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番外編11.フィッイルと仲良くなる!

132.助けてくれた!

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 細くなって絡まった魔法の縄を、なんとか解こうとしたけど、いくら引っ張ろうとしても、びくともしない。

「うー……うううー!! うまくいかないっ!!」
「い、いた!! 引っ張るなよ!! バカ猫っ!!」
「バカじゃないもん……でも、どうしよう……解けないよ……」
「やっぱり馬鹿じゃん……役立たず!!」
「が、頑張ってるんだから、そんなに怒らないで……そうだ!! こんな縄くらい、僕が爪で切り刻んじゃえばいいんだ!」
「やめろバカ猫ーー!! 僕を殺す気なの!? お前が縄切ろうとしたら、僕の手まで切るだろ!」
「そ、そんなことしないよ! ちゃんと縄だけ切るもん!!」
「そんなの、お前には絶対無理!! どうせまたいつものドジで僕の腕を切るんだろ! 絶対やめろ!!」
「お、怒らないでよお……そんなにいうなら、フィッイル、魔法で解いたらいいのに……」
「さっきからやってるよ! でもうまくいかない……また調子が悪くなったみたい……もう! こうなったら誰か呼んでこいっ!!」
「わ、分かった……」

 僕は急いで部屋から出ようとしたけど、後ろからフィッイルの怒鳴り声。

「ちょっと待て!! 確か今、収穫期で、みんな果樹園に出払ってなかった!?」
「え? う、うん。そうだけど……お城に残ってる人もいるよ? ダンドとか!」
「バカバカバカ猫!! あんな暴力的なシェフ連れてきたら、僕、このままハムにされちゃう!!」
「ダンドは優しいよ! そんなことしないもん!」
「あいつが優しいのはお前にだけだろーー!! 僕なんか何をされるか……とにかく、あいつダメ! 他のやつにしろ!!」
「そうだ!! 兄ちゃんもいる!」
「やめろバカ猫。お前のせいでこんなことになったなんてあの心配性の兄貴が知ったら、またあいつ、真っ青になって謝って、しばらくはこのこと気にして悩むだろ。お前、かわいそうだと思わないの?」
「……はい……」
「他にいないの!? もう少し優しいやつ!」
「じゃあ! シーニュ呼んでくる!!」
「そうだ!! シーニュだ!! むしろシーニュ以外呼ぶな!! 行け! バカ猫!! 今すぐあの世話焼き男連れてこいっ!」
「分かった!!」

 僕はドアを勢いよく開ける。そこでばったり、セリューにあった。

「あ、セリュー様」
「バカ猫ーーっっ!!」

 フィッイルは、僕の襟首を掴んで部屋の中に引き戻して、ドアをバタンて閉める。

「この馬鹿!! なんであいつに会うの!?」
「だ、だって、ドアを開けたらいて……僕のせいじゃないもん!」

 叫んで言い訳しても、フィッイルは全然きいてない。ドアに魔法をかけて開かないようにしてる。

 そしたらすぐに外からドアを叩く音と、セリューのちょっと怒った声が聞こえてきた。

「クラジュ、フィッイル、なぜ逃げるのです? 開けなさい!」

 うう……僕が逃げたから、セリューに誤解されたみたい。
 フィッイルは開かなくしたドアを押さえているけど、僕たちはまだ何もしてない。

「ねえ、悪いことしたんじゃないんだし、フィッイル、セリュー様に言って、助けてもらうのはどうかな?」
「バカバカバカバカ猫。あんな狂った執事に、オーフィザンが用意した布団ボロボロにしたなんて知れたら、僕が殺される!! お前も一緒に切り刻まれるよ!」

 う……そんなこと言われると、セリューならしそうな気がしてきた。

 自分が薄切りにされてお皿に並べられるところを想像しちゃって、体が竦み上がっちゃう。

 だけど、開けなかったことで余計にセリューを怒らせたらしく、ドアの外から、さっきよりもっと怖い声がした。

「おい!! バカ猫共! 開けろっ!! 貴様ら今度は何をしたっ!!」

 うわああああーーー!! セリューがまたキレた!! ドアをどんどん叩いてるーー!!

