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番外編8.結婚します!

124.お嫁さんだ!

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 今度は、窓をコンコン叩く音がした。振り向くと、窓の外で、花束を抱えたペロケが飛んでいる。

 シーニュが窓を開けると、ペロケが羽を羽ばたかせたまま部屋に入ってきた。

「本当にそのドレス、消えちゃえばいいのにー」

 意地悪を言いながらも、彼は僕に立派な花束を渡してくれる。

 だ、だけどものすごく重いよ!? 持っていられないくらい!!

「な、なんでこんなに……」

 今にもブーケを落としちゃいそうな僕に、シーニュがよってきて、ブーケのリボンを解いた。

「くだらないことするな」

 ふわあああ!! 急にブーケがすっごく軽くなった!!

 解かれたリボンをシーニュから受け取りながら、ペロケが悔しそうにしてる。ペロケのいたずらだったんだ。

「軽い! シーニュ!! すごいっ!! ありがとう!!!」

 重くなかったら、ペロケが渡してくれたブーケは、彼が育てた美しい花がいっぱい集められていてすごく綺麗。

 嬉しくて、さっきと同じ調子でブーケを振り上げちゃう。すると、ブーケは僕の手からすっぽ抜けて、天井に飛んで行ってしまう。

「わああっ!! ブーケが!!」
「クラジューーっ!!」
「バカヤローーーっ!!」

 なんとかブーケを無事な姿で受け止めようと、僕、ペロケ、シーニュは叫んで駆け寄るけど、飛んで行ったブーケを、新しく部屋に入ってきた人が受け取ってくれた。

「おっと……これで次に嫁に行くのは俺か……?」

 部屋に入るなり飛んできたブーケを受け止め、ちょっと驚いた顔をしていたのは、笹桜さん。彼は僕にブーケを渡して、あの美しいヴェールを頭に被せてくれた。

「よく似合うぞ」
「あ、ありがとうございます!!」

 ふわあああっ!! ドレスにブーケ! 僕、本当にオーフィザン様と結婚するんだ!!

「見て見て!! 僕、お嫁さんになれたよっ!!」

 すっごく嬉しくて、くるくる回っちゃう僕を、笹桜さんは祝福してくれて、シーニュは心配そうに僕を止めようとする。

「綺麗だぞ。クラジュ。オーフィザンも惚れ直すな」
「クラジュ! お前大人しくしてろっ!! また何か起こしたらどうする!!」

 だって嬉しいんだもん! 早くオーフィザン様にも見て欲しい!!

 そう思っていたら、今度は窓の外から僕の大好きな羽の音がした。

 急いで窓に駆け寄る。途中でシーニュに「大人しくしてろ」って止められそうになったけど、僕は今すぐあの人に会いたい!!

 窓の外から、朝日を背にして竜の羽を広げた僕の大好きな人が近づいてくる。

「美しいぞ。クラジュ」
「オーフィザン様!!」

 ふわあああ!! オーフィザン様のタキシードもすごく綺麗!! すっごく格好いいようっ!!

 窓から身を乗り出し、ブンブン尻尾を振っちゃう。

 そんな僕の後ろから、笹桜さんが呆れたように言った。

「おい、花嫁は準備中だ。そんなところへ入ってくるなんて、不躾じゃないか?」
「そいつの花嫁姿を最初に見るのは俺だ。クラジュ、来い」
「は、はいっ!!」

 オーフィザン様が差し出してくれた手を、僕は喜んで握った。すると、魔法がかかった僕の体がふわりと浮いて、オーフィザン様の腕の中に収まった。

 わああ……お姫様抱っこだ!

 嬉しいけどドキドキしちゃって、なかなかオーフィザン様を見上げられないよ。

 真っ赤になりながら、こっそり目だけでオーフィザン様を盗み見ると、オーフィザン様と目が合っちゃう。

「行くぞ。クラジュ」
「は、はいっ!!」

 すぐに返事をした僕に、オーフィザン様は優しそうに笑う。

 シーニュが、窓のところまで走ってきた。

「オーフィザン様! もうすぐ式が始まります!」
「間に合うように戻る」

 オーフィザン様は、羽を広げて空に飛び上がった。

 わあああ!! 高い!! お城が全部下に見えるよ!!

