですから僕の話を聞いてくださいっ!! あのっ…………僕のこと、絶対に殺さないほうがいいです! そ、そんな選択肢選んでここが崩壊しても知りませんよ!?」
「…………何を言っているんだ、さっきから。気が触れたのか?」
「そ、そんなことありません…………でも、お願いします! あのっ……え、えっと…………殺す前に尋問っ……! そうだ!! せめてそうしましょう! せめて尋問くらいしたほうがいいです!! そしたら、僕が反逆なんて企んでないことを証明します!!」
「…………」

 領主様は、じーーっと僕を睨んでいる。どうするか悩んでいるみたいだ。

 そして、ニヤリと笑って言った。

「だったら聞いてやろうか?」
「え………………」
「しばらく俺の嬲りものになると言うなら、貴様の話とやらを聞いてやってもいい。どうする?」
「…………」

 それは結局拷問では?? だけど、このまま殺されたら何もできなくなる…………殺されるのは嫌だ。それに、この領地が王子に乗っ取られるのも嫌だし……

「どうする?」
「へ!? あ、えっと…………」
「決まらないのならいい。この場で斬首だ」
「ま、待って待ってっ……! わ、分かった! わかりました!!」

 僕が叫ぶと、領主様は恐ろしい顔でニヤリと笑った。
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