ドジで惨殺されそうな悪役の僕、平穏と領地を守ろうとしたら暴虐だったはずの領主様に迫られている気がする……僕がいらないなら詰め寄らないでくれ!

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
8 / 45

8.こんなことでもなければ

しおりを挟む
「それで? 言いたい話とはなんだ?」

 領主様はそう聞いてくれるけど、僕に見せつけるように鞭を両手で弄り回している。もう、僕をこれでもかと言うほど打つ気満々じゃないか。

 そんな男の前で話をするなんて、絶対に無理。それなのに、領主様は鞭を握ったまま、怯える僕を眺めている。

 こんな状況で何かいい案を考えられるほど頭がよかったら、僕はこんなドジを踏んでいないし、もっと早く前世のことだって思い出している。

 そんな後悔をしても、もう遅い。領主様は完全に腹を立ててしまっているし、何か言わなきゃ殺される。だけど、僕だってまだ記憶を取り戻したばかりで、どうやったら領主様と領地が助かるのか、まだはっきりとは言えないんだ。

 でも何か言わないと殺されるしっ…………!

「あ、あのっ……」
「なんだ?」
「あ、ぼ、僕のこと殺すとっ……こ、後悔しますっ…………」
「貴様がいた方が後悔しそうだが……」
「そんなことありませんっ…………」

 精一杯の虚勢を張ってみる。それくらいしないと、泣き出して失禁でもしそう。そうしたところで必ず殺されるだけだから耐えてるけど…………

 ちょっと強く出たことで、領主様は少しだけ僕に興味を持ってくれたらしい。鞭を下ろしてくれた。

「……では、後悔とはどういうことなのか聞こうか?」
「え…………えっと、あの…………ぼ、僕の言うとおりにしないと……あの…………領地、取られちゃう……」
「なに?」

 たずねる領主様の表情が微かに変わる。

 やった…………さっきより、興味を持ってくれたっぽい!!

「り、領地……取られちゃう…………かも、知れません……よ…………」
「かも? それはどういうことだ?」
「あ、ああっ……あのっ……! だから、ぼ、僕を殺さないでくださいっ……必ず、お役に立ちますから!!」
「…………どう役に立つと言うんだ?」
「へ!??」

 ど、どうって言われても…………まだ考えてない……

 だけど、そんなこと馬鹿正直に答えたら殺されるし……

「え、えーっと……だから、そのぉーー…………」

 どうしようか、必死に考える僕。

 すると、僕の背後で壁にもたれかかって立っていたベリレフェク様が口を開いた。

「その男はその場凌ぎをしているだけです」
「…………」

 領主様が、無言でベリレフェク様に振り向く。

 なんでそんなこと言うの!? 確かにその場凌ぎしてますけどっ……そんなこと、後ろから言われたら困ります!!

 それなのにベリレフェク様は、さらに続けた。

「おそらく、何か知っているようなふりをして、領主様の断罪から逃れたいのでしょう。この場でたっぷりと拷問して聞き出すべきです」

 すると、領主様はベリレフェク様を睨みつけて言う。

「黙れ。これの処遇を決めるのは俺だ。貴様こそ、なぜまだこの部屋にいる?」
「…………その男は、反逆を企んでいるのですよ? それなのに、二人きりにしておけるわけがないでしょう? 俺は王家から、この領地の魔物の状況を報告するように命じられています。何しろ、ただでさえ魔物の多いこの地で、魔物がさらに急増すれば、ここだけではなく、国全体が危険に晒されるのです。あなたこそ、この領地を安全に保つと言う本来の役割をお忘れにならないように願います」
「………………そうだな」

 そう答えてはいるけれど、領主様は今にもベリレフェク様を刺し殺しそうな顔をしている。

 ……な、なんだか二人とも怖い…………ベリレフェク様はしょっちゅう城に来るのに、この二人、こんなに仲が悪かったのか?

 …………よく考えてみたら、僕……前世の前に、今のここのことをよく知らない。領主様のことだって、魔物退治に彼らが出発するときに必死に道具や武器を準備するばかりだった。

 ベリレフェク様なんて、領主様の隣にいるいつも僕にかなり冷たい人……くらいにしか思っていなかった。

 こうして話すことなんて、こんな機会でもなければ、ずっとなかった気がする。

 …………って言っても、僕は吊るされて、今にも鞭で打たれそうなんだから、それどころじゃないんだけど。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

推し変したら婚約者の様子がおかしくなりました。ついでに周りの様子もおかしくなりました。

オルロ
BL
ゲームの世界に転生したコルシャ。 ある日、推しを見て前世の記憶を取り戻したコルシャは、すっかり推しを追うのに夢中になってしまう。すると、ずっと冷たかった婚約者の様子が可笑しくなってきて、そして何故か周りの様子も?! 主人公総愛されで進んでいきます。それでも大丈夫という方はお読みください。

冷徹茨の騎士団長は心に乙女を飼っているが僕たちだけの秘密である

竜鳴躍
BL
第二王子のジニアル=カイン=グレイシャスと騎士団長のフォート=ソルジャーは同級生の23歳だ。 みんなが狙ってる金髪碧眼で笑顔がさわやかなスラリとした好青年の第二王子は、幼い頃から女の子に狙われすぎて辟易している。のらりくらりと縁談を躱し、同い年ながら類まれなる剣才で父を継いで騎士団長を拝命した公爵家で幼馴染のフォート=ソルジャーには、劣等感を感じていた。完ぺき超人。僕はあんな風にはなれない…。 しかし、クールで茨と歌われる銀髪にアイスブルーの瞳の麗人の素顔を、ある日知ってしまうことになるのだった。 「私が……可愛いものを好きなのは…おかしいですか…?」 かわいい!かわいい!かわいい!!!

転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています

柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。 酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。 性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。 そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。 離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。 姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。 冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟 今度こそ、本当の恋をしよう。

【完結】異世界から来た鬼っ子を育てたら、ガッチリ男前に育って食べられた(性的に)

てんつぶ
BL
ある日、僕の住んでいるユノスの森に子供が一人で泣いていた。 言葉の通じないこのちいさな子と始まった共同生活。力の弱い僕を助けてくれる優しい子供はどんどん大きく育ち――― 大柄な鬼っ子(男前)×育ての親(平凡) 20201216 ランキング1位&応援ありがとうごございました!

魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。 15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。 その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。 そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。 だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。 そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。 「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。 前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。 だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!? 「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」 初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!? 銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。

学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました

こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。

【完結】囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。

竜鳴躍
BL
サンベリルは、オレンジ色のふわふわした髪に菫色の瞳が可愛らしいバスティン王国の双子の王子の弟。 溺愛する父王と理知的で美しい母(男)の間に生まれた。兄のプリンシパルが強く逞しいのに比べ、サンベリルは母以上に小柄な上に童顔で、いつまでも年齢より下の扱いを受けるのが不満だった。 みんなに溺愛される王子は、周辺諸国から妃にと望まれるが、遠くから王子を狙っていた背むしの男にある日攫われてしまい――――。 囚われた先で出会った騎士を介抱して、ともに脱出するサンベリル。 サンベリルは優しい家族の下に帰れるのか。 真実に愛する人と結ばれることが出来るのか。 ☆ちょっと短くなりそうだったので短編に変更しました。→長編に再修正 ⭐残酷表現あります。

処理中です...