 朝の風は気持ちよくて、綺麗に晴れた空はすごく爽やか。はためくドレスを風が撫でて行く。

 オーフィザン様は城の周りを一周してから、一番高い屋根の上に降りた。

 眼下には美しい城。普段僕がいるオーフィザン様の寝室も、シーニュとご飯を食べる食堂も、セリューに追いかけられて逃げ込んだ客間も、今から式を挙げる大広間も見える。
 城の周りにはキャティッグさんが毎日世話をしている青々とした芝生の庭。
 少し行ったところには、ペロケが大切にしている花園も、その向こうには果樹園も見えた。

 景色を楽しむ間も無く、オーフィザン様に引き寄せられてキスされちゃう。これから結婚式なのに、オーフィザン様のキスはいつもと変わらず、激しくて熱い。淫らなキスに、僕の体はあっさり溶かされて、力が抜けちゃう。そのまま身を委ねていたら、唇を離したオーフィザン様は、今度は僕の首元にキスしてきた。

「ま、待ってくださいっ! こ、これから式なのに……」
「後で見えないように魔法をかけてやる」
「でも……ひゃあっ!!」

 そ、そんなの、いいのかな??

 だけど、相変わらずオーフィザン様は僕の制止なんて聞く気がないみたいで、胸にも何度もキスされちゃう。純白のドレスを着たままの僕の胸にはいくつも赤い跡がついて、体はキスに歓喜するようにびくびく震えた。

「あ……あ……や、やだ……あうっ!!」

 ううう……もうすぐ式って、シーニュが言ってたのに、もっともっとオーフィザン様に触れて欲しくなってきた。こうしていっぱい求めてもらえることが嬉しくて、涙まで出てきちゃう。

 すると、オーフィザン様は、僕から唇を離して、僕の顔を覗き込んだ。

「誓え」
「……え?」
「永遠に俺を愛すると」
「でも、でも……ち、誓うって、式の時じゃ……」
「誰に誓うより、俺に誓うほうが先だ」
「……うう……ぼ、僕、誓わなくったって、絶対ずっとオーフィザン様が好きですよ……? だって、そうじゃなくなるなんて、絶対あり得ないもん……んっ……」

 オーフィザン様がひときわ強く僕を抱きしめ、唇を重ねてくる。もっともっと触れて欲しいけど、オーフィザン様の後ろから、冷静な声がした。

「オーフィザン様。式のお時間です」

 屋根の上で、少し離れたところからオーフィザン様に言ったのは、いつもの燕尾服のセリューだった。

「セリュー、少しくらい、待て」

 あっさりセリューの言葉をはねのけるオーフィザン様だけど、今度はセリューの後ろから、ダンドが出てくる。

「ダメです。みんな待ってるんですよ。初夜まで待ったらどうですか?」

 怖いもの知らずのオーフィザン様も、ダンドには弱いみたい。渋々といった感じで頷いた。

「クラジュも。オーフィザン様に意地悪されたら、遠慮しないで俺を呼ばなきゃダメだろ?」
「……だ、大丈夫だよ。ダンド! だって僕、今一番大好きな人と一緒にいるんだから!!」







 式場に続くドアは、荘厳で見上げるほど大きい。このドアを開けば、向こうには僕らを祝福してくれるみんなと、僕がこれから、一生共に歩いて行く人が待っている。そう思ったら、嬉しいのに緊張しちゃって、僕の頭の耳がピクンって震えた。

 僕をオーフィザン様のところまでリードしてくれる兄ちゃんが、少し赤くなった目をして振り向き、僕に手を差し出してくれる。

「行くぞ。クラジュ」
「うんっ!!」

 僕が兄ちゃんの手をとると、両端に控えた人が、息を合わせて扉を開く。

 長椅子に腰掛けたみんなが僕に振り向いた。ヴァージンロードの向こうではオーフィザン様が待ってる。

 嬉しくて、つい、兄ちゃんにリードしてもらうことも忘れて駆け出しちゃった。ダメってシーニュに言われていたのに。

 案の定、ドレスのレースを踏んづけちゃう。

 わわわ! ドレスが破れちゃう!!

 慌てた僕は、ブーケをはなしちゃう。踏んづけたドレスのレースを引っ張ろうとしたら、なんとかレースは外れたけど、勢い余って後ろに倒れそうになる。だけど、床に背中を打ち付ける前に、ふわんって体が浮いた。

 落ちそうになったブーケごとふわふわ浮く僕は、魔法で浮いたままヴァージンロードを進み、オーフィザン様の腕の中に降ろされた。

 オーフィザン様は僕を見下ろし、いじわるそうに笑ってる。

「やるだろうと思った」

 ううう……よ、予想されちゃってた……せっかくの結婚式なのに。

 だけど僕はなぜだかすごく嬉しくて、尻尾を振っちゃってた。

 僕を覗き込んで笑うその顔は、すごく意地悪なのに、それでも僕、この顔が好き。これからずっと、ずっとそうなんだろう。

 オーフィザン様が、僕の耳元で囁く。

「あとで仕置きだ」


*番外編8.結婚します!*完
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