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60.相手に届かない言い分
しおりを挟むそのまま街を抜け出した僕らは、隣町に向かう街道に入り、そこから少し離れた小川のほとりに降りた。
レヴェリルインの背中から降りると、すっかり腰が抜けていた僕は、足に力が入らなくて、その場にへたり込んでしまう。
そんな僕に、ドルニテットが怒りの形相で近づいてきた。
「このっ……!! 役立たずのグズがっ!! 訳もわからず危険なものを振り回して、どういうつもりだっっ!!」
「っ……! もっ……申し訳ございませんっ!!」
即座にその場で土下座する僕。
そんな僕とドルニテットに間に、レヴェリルインが入ってきた。
「俺が使えと言ったんだ」
「兄上……その場の勢いで危険なものをその役立たずに振り回させるのはやめてください!!」
「あれは魔物にしか効かない」
「危険なことは兄上になら分かるはずです!! しかも、そのグズに魔力を分け与えたりして!!」
「いいじゃないか。魔力くらい」
「あんな連中、そのグズでなくとも、兄上が軽く魔力を奮って黙らせればよかったんです。なぜわざわざその役立たずに杖を使わせたのですか!」
「使えるか試しただけだ。俺もそばにいた。一人で危ない真似をさせるようなことはしていない」
「……俺はその役立たずの心配など、微塵もしていません。むしろ、この際自らの魔法に巻き込まれて死んでほしいと思ってるくらいです。そうではなくて、そのグズに杖を持たせるべきではないと言っているんです。今すぐ杖を取り上げて、その男のことはその辺の木に吊るしましょう。俺が死ぬまで痛めつけてやります!」
「誰がそんなことをさせるもんか。だいたいお前は、一体何をそんなに怒っているんだ? どこにも被害は出ていないじゃないか」
「石畳が割れていました。その杖を打ちつけた際の衝撃によるものでしょう。魔物から力を奪う能力だけでなく、打撃の衝撃だけでもその威力……一体何を作っているんですか!」
「威力が強すぎたな」
「城の時と同じ言い訳をしないでください! 知っててやりましたね?」
「だが、全員無傷だっただろう?」
「無事であればいいと言うわけではっ……!」
怒鳴ろうとしたドルニテットを、アトウェントラさんが止めた。
「ドルニテット様。落ち着いてください。レヴェリ様とコフィレのおかげで逃げられたのですから……」
「貴様には兄上の恐ろしさが分からないのか? 軽く打ちつけただけで石を砕くようなものを、そこにいる何も考えていない男が持っているんだぞ!! 次は石と一緒にお前の頭が吹っ飛んでも知らないぞ!」
「ま、まあ……人は全員無事だったわけだし……そんなに怒鳴らなくても……」
怯むアトウェントラに、「馬鹿が」っと吐き捨てて、ドルニテットは空を見上げる。
何かが来たみたいだ。
僕もそっちを見上げると、魔法ギルド長のコエレシールが、空を飛んで僕らを追ってきているのが見えた。まだ少し飛び方がふらふらしていて、空から墜落するような勢いで、僕らの前に降りてくる。
「レヴェリルイン!! アトウェントラを返せ!!」
喚く彼は、レヴェリルインに向かって、魔法の杖を振ろうとしていたけど、その杖は、レヴェリルインが微動だにせずに撃った風の弾で、あっさり砕け散ってしまう。
「ぐっ……!」
呻いて、コエレシールは膝をつく。魔力で体を守ることもしていない。魔法使いなら、誰もができるはずなのに。
レヴェリルインは、膝をついたコエレシールの前に立って言った。
「やはり……お前たち、ほとんど魔力が残っていないな?」
「……!」
コエレシールは顔を背け、答えなかった。否定できないのか、黙ったまま微かに震えて、口を噤んでいる。
「コフィレグトグスが杖を使った時、お前たちは一瞬、魔力を使えなくなっていた。その杖は魔物の魔力しか奪えないのにだ」
するとドルニテットが、腕を組んで言った。
「……では、彼らがあの時、魔力が使えないと言っていたのは……」
「おそらく、魔物の魔力を用いた魔法具で、魔法を使っていたのだろう。ずいぶん変わった形の杖を使っていたようだったしな……」
レヴェリルインは、まだ俯いたままのコエレシールに向かってたずねた。
「王家の方からは、魔法の研究に関して、ずいぶんと無理な協力を強要されているようだし、その影響じゃないのか?」
「……っ!」
コエレシールの体がピクンと震える。レヴェリルインの言うとおりなんだろう。
けれどコエレシールは、杖をとって立ち上がった。すでに真ん中から無惨に折れてしまったそれを、それでもレヴェリルインに向けている。
「うるさい!! 反逆者の貴様に何がわかる!? 王家からは、何度も支援を受けているっ……協力を断れば、それを全て打ち切られるっ……! そうなったら魔物に対抗できなくなる魔法使いが多いんだ!」
「……そんなことなら、討伐を冒険者ギルドに頼めばいいじゃないか」
「できるかそんなこと!! も、門前払いにしたくせに!!」
喚いて、コエレシールはアトウェントラを睨みつけている。
アトウェントラの方は「そんなことしてない」って言って、二人とも睨み合っていた。
けれどコエレシールはすぐにアトウェントラから顔をそむけ、レヴェリルインを指差す。
「と、とにかくっ……!! アトウェントラを返せ!! そいつは連れていかせない!!」
「落ち着け。さすがに身売りさせるつもりの男に、こいつは渡せない」
「み、身売りさせようとしているのはお前だろう!! アトウェントラに何をさせる気だ!!」
「……なにを言ってるんだ? お前は……」
呆れたように言うレヴェリルインだけど、コエレシールは質問には答えずに、折れた杖だけで魔法を使い、雷撃を飛ばす。けれど、相当無理をしているらしい。すぐに地面に膝をついてしまう。
レヴェリルインは飛んできた雷撃を片手だけで払いのけ、コエレシールに向かって魔法の鎖を飛ばした。
鎖に巻きつかれたコエレシールは、その場に倒れて気絶してしまう。動かない彼に、アトウェントラが駆け寄って行った。
「コエレシール……」
倒れたコエレシールに、アトウェントラがそっと触れる。そんな彼を見下ろして、レヴェリルインはため息をついた。
「もう魔力は使えないだろうが……無理に暴れないように、捕縛の魔法だけかけておく。今日はこの辺りで一夜を明かそう」
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