 セリューの声を聞くと竦み上がっちゃう僕は、だんだん混乱してきた。

「フィッイルー!! どうしよう!!」
「どうしようじゃないよ!! 布団破ったのお前だからね!!」
「そ、そんなあ!! フィッイルが僕をぐるぐる巻きにして爪でツンツンしたのが悪いのに!」
「お前がドジなのが悪いんだろーー!! どうしよう……そうだ!! こうなったら窓から逃げる! バカ猫!! 窓開けろ!」
「うん!」

 僕は、窓まで走っていって、勢いよくそれを開けた。そのとき、窓辺にあった竜の形の置物に腕があたっちゃって、それを落として割ってしまう。

「バカ猫ーーーーーっっ!!!!」

 フィッイルはすぐに駆け寄ってきて、割れた置物を見て真っ青になる。

「なにしてるの!!?? この馬鹿!! お前、物を破壊せずに動けないの!?」
「ご、ごめん……」
「これ、ロウアルがおいて行ったものなんだよ! 俺に会いたくなったらこれで呼べって! なんで割ってるの!?」
「だ、だって……」
「まずい……これが割れたのに気づいたロウアルがここにきちゃうー!!」
「ぼく、ロウアルさんに、言うよっ!! やったのは僕で、フィッイルは悪くないって!!」
「そうじゃなくて、僕はあいつに会いたくないの!」
「で、でも、ロウアルさん、フィッイルのこと、すごく好きだよ?」
「だからなに? 嫌なものは嫌なの! どうしよう……これが割れた音がロウアルに聞こえていたら、すぐにあいつ飛んでくる!!」
「き、きっと聞こえないよ! だって、小さな音しかしてないもん!!」
「聞こえるんだよー!! あいつには!! これ、竜にしか聞こえない音を出すようにオーフィザンが魔法をかけてるんだよ!! うわああああ! どうしようー!! ロウアルが来る!! 逃げなきゃーー!! でも廊下にはセリューが……」

 フィッイルは、窓とドアを何度も見て、ドアの方に駆け寄った。

「もう!! ロウアルよりセリューの方がマシ!!」
「そうかなあ……?」

 ビクビクしながら、僕もドアの方に行くと、フィッイルは怖い顔で振り返る。

「そうだろ。銀竜のロウアルから逃げるより、人族のセリューから逃げる方が、成功する確率高い! あんなやつ、僕の魔法で……って、開かないーーーー!!」

 彼はドアを必死で開こうしているみたいだけど、ドアはまるで壁になっちゃったみたいにびくともしない。

「フィッイル、もしかして、また魔法失敗した?」
「うるさーい!! 今日は調子が悪いのっ!! ううーー!! どうしよう!!」

 フィッイル、もう泣きそう。フィッイルが困っているんだ!! 僕がなんとかしなきゃ!!

「だ、大丈夫!! 僕、窓から外に出て、助けを呼んでくる!!」
「うるさーい!! もうお前は何もしないで!! お前が動くとろくなことがない!!!!」
「で、でも、ここからでないと、ロウアルさん、来ちゃうんだよね?」
「そうだけど……そうだ!! 僕も行けばいいんだ!! お前と一緒に!!」
「え?」
「僕もお前と一緒にこの部屋から出るんだよ!! ロウアルが来る前に!! ロウアルがくる前にここから出て逃げるの!! 行くよ!!」

 フィッイルは腕を縛られたまま窓まで駆け寄り、僕に振り返る。

「お前、先に行って!!」
「ええ……怖い……」
「こんなことになったのはお前のせいだろー!! お前が先に行って安全な逃げ道探せ!!」
「う、うう……わ、わかった!!」

 僕のせいっていうのは確かにその通りなんだ!! 僕、がんばらなきゃダメだよね!

 僕は意を決して、窓から外へ出た。

 ふああああ!! 高い!! ここ、二階なのにすっごく高く感じる!! 怖いいい!!

 部屋の中から、フィッイルが怖い顔をして、隣の部屋を指差す。

「いい? 左の部屋はロウアルの部屋だから右にっ……って、なんで言ってるそばから左の部屋いくの!?」

 外壁を伝い、歩き出した僕を、フィッイルは掴んで止める。

「だ、だってフィッイル、こっちを指してたし……」
「指はこっちには行くなっていう意味!! だいたい、お前が行こうとしてたのは左だろ!!」
「で、でも、右、こっちだよ?」
「僕から見て左だよ!! ばかばか!」
「えー……うー……もう紛らわしいから指にこっちは危ない方って書いてよ!!」
「うるさーい!! それじゃ僕の指、危ない方を指す時しか使えなくなっちゃうじゃん!!」
「怒らないでよお……」
「とにかく! 右の部屋に行くの!! もう! 僕が先にっ……」

 フィッイルは窓から外に出ようとしたけど、縛られているせいでバランスを崩したのか、窓から落ちそうになっちゃう。

「フィッイル!!」

 慌てて支えようとしたら、今度は僕が滑ってそのままフィッイルに体当たりしちゃった。

「うわわわわーーーーっ!!! バカ猫ーーーーっっ!!」
「フィッイルだって悪いもーーん!!!」

 二人ともバランスを崩して今にも落ちそう!!

