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番外編7.最終決戦
117.とにかく逃げる!
しおりを挟むセリューを振り切り、僕は廊下を全力で走った。
ドジばかりの僕だけど、逃げ足の速さでは誰にも負けないもん!! セリューなんかに追いつかれるもんか!!
逃げることに夢中になっていたら、階段で足を踏み外して、階段を転がり落ちちゃった。
痛……打ったところ、痛い……
そこをさすっていると、背後から、尻尾と耳の毛が一気にさかだつような気配がした。
「貴様ぁぁ……」
せ、セリューの声……
恐る恐る振り向く。そこに立ってのは見たこともない顔をしたセリュー!!
多分、僕がオーフィザン様にお仕置きされた時と同じようなことになったんだろう。服が乱れて体は少し汗ばんでいる。そしてめちゃくちゃ怒ってる……
「このっ……クソ猫がっ……タダで済むと思うなよ……」
セリューの手にはギラギラ光る短剣。うわあああん! もう殺される!!
に、逃げなきゃ!! だけど、足に力が入らなくなって、その場にぺたんと座り込んじゃう。うえええん!! 腰が抜けて動けない!
ゆっくりと、セリューが近づいてくる。助けを呼びたくても、怖すぎて声が出ない。僕、死ぬの!?
冷たく光る短剣が振り上げられる。もうダメだ!!
だけど、それが僕を切り裂くことはなかった。セリューの短剣は空中で止まっている。後ろからきたダンドが、セリューの手を掴んで止めてくれたんだ。
「なにしてるの? セリュー」
「ダンド! 離せ!! 今日こそこのクソ猫を葬り去る!!」
「なに言ってるの? ていうか、なんでそんなエロい格好してるの?」
「うるさいっ!! すべてこのクソ猫のせいだっ!! 今日こそ殺すっ!! ぶち殺すっっ!!!」
「まあまあ。落ち着いて……」
背後からダンドに羽交い締めにされ、セリューは動けないみたい。今のうちだ!
なんとか立ち上がり、僕は逃げ出した。
背後からダンドが叫ぶ声がする。
「クラジュ!! 待って!!」
待てないよ! 話は後で聞くから! ごめんね!! ダンド!!
とにかく必死に走って、僕は庭に飛び出した。明け方まで雨が降っていたからか、芝が少し濡れていて、走るたびに芝の匂いがする。
周り、誰もいないみたい。庭に僕が出た時に、いつも飛んでくるペロケだってこない! もしかしたら、このまま花園まで走っていけるかも!!
そう思ったのもつかの間、足元の芝が、ざわざわ音を立てて揺れだした。あ、あれ? さっきより、芝、長くない?
え、え? わああ! 芝が伸びた!!
綺麗に切りそろえられていた芝は、どんどん伸びてきて、僕の身長なんかあっという間に追い越しちゃう。その上、伸びた芝は僕に向かってきた。
うわあああ!! なにこれ!! 芝が生きているみたい!!
あっという間に足を取られ、転んだところを、芝にぐるぐる巻きにされてしまった。
うわああん……なにこの芝ー!! 庭には普通の芝があったはずなのに!
「捕まえたぞ! 馬鹿猫!」
朗々と叫んで、僕を縛り上げた芝の向こうから歩いてきたのは、どこかで見た人。あっ!! 思い出した! 芝のお世話をしているキャティッグさんだ。
庭師で、前に、食堂で芝を黒焦げにしたことを怒られたことがあるんだ。この人もまだ僕らの結婚に反対なんだ!!
「は、離してください!! 芝のこと、まだ怒ってるんですか!?」
「芝の件だけじゃねえ!! オーフィザン様と結婚なんて、絶対させねえからな!」
「なんでですか……? 僕、最近は芝を焼いてませんよ?」
「芝じゃなくて、寝所焼いただろ。オーフィザン様が寝ている間に火を放つ奴はダメだ」
「うううー!! 離してくださいーーっ!!」
「お前がオーフィザン様との結婚を諦めたら、離してやる」
「諦めません! 僕は絶対、オーフィザン様と結婚します!!」
「じゃあ下ろさない」
「そんなあ……」
うううー! ひどい!! いいもん! 所詮芝じゃないか! こんなもの、食いちぎっちゃえ!!
僕は、僕を縛る芝に食いついた。
「あ、こら! クソ猫!! なにしやがる!!」
うわあああ……口の中が苦い!! 苦いけど、逃げるためだもん! 手が自由になったらこっちのもの。残った芝も全部ちぎって、僕は逃げ出した。
「おいっ!! 待てこらクソ猫!!」
わああ! 追ってくる! うしろから芝の人と、大蛇みたいな芝が僕に迫ってくる。
しつこいーーっ! そうだ!! 確か倉庫に草を枯らす薬があったはず!!
僕の逃げ足の速さをなめるなよ! いつもオーフィザン様の魔法から逃げてるんだ。芝くらい、振り切れるもん!!
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