ドジで惨殺されそうな悪役の僕、平穏と領地を守ろうとしたら暴虐だったはずの領主様に迫られている気がする……僕がいらないなら詰め寄らないでくれ!

迷路を跳ぶ狐

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37.それは僕の役割なんです

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 さっき、二人で並んでいるところを見てしまったからか? 領主様とベリレフェク様を見ているだけで、なんだか苦しい。

 二人とも、ここで何してたんだ?? 僕の知らないところで……

 勝手に、二人が仲良く話していたことばかり思い出す。

 こうして二人の間に入っている僕は、やっぱり邪魔者なんじゃないか?? もしかして、ずっとそうだったのか?? 僕だけが気づかなかったのか?

 だめだ……どうしてもそのことばかり考えてしまう。僕は、この領地が乗っ取られることを回避しなきゃならないのに!

 オフィガタス様は、僕を指差して怒鳴る。

「魔力を使えないように、だと!? さては抵抗できないようにして、なぶりものにしているな!?」
「なんでそうなるんですか! 撤回してください!! さっき言ったことも含めて、全て!! 勝手なことを言って、領主様を悪役にされては困ります!!」
「黙れ!! 何が悪役だ!! 明確に、その領主は悪だ!! ベリレフェクの首輪は、その冷酷な男が暴走した欲望でベリレフェクを傷つけている証拠だ!」
「だからっ……違うって言ってるじゃないですか!! そう言うことをみんなの前で言わないでください!! 領主様は絶対にそんなことしません!! ベリレフェク様だって、普段からここで魔法の研究ができて楽しそうだしっ………………か、勝手なことを言わないでください!」

 怒鳴り返して、僕は領主様に振り向いた。

「領主様も、なんとか言ってください!!」

 けれど、領主様はキョトンとしている。

「………………一体、なんの話だ? 突然入ってきたかと思えば、二人で騒いで」
「だ、だって……領主様は酷いことをしていないって、ちゃんと言ってください!! ……だって、領主様は悪くないのにっ……!!」
「………………なんのことだか分からないが、酷いことならしている。ベリレフェクの自由を奪っているのは俺だ」
「でもっ……それはっ……」
「オフィガタスの言っていることも、おかしなことではないだろう?」
「……そんなっ…………」

 周りにいたみんなが、ヒソヒソ言い始めてる。「領主様が……? ベリレフェク様を?」って、領主様を疑い始めている。

 このままじゃ、みんなオフィガタス様の言うことが本当だって思ってしまう。

 それなのに、なんで…………領主様は違うって言わないんだ??

 領主様、殺されそうになってもいつもあまり気にしていないし、こういうのも気にならないのか??

 それとも、本当にベリレフェク様のことが好きで、束縛するつもりでっ……!!

 いや、そうであったとしても、領主様がベリレフェク様に首輪をつけたのは、彼が勝手に魔法を使い、また領主様を狙うことを防ぐためだし、理不尽に痛めつけたりもしてない。

 けれど、オフィガタス様は腕を組んで言う。

「やはりか……こんなことは、俺が許さない!! お前の勝手な愛のせいで、ベリレフェクが束縛されているなんて、許せないんだ!!」
「……は? おい、待て…………どういうことだ?」

 初めて領主様がオフィガタス様に振り向く。

 こんなの許せない。

 僕が嫌なんだ。

 領主様がどう思っているかは知らないけど、僕は、領主様が殺されるのも、こんな風に悪く言われるのも嫌だっ!!

 僕は、ポケットに入れていた魔法の道具の力を借りて、強化した魔法の弾を放った。

 狙ったのは、ベリレフェク様の首輪。

 弾は首輪を掠めてそれを破壊する。

 崩れて落ちていく首輪を、ベリレフェク様は驚いて見下ろしていた。オフィガタス様も、領主様もだ。

 僕は、声を張り上げた。

「……ちっ……違うって言ってるじゃないですかっっ!! 領主様の一番そばにいるのはっ……僕ですっっ!! 側近だって僕だしっ…………こっ……これから愛されるのだって、僕なんですっっ!! 領主様のそばに他の誰かがいるなんて僕が許しません!!」

 力の限り叫んだら、ついにオフィガタス様は驚いたのか、黙っていた。

 さっきまで少しざわついていた部屋も、再びしんと静まり返る。

 …………ものすごく、勝手なことを言ったな……

 領主様には、好きな人がいるのかもしれないのに…………

 だけど、僕のことだって、領主様は側近だって言ってくれたっっ……!
 だったら僕は、ここに最悪の未来が訪れることを防ぐためなら、なんでもする!!

「りっ……領主様の一番の側近は、もう僕なんですっ…………!! そこにいる方ではありません! こ、婚約するのも僕です! 魔法だって……僕は教えてもらってるし……ぼ、僕の方が、今は領主様のそばにいます! そ、そこにいる方は、ただの貴族! 僕の足元にも及びません!! き……消え去れぇ……!!」

 何度目か分からないけど、しーんとなる医務室。こんなに静まり返ったの、初めてかもしれない。

 ……だめ……だったかなぁ……悪役っぽく言ったつもりだったのに…………なんだかひどく……間抜けだ。

 ただの貴族ってなんだ。
 家を追われ、貴族でなくなり、散々ここにも迷惑をかけて、それでも情けでここに置いてもらっているドジな落ちこぼれが、何を言っているんだ。

 そもそも、悪役になりたくないのに自ら悪役と同じことをしてどうする……

 だけどっ……領主様が言いたい放題言われてるのは嫌だっ……だったらちょっとくらい悪役っぽくなってやる! 当て馬だっていい!!

 僕は、オフィガタス様に振り向いた。

「とっ……とにかくっ……領主様は、そんな方ではありません! 領主様が今、そばに置いてくださっているのは僕で……これからも、一番そばにいるのは、僕です!! だから……ベリレフェク様を束縛なんてっ……領主様が、そんなことをする必要はないんですっっ!! だって……僕がいますから! 他の方が割って入る隙なんか……あ、あげません!」

 叫ぶ間にも、周りから小さな笑い声がし始めている。
 当たり前だよな……だってこんなの全部、僕が勝手に言っているだけなんだから。
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