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番外編7.最終決戦
115.兄ちゃんに反対された
しおりを挟むよーし!! 行くぞ!
僕には羽がないから、城の中を走って花園まで行く! 花をつめたら、ペロケに勝てるんだっ!
早速ドアを開けようとする。あ、あれ? 開かないよ? なんで?
ドアをガチャガチャやっていると、後ろから来たオーフィザン様が、ドアの鍵を開けてくれた。
「クラジュ……鍵をかけたままだ」
あ! そうか!! 忘れてた!!
またやっちゃった……オーフィザン様も心配そうに僕を見下ろしている。
「お前……大丈夫か?」
「だ、大丈夫です!! 行ってきます!!」
今度こそ気合いを入れて、ドアを開けようとしたけど、先にドアの向こう側から、誰かが勢いよくそれを開けちゃう。部屋に飛び込んで来たのは、兄ちゃんだ。よほど急いで走って来たのか汗だくで、ゼエゼエ息を吐いている。
「に、兄ちゃん? どうしたの?」
「それはこっちのセリフだ! クラジュ……城中のほとんどの人たちが、お前を止めると言っているぞ! お前、今度は何をしたんだっ!!?」
「え……ぼ、僕、何もしてないよ!! その……」
僕がペロケのことを全部話すと、兄ちゃんは深く頷いた。
「そうか……その気持ちはよくわかる……」
「うん! 僕、頑張るよ!」
「いいや。クラジュ。花を摘んではならない」
「え?」
何を言っているのか分からなくて聞き返す。なんで兄ちゃんがそんなこと言うの? だって、絶対一番祝福してくれると思っていたのに。前は、よかったなって言ってくれたのに。
だけど兄ちゃんは、僕を無視してオーフィザン様の前に土下座する。
「オーフィザン様!! どうか、婚約の話はなかったことにしていただけないでしょうか!!」
「え……えええーっ!!」
まさか、兄ちゃんまで婚約に反対なの!?
「に、兄ちゃん!! なんで……」
「お前、今朝、オーフィザン様の寝所に火を放ったそうじゃないか」
「あ、あれは……その……わ、わざとじゃなくて……」
「そういう問題じゃないっ!! お前のそのドジに巻き込まれて、オーフィザン様にもしものことがあったら、俺はどう責任を取ればいいんだ!!」
「……う……」
「だいたい、お前、ドジを直すと言って、一向に直る気配がないっ!! 服を着れば破く、廊下を歩けば窓を割るお前が結婚だなんて……絶対に無理だ! オーフィザン様にどれだけの迷惑がかかるか……結婚式だと? いつものドジでドレスを破ったらどうする!? 指輪を壊したら……ブーケに何かあったら……ヴェールを破ったら…………ううう……」
兄ちゃん……今までで一番顔色が悪い。青を通り越して紫色。その上、ほとんど痙攣みたいにガタガタ震えだす。
「クラジュ……クラジュ!! 結婚など、お前には無理だ! 今日のことで、お前を止めることこそ、俺がしなくてはならないことだと痛感した! 城中全員が反対している。お前にも、分かるだろう!」
「でも……兄ちゃん……僕……」
「こ、こら!! そのヴェールに触るんじゃない! ……よ、妖精の糸で作られたヴェールじゃないか……そ、それがいくらするか……クラージューーーっっ!!!! もう帰ろう!!!! 森に帰ろう! 群れに帰ろうっ! 金のない世界に帰るんだっっ!!」
「に、兄ちゃん……落ち着いて……」
兄ちゃん、何かに取り憑かれたみたいな勢いだ。とにかく兄ちゃんに落ち着いて欲しくて、そっと近づくけど、兄ちゃんはやっぱりダラダラ汗をかきながら、血走った目をして、僕の手をものすごい力で握る。
「帰ろう。クラジュ。お前が婚約指輪などした日には、俺は死んでしまう。帰ろう。な?」
「に、兄ちゃん、でも……僕、オーフィザン様と結婚するんだもん!!」
「クラジュ!!」
「オーフィザン様が僕を選んでくださったんだから……僕は、オーフィザン様を幸せにしたいんだ!! ぼ、僕ドジだけど……ドジで壊したものは、自分で直すから……」
「クラジュ! そんなことができるはずがないだろうっ!!」
「なんでそんなこと言うのっ!! 無理無理って、そればっかり!! ひどいよっっ!!」
怒鳴りつけた僕を、兄ちゃんは驚いた顔で見下ろしている。こんな風に兄ちゃんと喧嘩したのは、僕がまだ小さい頃にお菓子の取り合いをした時以来だ。
兄ちゃんが心配するのは分かる。だけど、兄ちゃんだけは祝福してくれると思っていたから、反対されたらやっぱり悲しいよ……
黙って睨み合う僕と兄ちゃんの間に、オーフィザン様が入ってきて、兄ちゃんの肩に手を置いた。
「ディフィク……」
「お、オーフィザン様! 今朝のことは」