 怯える僕の服にフィッイルが噛み付いて僕ら二人に魔法をかける。そしたら、僕らはフワって宙に浮いた。

「ふぃ……フィッイル……」
「や、やった……今度は成功……ロウアルーーーーっっ!!!!」

 遠くから飛んでくるロウアルさんの影にびっくりして、フィッイルは叫んじゃう。それと一緒に、浮いていた僕らの体はまるで何かに放り投げられたみたいに空まで吹っ飛んでいく。落ちないけど飛んでいくのも困るよ!!

「ふぃ、フィッイル? な、なにこれ?」
「うわあああーー!! また失敗したーーっ!!」
「もうフィッイル魔法使わないでーーっ!!」
「使わなかったら落ちて死んでたんだぞ!! お前が悪い!!」
「フィッイルだって悪いもん! フィッイルのドジ!!」
「お前に言われたくなーーいっ!!」

 ど、どうしよう!! このままじゃ遠くまで飛んで行っちゃうーーー!!

 本当に死んじゃうんだって思ったけど、空に向かって飛んでいく僕の体にくるんて何かが巻きついた。それは柔らかくて気持ちいい猫柄のリボンみたいな布。

 それは僕に巻きついたままゆっくり地面まで飛んで、僕を下ろしてくれる。助かった……

 そうだ! フィッイルは!?

 キョロキョロしても、フィッイル、どこにもいない。

 空から羽音が聞こえて見上げると、背中に大きな竜の羽があるロウアルさんが、フィッイルを抱きかかえて空を飛んでいた。

 ロウアルさんは涙目になっているフィッイルを抱いたまま、そっと地面に降りて、フィッイルの顔をのぞきこむ。

「フィッイル!! 大丈夫か!? なんで飛んでるんだ?」
「うっ……ううー……」
「お? お? フィッイル?? どうした? なんで泣くんだ? なんで縛られてるんだ?」
「魔法で絡まっちゃったの! はやくとって!」
「わ、分かった!」

 ロウアルさんは、僕たちがどれだけ頑張ってもびくともしなかった魔法の縄を、あっさりちぎって、フィッイルを自由にしてくれた。

「だ、大丈夫か? な、何でまだ泣くんだ? 痛いのか? 腹が減ったのか?? そうだっ!! 狩りに連れてってやる!!」
「嫌っ!! お部屋に帰ってクッキー食べるう……」
「な、泣くな……お部屋だな!! 連れてってやる!!」
「待って! 空を飛ぶのは嫌っ!!」
「わ、分かった! 走って連れていってやるっ!」
「え……ま、待って! 走るのもやだっ……わーーーーっ!!!!」

 ロウアルさんは空を飛ぶより速く走って、お城の方へ行っちゃう。フィッイルは抱っこされたまま怖くて泣いてるみたいだけど、ロウアルさんにしがみ付いていた。
 いつもちょっと乱暴だけど、ロウアルさん、フィッイルのことが大切なんだ。

 フィッイルがロウアルさんといっちゃったから、僕も帰ろうって思ったら、僕を助けてくれた布が、僕の体にくるんて巻きついて、僕をお城の最上階まで連れていっちゃう。

 お城の一番高いところにある窓が開けてある。僕に巻きついた布は、僕を連れてその窓をくぐって、そこにいたオーフィザン様のところまで連れて行く。

「お昼寝部屋にいろといっただろう。他の部屋は、お前が落ちないように窓に魔法がかかっていないんだぞ」
「ふええん……オーフィザン様あ……だって……だって僕、寂しくて……」

 もう泣きそう。寂しかったし怖かった。そんな感情が一気に胸の奥から溢れてきて止まらない。

 落ちた涙を、オーフィザン様は拭って、僕の頭を撫でてくれた。

「泣くな……今日はもうずっとお前といる」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ。待たせて悪かったな」

 見上げれば、オーフィザン様が優しく笑ってる。

 本当にずっと、一緒にいられるんだ!!

 嬉しくて尻尾が勝手にゆらゆら揺れちゃう。オーフィザン様は僕の頭を撫でて「いい子で待っていた褒美をやる」って言って、キスしてくれた。やっぱり僕、オーフィザン様が好き。ずっと一緒がいい。

 そう伝えたら、オーフィザン様は微笑んで、僕を抱っこしたまま部屋の奥へ連れて行ってくれた。


*番外編11.フィッイルと仲良くなる!*完
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