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5.それは……誰と行ったの?
しおりを挟む結局、なんだかよく分からないうちに、僕は馬車に乗せられた。しかも、彼と向かい合って座ることになって、僕はずっと緊張している。
倒れていた人たち……大丈夫なのか? 雷撃の魔法なんて、一体、何をしていたんだろう。城の中で魔物が出たりはしないだろうし……魔法の練習でもしてたのかな。
一方、ヴァソレリューズ様はなんだか嬉しそう。ずーっとニコニコしてる。
もう訳がわからないし、ヴァソレリューズ様と馬車の中に二人きりだし、さっき抱っこされたし、それを思い出したら、ヴァソレリューズ様と目を合わせるのも恥ずかしい。
なんなんだよっ……
僕、逃げたりしないのに……
むしろ、ヴァソレリューズ様のお屋敷に行くことができて、嬉しいのに…………
今でも夢なんじゃないかと思うくらいだ。
……僕が枷をされていたから、動けないほどに疲れているだろうと思ったのかな……? だから抱っこしてくれたのかもしれない。
そう思っておかないと、いつまでもヴァソレリューズ様の顔が見れないままになりそう。
ずっと俯いていたら、向かいに座るヴァソレリューズ様が口を開いた。
「この街、いい街だね」
「え……」
「君は、歩いたことある?」
「は、はい……!」
お使いを言いつけられて、何度か来たことはある。
だけど、向かい側に座るヴァソレリューズ様のことが気になって気になって、街の景色どころじゃない。
僕は何を考えてるんだ。これじゃ、本当に………………
いや、違う。これは、さっきの抱っこを思いだして緊張しているだけだ。決して、色恋に関するものじゃない。
だけど、抱っこを思い出したらやっぱり恥ずかしいっっ…………! 僕、何やってたんだ。意地でもさっさと降りればよかった。
ヴァソレリューズ様は、一体どういうつもりなんだろう……
チラッと彼の方を盗み見ると、彼は、窓の外を眺めていた。
「……来たことあるんだ……ふーーん…………それって、もしかして誰かと二人で来たりしたの?」
「……え? いえ……お使いですから一人で…………」
「そう……よかった!」
「…………」
嬉しそうだなーー……
そんなに街が珍しいのか……?
領主様の城に来る時には、街も通って来ていたんじゃないのか? もしかしたら、いつも空を飛んで来ていたのかもしれない。
僕も、外の景色を眺めた。
大通りには人が行き交っていて、通り沿いには、さまざまな商店が並んでいる。
ヴァソレリューズ様は、その一つを指差して言った。
「見て。美味しそう」
「へ?」
彼は通りに並んだ可愛らしい看板のお店を指差していた。
……僕じゃないのか…………それはそうだよな。
あの店なら、何度か行ったことがある。街でも有名な、ドーナツが人気の店だ。
そうだ!! 街に来るのは初めてみたいだし、街のことを話したら、喜んでもらえるかもしれない。
「…………あ、あのっ……あの店、行ったことあります!」
「え……」
驚いたのか、彼が僕をじっと見てる。
やっぱり、街のことに興味があるんだ!
あの店には、使用人に言われて、領主様にお出しするためのものを買いに行ったんだ。
領主様のためのものを買いながら、ヴァソレリューズ様にも食べて欲しいって思ってたんだよな……
美味しいって噂のものとか教えたら、喜んでもらえるかも!
ヴァソレリューズ様は、じっと僕を見つめて言った。
「…………それは……誰と行ったの?」
「え…………? 一人です」
「そうか。食事をしたかったんだね」
「いえ。領主様に召し上がっていただくために買いに行ったんです!」
「……領主様………………ふーーーーん…………領主様…………」
な……なんかそっぽ向かれてる?! なんで!?? 僕、なんか変なこと言った!!??
「止めて」
ヴァソレリューズ様がそう言うと、馬車は止まる。
そして、ほとんど無理やり手を引かれて、店まで連れて行かれた。
ど、どうしたんだ? 急に……
店内に入ると、甘い匂いがした。
ショーケースに並んでいるのは、色とりどりのドーナツたち。
すごい……ここに来るたびに、食べてみたいって思いながら見てたんだ。
じっと見ていたら、ヴァソレリューズ様が口を開いた。
「どれがいい?」
「へ??」
「好きなの言って?」
好きなの??
あ……そうか。これからは、ヴァソレリューズ様に仕えるんだ。こう言う店に来たら、ヴァソレリューズ様の好きなものを当てて、注文しなきゃいけないんだ!!
だけど、いきなり言われても、ヴァソレリューズ様がどれが好きかなんて分からない。
きっと、これからヴァソレリューズ様に仕えるのにふさわしいか、試されているんだ!!
ヴァソレリューズ様にはいつもお茶をお出ししていたし、好みなら少しくらい分かるつもりだ。
「まっ……任せてください!! ヴァソレリューズ様!!」
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