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番外編14.オーフィザン様と対決する!

149.渡せない!

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 オーフィザン様は、一度僕に振り向いてから、笑顔の笹桜さんに向き直った。

「お前たちが訪ねてくるとは、珍しいと思っていたが……一体どうした? 結婚式以来じゃないか」
「その結婚式のことで来たんだ。実は、お前に結婚祝いを渡すのを忘れていてな」
「……結婚祝い? まさか、それをわざわざ持ってきたのか?」
「ああ。必ずお前が気にいるものを持ってきた」
「なに?」

 笹桜さんは、小さな木箱をテーブルに置く。彼がその箱を開くと、中に入っていたのは、キラキラ光る薄桃色の粉。すごく綺麗で、微かに甘い匂いがする。

 だけど、これ、なに?

 オーフィザン様も首を傾げちゃう。

「なんだ? これは……」

 不思議そうに木箱を覗き込む僕らの前で、粉は集まって小さな鳥に姿を変えた。

「うわあ……可愛い……」

 僕が手を伸ばそうとしたら、鳥は頭を上げて体を震わせる。そしたら、さっきのキラキラした粉が、少しテーブルの上に舞った。

 綺麗だけど、これ、一体何?

 オーフィザン様も首を傾げた。

「なんだこれは……?」
「お前、クラジュのための猫じゃらし作りに苦戦しているそうじゃないか」

 言われて、オーフィザン様はそっぽを向いた。

 な、なんで笹桜さんまであれのことを知ってるの……?

「それはもう諦めた」

 オーフィザン様がそう言うのを聞いて、僕はほっとしたけど、笹桜さんは、にっこり笑って、とんでもないことを言いだした。

「これは、俺の屋敷の周りで取れる魔法の植物を使って作った粉なんだ。これがあれば、所有者になった者だけが使えるようにできるんじゃないかと思ってなあ……」
「……どういうことだ?」
「見ていろ」

 笹桜さんがその鳥に触れると、それは微かに光る。

「力を持った者が呼んだ時だけ、力を発揮するんだ。どうだ? お前の魔法とこれを使えば、もう暴走することもない上に、威力も調節できるものが完成するんじゃないか? お前が喜ぶと思ってなあ」
「……」
「いいものが出来上がったら、俺にも一つくれ。どうだ? 興味が湧いただろう?」
「……」

 オーフィザン様はずっと無言だ。

 な、なんで無言なの……?? さ、笹桜さん……なんてもの持ってきたのーーーーっっ!!!!

 ど、どうしよう……オーフィザン様、いらないって言わない!! ず、ずっとなにも言わない……

 や、や、やっぱりあの猫じゃらし、作る気なの!?

 うわあああん!! やだよおおおおっ!!

 さっき僕、ひどいドジしちゃったし、そんなのできたら……僕……朝までこちょこちょされちゃう!!

 だらだら汗が出てきた。

 そんなのできたら…………僕……死ぬかも……

 新しいお茶をいれていたセリューも、テーブルに湯飲みを置きながら、ものすごく嫌そうな顔をして言った。

「笹桜さん……贈り物に難癖をつける気はございませんが、そういったものはオーフィザン様には……」

 けれどオーフィザン様は、言いかけたセリューを手で制止して、テーブルの上の鳥を手に乗せちゃう。

 お、オーフィザン様?? なんでじーっと見てるの?? 興味、あるの?? ほ、本当に作るの!?

 ガタガタ震えだしちゃう僕。

 セリューがオーフィザン様に向かって、声を張り上げた。

「オーフィザン様!! お言葉ですが!」
「……セリュー…………少し黙っていろ」
「し、しかし……オーフィザン様!!」

 オーフィザン様は一度言い出すと、セリューがどれだけ止めても聞かない。それは僕も分かってる。多分、セリューだって、分かってて言ってるんだろう。

 でも、このまま猫じゃらしができるのをずっと見ているだけなんて…………怖すぎる!!

 僕、さっきブレシーの服汚したし、ハンカチもぐちゃぐちゃにしたし、オーフィザン様、怒ってるし、今日の夜も絶対お仕置きされる。
 吊るされて朝まで魔法の猫じゃらしでこちょこちょされる!! 裸にされてずっとイカされ続ける!! うわああああん!! やだあああああ!!

 う、ううううーー!! こんなもの、オーフィザン様のそばに置いておくわけにはいかない!!

 これさえなければ……

 贈り物の鳥さんは、木箱の中に入って、元の薄桃色の粉に姿を変える。

 僕はとっさに、その箱を持って逃げ出した。

 背後でオーフィザン様と笹桜さんの驚く声がする。

「クラジュ!? 待てっっ!!!!」
「おやあ……? 隕石猫襲撃か?」

 うううーー! ごめんなさい!! これはオーフィザン様には渡せません!! だってお仕置き怖いもん! ごめんなさいオーフィザン様ーーーー!!








 お城の中を死ぬ気で走って、疲れた僕は、木箱を持って廊下を歩きながら、途方に暮れていた。

 うう……笹桜さん……なんでこんなに恐ろしいものを……

 だけどこの箱、どうしよう。

 立ち止まって、改めて木箱を見下ろす。

 勝手に持ち出しちゃって、絶対怒られちゃう。

 そもそも、これは笹桜さんがオーフィザン様に持ってきてくれた大切な贈り物。それなのに、勝手に持ってきちゃダメだよね……

 だけど……あの猫じゃらしができるのは嫌だーー!!

 昨日のお仕置きだってすごく辛かったのに、またあの猫じゃらしができたら……

 うううーー!! 一体どうすればいいの!?

