ドジで惨殺されそうな悪役の僕、平穏と領地を守ろうとしたら暴虐だったはずの領主様に迫られている気がする……僕がいらないなら詰め寄らないでくれ!

迷路を跳ぶ狐

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25.今日はそれを連れているのか

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 オフィガタス様は、この城で夜会が開かれるたびに、必ずここへ来る。竜族で、体格のいい騎士で、魔法も使えるすごい人なのに、夜会では、ずっと楽しそうに朗らかに笑っている。そんな印象しかない。僕も、この城にいらしている時に見かけるくらいで、話したことはほとんどない。挨拶くらいだ。向こうも、僕のことなんて認識してないだろう。

 だけど……少なくとも、この城に来るのを嫌がっているようには見えなかった。オフィガタス様が領主様をそこまで嫌う理由もないような気がするけど……

 それでも、領主様はそう思っているらしい。オフィガタス様の話をしたら、急に機嫌が悪い。

 信じてないし、魔物が現れても助けにきて欲しくもない、なんて言われたら結構ショックなんじゃないかな……

 こっそり隣を歩く領主様を見上げると、いつもと同じように厳しい顔をしていた。オフィガタス様のことを考えているのかな……

 あの森を守っているオフィガタス様の協力は、この領地で魔物の勢いを抑えるためには欠かせない。

 オフィガタス様もゲームに出てくるけど、転生した僕が知っているのは夜会で笑っているオフィガタス様だ。
 ゲームの中の、領主様に対して憎悪を露わにしては剣を振るうオフィガタス様とは、ちょっと印象が違う。

 二人の間柄が決定的に悪化していくのは、多分魔物が増加してからだけど……それまでの間にも、少しずつ、小さな諍いがあったのかもしれない。
 でも、今の領主様は協力したいと思ってるんだ。今からでも、二人の仲を取り持っておけば、きっと魔物が増加した時にだって、仲違いなんてせずに、魔物を減らす事ができる。

 領主様もオフィガタス様も、強力な魔法使いだ。協力できればきっと、魔物が増加したって怖くない!

 よし……頑張るぞっ……!!







 庭に出ると、花壇が見えてくる。そこに並んでいる草花は、魔法の力を持った素材たちだ。城の魔法使いたちが丹精込めて育てているもので、ここ以外では、ほとんど見かけることもない。

 オフィガタス様は、この辺りにいるのかな?
 夜会の話をしに来たって言ってたけど、なんで庭にいるんだ?
 夜会が中止になったこと、怒っているのかな…………いきなり領主様と喧嘩になったりしなきゃいいんだけど……

 ドキドキしながら歩いていたら、草木の間に、誰か立っている。背が高くて、大きな剣を腰に下げている、長い深い緑色の髪の男だ。

 オフィガタス様……こんなところにいたのか……

 背中にあるはずの大きな羽は、今は魔法で小さくしているようだ。鳥くらいの大きさの竜の羽が背中に見えた。
 強力な剣術を操る剣士で、魔法も、僕では絶対に扱えないような威力のものが使えるはず。

 腰にも剣を下げているけど、普段は魔法で作り出した剣を使う事が多い。けれど今は、全然違うものを手に握っていた。

 花束だ。美しい花を集めた花束を持っている。

 ………………なんで、花束?

 お土産か何かかな……? 綺麗に赤いリボン束ねられて、可愛らしい包装紙で包まれている。

 彼は、僕らが近づいている事に気づいたのか、こちらに振り向いた。

 そして、僕と領主様の顔を見ると、ひどく嫌そうな顔をして首を傾げる。

「ロウィトレリト…………何をしに来た?」
「…………ここは俺の城だ。何をしに来たと聞きたいのは、こちらの方だ」

 言って、領主様は横を歩く僕に目配せをする。そして手で制止して、立ち止まる僕を置いて、先に歩いていく。

 ……ここで待ってろってことかな…………

 だけど、なんで? ここまで連れてきてくれたのに。

 オフィガタス様は、感情を隠すこともせずに、苛立った様子で領主様を睨みつけた。

「…………今日は、ずいぶん小さいのを連れているな……ベリレフェクはどうした?」
「……今は倉庫で魔法の道具の調整をさせている」
「……………………させている? それは、あいつが望んだことか?」
「…………ああ」
「そうか…………それでは、その横にいるのは……新しく召し抱えた男か?」
「いいや……ずっと、この城にいる」
「…………ああ……そう言えば、見た事があるな…………挨拶をしたことも……そうか…………今日からは、それがお前の側近か…………そうか…………」

 だんだん、オフィガタス様の声が低くなっていく。怒っているのかと思った。だってすでにその男は剣を抜いている。

 危ない。

「領主様っ…………!」

 叫んだ僕の杖が、激しい光を放つ。強化した防御の魔法なら、領主様を守れるはずだ!

 けれど、背後からの僕の魔法が領主様を守る前に、領主様はすでに剣を抜いていた。

 大きな音がして、オフィガタス様が両手で握り振り下ろした剣を、領主様は短い剣一本で受け止めている。

 オフィガタス様は、剣を大きく振りかぶったように見えたけど、魔法で強化まではしていない。殺すような一撃じゃない。

 一方、領主様の方は、握った剣は短くて、何の変哲もないようなものだけど、強力な魔法で強化している。相手が殺すつもりで振り下ろしても、それを防げるようにしているんだ。
 剣だって、オフィガタス様はあからさまに下げていたのに、領主様は手ぶらに見えて、懐に剣を忍ばせていたらしい。

 領主様……よほどオフィガタス様に対して不信感があるのか……

 いきなり領主に切り掛かるような人がそばにいたら、そうなるのも無理はない。

 何してるんだよあの人!!!!

 すでに領主様の事が気に入らないのかもしれないけど、だからと言って、いきなり領主に切り掛かるなんてっっ……!!

 驚く僕だけど、領主様もオフィガタス様も、僕に振り向いていた。

 オフィガタス様は、剣を消して領主様から離れる。

「……なるほど…………ずいぶん、腕のいい魔法使いを連れているな……」
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