【本編完結】ネコの慰み者が恋に悩んで昼寝する話

迷路を跳ぶ狐

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番外編14.オーフィザン様と対決する!

148.またやっちゃった!

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 オーフィザン様のお部屋につくと、そこでは笹桜さんと雨紫陽花さん、そしてもう一人、笹桜さん達と一緒に来た人が、ソファに座ってお茶を飲んでいた。

 山の深緑のような色の長い髪と、ちょっと長くて垂れた半透明の猫の耳、地面まで届くふわふわの長い尻尾がある笹桜さんと、小柄で、笹桜さんみたいな耳と尻尾があって、背中には羽衣みたいな半透明の羽がある雨紫陽花さん。

 三人目の初対面の人は、長い金髪の華奢な人で、ブレシーさんっていうらしく、立ち振る舞いやその雰囲気が、なんとなく、セリューに似ている。それもそのはず、陛下のお城から来た貴族らしい。

 僕もオーフィザン様の隣に座って、お菓子をご馳走になった。笹桜さんのお屋敷に行った時に食べた桜餅だ。
 お茶も、いつもセリューがいれてくれる紅茶じゃなくて、今日は笹桜さんが持って来てくれた緑茶。

 早速、桜餅に夢中になっちゃう。もちもちしていい香りがする……甘くて美味しい……

 すっごく美味しい桜餅と、おいしいお茶。ポカポカあったかい部屋。
 オーフィザン様のとなりにいられて、お菓子までもらえて、すごく幸せ。

 だけど、お部屋でお茶をいれているセリューも、オーフィザン様まで、ちょっと警戒しているみたい。二人とも、笹桜さんたちに会えたのはすごく嬉しいみたいなんだけど、問題は、三人目のブレシーさん。彼は、オーフィザン様ともセリューとも知り合いらしいけど、久しぶりに友達に会ったって感じじゃない。

 ブレシーさんの方は、そんなこと全然気にしていないのか、ずっと笑顔。美味しそうに桜餅を頬張っている。

「久しぶりですねー、オーフィザン。セリューさんも、お久しぶりです」
「何をしに来たんだ?」

 低い声でオーフィザン様に聞かれても、ブレシーさんはまるで怯まない。

 すごいなぁ……僕だったら怖くなっちゃうのに……

「そう怖い顔をしないでください。僕は何も、悪いことをしにきたんじゃないんです。陛下の使いで来たんですよ?」
「そんなことは分かっている。だから嫌なんだ。何の用だ?」
「桜餅、おいしいですねー。このお茶も」

 彼は微笑みながらそう言って、オーフィザン様の質問には答えようとしない。美味しそうに桜餅食べてる。

 オーフィザン様はため息をついて、今度は笹桜さんに振り向いた。

「笹桜……なぜこんなものを連れて来た?」
「そう怒るな。オーフィザン。知り合いの妖精族が、城に出入りしているんだ。その男の紹介で、春になるとお城の方々が桜を見に来てくださる。ブレシーとも、その時に出会ったんだ」
「そんなことを聞いてるんじゃないぞ」

 ため息をつくオーフィザン様に、桜餅を食べ終わったブレシーさんは、顔を上げて言った。

「あの辺りの妖精族とも、定期的に情報を交換するようにしているんです。最近増えている魔物を押さえ込むことは、ここら一帯に住むすべての者にとって急務でしょう?」
「……魔物の話か?」

 オーフィザン様に聞かれて、ブレシーさんは首を横に振った。

「確かにそうなんだけど、そう切羽詰まった話じゃないんです。報告書」
「なに?」
「だから、オーフィザンに頼んでおいた、森の魔物の報告書。それを受け取りに来たんです」
「……貴族のお前が、わざわざこんな森の奥まで、紙切れ一枚をもらいに来たのか?」
「そんな言い方しないくださいー。以前、父上が起こした騒動のおかげで、フイヴァ家は風前の灯火なんです。紙切れ一枚のために、ここまで足を運ばなきゃならないほどに」
「……」

 無言で、オーフィザン様はセリューからうけとった報告書を突き出す。
 それを受け取ったブレシーさんは、満足げにうなずいた。

「うん……確かに。森の魔物は駆除済みかあ……ありがとうございます。これなら、陛下もお喜びになります」
「そうか……よかった。さあ、帰れ」
「そ、そんなに邪険に扱わないでください……」
「お前を邪魔だと思っているわけじゃない。だが、今回はあの男の使いできたのだろう? あいつが来ると、だいたいろくなことにならない。特に、何かを頼みに来る時は」
「それって、陛下のことかなあ? それにしては最近、陛下が来ても嫌そうな顔をしなくなったって聞きましたが?」
「それはクラジュがキュウテに会いたがるからだ。だからついでであいつも入れてやっているだけだ。それを、今度はわざわざお前を使って……何を企んでいる?」
「すっかり疑り深くなっちゃったなあ……オーフィザン。僕は何も企んでなんかないんです」
「……」
「そんなに怖い顔をしないでください。すぐに城に帰ってもいいんですけど……ほら、見てください。外は雪です。雪の日は雪竜が現れます。僕がそれに襲われて遭難したら、代わりに別の人が報告書を取りに来ちゃいますよ?」
「……森中の雪を魔法で解かしてやろうか?」
「待って待って。そんなことをすれば、森は雪解けの水で水浸しになります。この辺りの森は、オーフィザンの管理下にあるんですよね? 少し行ったところには森に住む狐妖狼の縄張りだってあるし、クラジュの故郷もそのあたりだって聞きました。僕一人を追い返すために、クラジュの故郷を沈めるんですか?」
「…………なにが望みだ?」