 考えれば考えるほど、どうすればいいかわからなくなって、箱を持ったままくるくる回っちゃう。

 オーフィザン様に箱を返しに行く!? それともこのまま逃げる!? どうすればいいのーー!?

 廊下の真ん中でずっと回っていたら目が回って、ふらふらしていたところに、背後から僕を呼ぶ声がした。

「クラジュ、クラジュ!!」
「ふああ?? あ、雨紫陽花さーん??」

 ふああん……目が回るぅ……

 フラフラしながら振り向いたら、倒れそうになった僕を、雨紫陽花さんが受け止めてくれた。

「だ、大丈夫か? なんで廊下で回っているんだ?」
「うううーー……な、なんでだっけー?」

 うう……目が回って、なにがなんだか分からない……

 えーっと……そうだ! 僕、箱を持って逃げたんだ!!

 じ、じゃあ……雨紫陽花さんがここにいるのって……ま、まさか、僕を捕まえにきたんじゃ……!!

 どうしよう……に、逃げなきゃ!!

 逃げ出そうとしたけど、後ろから雨紫陽花さんに手を掴まれちゃう。

「は、離してください!!」
「待ってくれ! 俺はお前を捕まえにきたんじゃないんだ!!」
「え?」

 捕まえにきたんじゃないって……じゃあ、なに?

 暴れるのをやめて振り向くと、雨紫陽花さんは優しく言った。

「落ち着いてくれ……俺はお前を捕まるためにきたんじゃない」
「……だ、だって……この木箱、取り返しに来たんですよね?」
「いいや……俺も、それはオーフィザンに渡すべきではないと思う」
「え……?」
「その粉で作るものとなれば、俺にもどんなものができるか、想像できる。あまり……いいものじゃないと思う……」
「そ、そうなんです! あれでこちょこちょされると、僕、すっごく苦しくて……オーフィザン様、あの猫じゃらしはもう全部ないって言ってくれたのに……」
「……すまない……迷惑をかける。俺も止めたんだが…………笹桜は一度言い出すと、俺の言うことなんか聞いてくれないんだ」

 沈んだ様子で言う雨紫陽花さん。そんな彼の横から、突然ブレシーが顔を出した。

「雨紫陽花はいつも、笹桜に弱いんですー」
「わっ!! ぶ、ブレシー!?」

 びっくりして飛びのいちゃう。

 さっきまでいなかったのに、いつの間に近づいてきたの!?

 雨紫陽花さんもびっくりしてる。

「ブレシー!? ついてきたのか!?」
「うん。だってみんな出て行っちゃって、僕を置いていくなんて、ひどいじゃないですか」
「だが、お前は……」
「で、その箱、どうするんですか?」

 ブレシーに振り返って言われて、僕は木箱を見下ろす。

 これがオーフィザン様の手に渡っちゃったら……

「僕……この木箱、オーフィザン様に渡したくない…………雨紫陽花さん! な、なんとかなりませんか!?」

 僕が聞くと、雨紫陽花さんは首を横に振る。

「……すまない……俺に、今すぐそれを何とかすることはできないんだ。笹桜は、ああ見えて妖精としての力はかなりのもので、魔族の血も引いているから、魔力も使えるんだ」
「そ、そんな……じゃあ僕、あの怖い猫じゃらしにこちょこちょされるしかないの……?」

 ガタガタ震え出しちゃう僕に、ブレシーが「クラジュはあの猫じゃらし、苦手なの?」って聞いてくる。

「苦手です! あ、あれ、ダンドが焼いてくれて、オーフィザン様ももうないって言ってくれてたのにいぃぃ……」
「そうかー…………」

 怯えている僕の頭を、ブレシーは撫でてくれる。

「大丈夫ですよー。オーフィザンも、クラジュが怖がることはしないんじゃないかなー」
「ブレシー……ありがとうううーー…………」
「……本当にクラジュは可愛いなあ…………」

 うう……なんだかいっぱい撫でられたら、オーフィザン様が恋しくなってきた。

 いつもはオーフィザン様がなでなでしてくれるから、どうしても、オーフィザン様のことを思い出しちゃう。

 今頃怒ってるのかな……僕を探してるのかな……? 僕、これからどうすればいいの?

 俯いていたら、雨紫陽花さんにひどく心配させちゃったみたい。

「く、クラジュっ……! そんな顔をしないでくれ!! 策はある!」
「え……?」
「笹桜のものは、しばらく魔力のそばにいなければ消滅するんだ。だから、それを持ってしばらく逃げていれば、いずれ中のものは力を失い使えなくなる」
「……逃げてたら?」
「ああ。その木箱の中身が光を失うまで、笹桜から離しておけばいいんだ!」
「でも……」
「俺も手伝う!」
「……」

 これ……オーフィザン様への贈り物なのに、いいのかな……?

 悩んでいたら、隣でブレシーも微笑んで言った。

「僕も一緒に行きますー」
「だが……」

 苦い顔をする雨紫陽花さんだけど、ブレシーは笑顔ですぐに僕の方に向き直る。

「僕も、クラジュが心配なんです。行きましょう。少しの間、城の中を歩き回ってればいいんです。あ! ついでに、城の中を案内してください」
「う……はい……」

 もう一度、木箱を見下ろす。

 ……ごめんなさい……オーフィザン様! これは渡せません!!

 時間が来るまで逃げればいいなら、そんなに難しいことじゃない。僕はいつもドジして逃げ回ってるんだ!! 絶対逃げ切ってやる!!
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