「ディフィク。俺は、クラジュの全てをもらう気でいる。お前が背負ってきたものも全てだ」
「……オーフィザン様…………………………ですが……クラジュは……あなたにどれだけ迷惑をかけるか……」
「俺はこいつのドジも気に入っている」
「……」
オーフィザン様に何を言われても、兄ちゃんは答えない。目にはゆっくり涙が溜まっていって、それが今にもこぼれ落ちそう。
「…………オーフィザン様……俺は……」
「クラジュのことは俺が守る。不安がることはない」
「……く、クラジュは……クラジュは……」
兄ちゃんはもう涙を我慢できないようで、ポロポロ泣いていた。
「く、クラジュには、無理です……ずっと俺に世話されていたクラジュが、誰かと結婚なんて……お、俺のそばを離れて、誰かと暮らすなんて……何もできないどころか、とんでもないことばかりしでかすクラジュが……あなただって、クラジュのドジがどれほどのものかご存知のはず……クラジュのことは、ずっと俺が面倒見ていたんです……俺じゃないと……だいたい、クラジュ! お前がいなくなった時、どれだけ俺が心配したと思っているんだ!!」
「え?」
それって、僕が迷子になった時のこと? 森で捕まった奴らに耳と尻尾を取られて、ずっと群れに帰れなくて、兄ちゃんに会えなかった時のことだよね? あの時は兄ちゃんにすごく心配かけちゃったんだ。兄ちゃん、今も僕を心配してくれてるの?
「……あ、あの時だって……俺は……俺は……お前が俺のそばを離れたら、守ってやれないじゃないか……な、何もできないどころか、とんでもないことばかりしでかすお前が……一人でオーフィザン様の花嫁だなんて……本当に大丈夫か? に、兄ちゃん、もう守ってやれなくなるぞ……」
「……兄ちゃん……僕、僕ドジだけど……ドジだけど大丈夫だもん! オーフィザン様を幸せにするもん! 僕、がんばるよ!! 絶対絶対、幸せになる!! なれるよ! だって、なれるまでがんばるから!! だから……大丈夫だよ!! 心配しないで!」
「クラジュ…………」
兄ちゃんは、しばらく黙っていた。じっと僕のことを見つめている。そしてやっと、少し笑ってくれた。
「クラジュ……本当に…………本当に大丈夫か……?」
「う……うんっ! 僕、がんばる!!」
精一杯胸を張って言うけど、兄ちゃんはやっぱり心配そうに僕を見つめて黙り込んじゃう。
ううう……やっぱり僕じゃ兄ちゃんを安心させられないのかな……
兄ちゃんはしばらくして少し顔を綻ばせて、ボソっと言った。
「…………………………物を壊すなよ」
「え? う……うん……」
「壊れ物に近づくなよ」
「…………うん……」
「高価なものに近づくなよ」
「………………うん……」
「オーフィザン様のものに近づくなよ」
「……………………兄ちゃん……」
「それと……何か困ったことがあったら……兄ちゃんのことも頼ってくれよ?」
「……う、うんっっ!!」
僕、ずっとずっと兄ちゃんにいっぱい迷惑かけてきたのに、兄ちゃんはいつだって僕に優しかった。
ぎゅうって、兄ちゃんに抱きつくと、これまでの思い出が溢れかえってきて、僕まで涙目になっちゃった。
オーフィザン様とこうするのとはちょっと違う、温かくて安心できてどこか懐かしい兄ちゃんの腕の中。僕はずっとこの中で守られていたんだ。だけど、それももう、卒業しなきゃ!
「兄ちゃん、ありがとう!! 僕、がんばるよ! 花、摘んで来る!!」
「……一人で大丈夫か? 俺も一緒に……」
言いかけた兄ちゃんの肩を、オーフィザン様が掴んで後ろに下がらせる。
「ディフィク」
「お、オーフィザン様……しかし、クラジュ一人では……」
「クラジュは俺が守る」
「……」
「俺ではこいつを守るものとして不満か?」
「い、いえ……むしろ………………完璧過ぎて……俺の出番が無くなりそうです……」
「何を言う。こいつを守る役目は俺がもらうが、クラジュにとっての兄はお前だけだ。お前はクラジュの相談相手になってやってくれ」
「……ありがとうございます……」
ううう……兄ちゃんもオーフィザン様も、すごく僕のことを大切に思ってくれている。僕も頑張らなきゃ!!
「クラジュは、俺が空から見張る。お前は俺と、ここで待つんだ」
「……はい……」
兄ちゃんは、オーフィザン様を見上げて、頷いた。
僕は兄ちゃんとオーフィザン様に手を振って、ドアを開けた。
「じゃあ、兄ちゃん、オーフィザン様! 行ってきます!!」
ここからは僕一人!! 兄ちゃんを安心させるためにも、頑張らなきゃ!!
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