 オーフィザン様に睨まれて、ブレシーさんは震え上がる。

「お、落ち着いてください……何もオーフィザンをどうこうしようなんて、そんな命知らずなことは考えていません……た、ただ少し、その、雪が治るまでここにおいてほしいんです」
「その間、書類は向こうに持って行かなくていいのか?」
「報告そのものは、すでにあなたが使い魔を使って城に上げてくれているじゃありませんか」
「ああ、そうだ。書簡もやっただろう。今更紙切れ一枚、なぜ必要なんだ?」
「形式というものがあるんですー。僕も馬鹿らしいと思うんですけど、森の魔法使いが一方的によこしたものでは納得できないっていう輩も中にはいるんです。オーフィザンには手間をかけて申し訳ないと思っています。陛下もそう仰っていました」
「……」
「僕のことは構わないでください。帰れそうなくらいに雪が落ち着いたら、勝手に帰ります」
「……雪が止んで、少ししたら送る」
「……え? いいんですか?」

 聞かれて、オーフィザン様はこめかみを抑えて言った。

「報告書とやらが遅れたのは確かだからな……いつまでもここにいられても困る。本来ならすぐに追い返したいが、普段より、魔物の動きが活発になっている。今は城を離れられない」
「そうですか……オーフィザンも忙しいんですね……帰るときのことは心配しないでください。笹桜さんたちと一度、向こうの屋敷に戻ります」
「そうか…………分かった……部屋を用意する」

 オーフィザン様が言うと、ブレシーさんは嬉しそうに笑う。

「ありがとうございます。僕も一度、この森をゆっくり見ておきたかったんですよー。陛下のお気に入りの場所だし……可愛い猫がいるって聞いていたから」

 ブレシーさんは、僕の方に向き直る。

 わわわ! 顔にあんこ、いっぱいついてるのに!!

「オーフィザンのところに、めちゃくちゃ可愛い猫がいるって聞いて来たけど……あなたのことですか?」
「ふぁ?」

 なんのことって聞こうとしたけど、今は口いっぱいに桜餅を詰め込みすぎていて、喋れないよ……

 慌てて口元を拭いてたら、ブレシーさんは僕に微笑んで、ハンカチを渡してくれた。

「ふぁ……ふぁふぁふぁ……」

 うう……お礼を言おうとしたのに、口がいっぱいで声が出ない……

 ハンカチを受け取ろうとしたけど、彼はテーブルを乗り越えて、僕の頬をハンカチで拭いちゃう。

「ふぁ?」
「確かに……可愛い猫」

 可愛い猫って、僕? いつもは「バカ猫ー」って言われてばっかりで、可愛い猫なんて、オーフィザン様以外に言われたの、久しぶりだよ?

 ブレシーさん、優しい人だな……

 僕はハンカチをうけとって、口元を綺麗に拭いた。

「ありがとうございました! ブレシーさん!」
「ブレシーでいいです。みんなそう呼ぶから」
「え……はい!! ブレシー! ありがとう!」

 ハンカチを返そうとしたけど、それはあんこでだいぶ汚れちゃってる。

「ご、ごめんなさい! あ、洗って返す!! わあああああ!!」

 慌ててハンカチを引っ込めようとしたら、それはお茶の上に落ちちゃって、今度はびちょびちょ。拾い上げようとしたらお茶までひっくり返っちゃう。

 うわああああん!! どうしようーー!!

 て、テーブル、びちょびちょ……桜餅と他のお茶は無事だったけど、ブレシーさんの服まで濡れちゃって、白い服が少し緑色になってる。

 ま、またドジしちゃった!

「う、うわああああ! ご、ごめんなさいっ!!!! ど、どうしよう!! 熱くないですか!?」
「大丈夫です。少し濡れただけだから」
「で、でも、服、濡れちゃって……ふ、拭かなきゃ!! た、タオル……タオルとってきますっ!!」

 部屋を飛び出そうとした僕を、笹桜さんが止めて、自分のハンカチを出してくれた。

「これで拭けばいい。使ってくれ」

 渡されたそれを、ブレシーさんは受け取って、僕に向かって突き出す。

「拭いて? クラジュ」
「はい!!」

 すぐにハンカチを受け取って、ブレシーさんの服の、汚れちゃったところを拭こうとしたけど、背後からオーフィザン様にハンカチを取り上げられちゃう。

「お、オーフィザン様?」

 オーフィザン様は無言で、濡れたブレシーさんの服を、魔法ですっかり元どおりにしてくれた。

「気を付けろ」

 そう言ったオーフィザン様の顔を、僕は見上げられない。せっかく呼んでもらえたのにドジしちゃって、オーフィザン様を訪ねてきてくれた人にお茶かけちゃったんだもん。

 どどどどどうしよう……

 なんで僕、こんなにドジなの!?

 だけど、ブレシーさんはどこか楽しそうに言った。

「オーフィザン、ありがとうございますー。シミになったらどうしようって思ってたんです」

 それを聞いて、僕はますます申し訳なくて、頭を下げた。

「あ、あの……本当にごめんなさい……」

 あやまろうとしたけど、その途中で、オーフィザン様は僕を後ろに下げて、自分の体でブレシーさんから隠しちゃう。

 ど、どうしたんだろう……? 怒ってるの?

 オーフィザン様って、声をかけようとしたら、先に笹桜さんが、パンパンって手を叩いた。

「さあ、服も綺麗になったことだし、オーフィザン。新しいお茶をいれよう」
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