いつも役立たずで迷惑だと言われてきた僕、ちょっとヤンデレな魔法使いに執着された。嫉妬? 独占? そんなことより二人で気ままに過ごしたいです!

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
5 / 15

5.それは……誰と行ったの?

しおりを挟む

 結局、なんだかよく分からないうちに、僕は馬車に乗せられた。しかも、彼と向かい合って座ることになって、僕はずっと緊張している。

 倒れていた人たち……大丈夫なのか? 雷撃の魔法なんて、一体、何をしていたんだろう。城の中で魔物が出たりはしないだろうし……魔法の練習でもしてたのかな。

 一方、ヴァソレリューズ様はなんだか嬉しそう。ずーっとニコニコしてる。

 もう訳がわからないし、ヴァソレリューズ様と馬車の中に二人きりだし、さっき抱っこされたし、それを思い出したら、ヴァソレリューズ様と目を合わせるのも恥ずかしい。

 なんなんだよっ……

 僕、逃げたりしないのに……

 むしろ、ヴァソレリューズ様のお屋敷に行くことができて、嬉しいのに…………

 今でも夢なんじゃないかと思うくらいだ。

 ……僕が枷をされていたから、動けないほどに疲れているだろうと思ったのかな……? だから抱っこしてくれたのかもしれない。
 そう思っておかないと、いつまでもヴァソレリューズ様の顔が見れないままになりそう。

 ずっと俯いていたら、向かいに座るヴァソレリューズ様が口を開いた。

「この街、いい街だね」
「え……」
「君は、歩いたことある?」
「は、はい……!」

 お使いを言いつけられて、何度か来たことはある。

 だけど、向かい側に座るヴァソレリューズ様のことが気になって気になって、街の景色どころじゃない。

 僕は何を考えてるんだ。これじゃ、本当に………………

 いや、違う。これは、さっきの抱っこを思いだして緊張しているだけだ。決して、色恋に関するものじゃない。

 だけど、抱っこを思い出したらやっぱり恥ずかしいっっ…………! 僕、何やってたんだ。意地でもさっさと降りればよかった。

 ヴァソレリューズ様は、一体どういうつもりなんだろう……

 チラッと彼の方を盗み見ると、彼は、窓の外を眺めていた。

「……来たことあるんだ……ふーーん…………それって、もしかして誰かと二人で来たりしたの?」
「……え? いえ……お使いですから一人で…………」
「そう……よかった!」
「…………」

 嬉しそうだなーー……

 そんなに街が珍しいのか……?

 領主様の城に来る時には、街も通って来ていたんじゃないのか? もしかしたら、いつも空を飛んで来ていたのかもしれない。

 僕も、外の景色を眺めた。

 大通りには人が行き交っていて、通り沿いには、さまざまな商店が並んでいる。

 ヴァソレリューズ様は、その一つを指差して言った。

「見て。美味しそう」
「へ?」

 彼は通りに並んだ可愛らしい看板のお店を指差していた。

 ……僕じゃないのか…………それはそうだよな。

 あの店なら、何度か行ったことがある。街でも有名な、ドーナツが人気の店だ。

 そうだ!! 街に来るのは初めてみたいだし、街のことを話したら、喜んでもらえるかもしれない。

「…………あ、あのっ……あの店、行ったことあります!」
「え……」

 驚いたのか、彼が僕をじっと見てる。

 やっぱり、街のことに興味があるんだ!

 あの店には、使用人に言われて、領主様にお出しするためのものを買いに行ったんだ。
 領主様のためのものを買いながら、ヴァソレリューズ様にも食べて欲しいって思ってたんだよな……
 美味しいって噂のものとか教えたら、喜んでもらえるかも!

 ヴァソレリューズ様は、じっと僕を見つめて言った。

「…………それは……誰と行ったの?」
「え…………? 一人です」
「そうか。食事をしたかったんだね」
「いえ。領主様に召し上がっていただくために買いに行ったんです!」
「……領主様………………ふーーーーん…………領主様…………」

 な……なんかそっぽ向かれてる?! なんで!?? 僕、なんか変なこと言った!!??

「止めて」

 ヴァソレリューズ様がそう言うと、馬車は止まる。

 そして、ほとんど無理やり手を引かれて、店まで連れて行かれた。

 ど、どうしたんだ? 急に……

 店内に入ると、甘い匂いがした。

 ショーケースに並んでいるのは、色とりどりのドーナツたち。

 すごい……ここに来るたびに、食べてみたいって思いながら見てたんだ。

 じっと見ていたら、ヴァソレリューズ様が口を開いた。

「どれがいい?」
「へ??」
「好きなの言って?」

 好きなの??

 あ……そうか。これからは、ヴァソレリューズ様に仕えるんだ。こう言う店に来たら、ヴァソレリューズ様の好きなものを当てて、注文しなきゃいけないんだ!!

 だけど、いきなり言われても、ヴァソレリューズ様がどれが好きかなんて分からない。

 きっと、これからヴァソレリューズ様に仕えるのにふさわしいか、試されているんだ!!

 ヴァソレリューズ様にはいつもお茶をお出ししていたし、好みなら少しくらい分かるつもりだ。

「まっ……任せてください!! ヴァソレリューズ様!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

気付いたらストーカーに外堀を埋められて溺愛包囲網が出来上がっていた話

上総啓
BL
何をするにもゆっくりになってしまうスローペースな会社員、マオ。小柄でぽわぽわしているマオは、最近できたストーカーに頭を悩ませていた。 と言っても何か悪いことがあるわけでもなく、ご飯を作ってくれたり掃除してくれたりという、割とありがたい被害ばかり。 動きが遅く家事に余裕がないマオにとっては、この上なく優しいストーカーだった。 通報する理由もないので全て受け入れていたら、あれ?と思う間もなく外堀を埋められていた。そんなぽややんスローペース受けの話

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした

こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。

【完結】異世界から来た鬼っ子を育てたら、ガッチリ男前に育って食べられた(性的に)

てんつぶ
BL
ある日、僕の住んでいるユノスの森に子供が一人で泣いていた。 言葉の通じないこのちいさな子と始まった共同生活。力の弱い僕を助けてくれる優しい子供はどんどん大きく育ち――― 大柄な鬼っ子(男前)×育ての親(平凡) 20201216 ランキング1位&応援ありがとうごございました!

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。

くまだった
BL
 新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。  金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。 貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け ムーンさんで先行投稿してます。 感想頂けたら嬉しいです!

幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。

叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。 幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。 大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。 幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。 他サイト様にも投稿しております。

処理中です...