いつも役立たずで迷惑だと言われてきた僕、ちょっとヤンデレな魔法使いに執着された。嫉妬? 独占? そんなことより二人で気ままに過ごしたいです!

迷路を跳ぶ狐

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4.やっと手に入れた

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 よく分からないけど、とりあえず、一つだけは分かった。

 僕が従属する相手が、領主様からヴァソレリューズ様に代わったってことだ。それだけだ。変な期待はしない。

「……えっと…………僕は……」
「あ、俺のところに来るのを断るのはなしだよ?」
「え……」
「君を引き受けるために、俺、大金払ってるから」
「え…………」

 彼は、その額を教えてくれたが、それは恐ろしい金額だった。

 え…………

 え?? 本気?? 本気でその額を払ったの??
 どうかしてるだろ!! どれだけ無駄金使ってるんだ!!

 どうしよう…………ものすごい無駄金を使わせてしまった……

「あ、あの………………ぼ、僕…………あの……そ、そんな大金……」
「あ、勘違いしないでよ? 君に払え、なんて絶対に言わないし、俺は君を買った気もないから」
「…………え?」
「どうしても君が欲しかったから払っただけ。君にはしばらく、魔法の道具の管理をするために、俺の屋敷に来てもらう。その間、ここの領主は別の魔法使いを雇うらしいから、その代金だよ」
「…………」

 領主様、そんなのまで払わせるなよ……

 ヴァソレリューズ様だって、そんなの払うことないのに、足元見られてないか?

 焦るばかりの僕。

 汗がダラダラ流れるし体は震えるし、どうしたらいいんだ。

 怯える僕に、彼はにっこり笑う。

「そんな顔しないで。連れ出しちゃえば、こっちのものだから」
「…………え?」
「とにかく、今日から君は俺のもの……じゃなくて、俺のところに来てもらう。嫌だなんて、言わないよね?」
「……言いません」

 そもそも、僕にそんな決定権がない。行けと言われたら行かなきゃならない。それが僕だ。

 しかし…………

「よかった……これからたくさん弄ぶね?」
「…………」

 たまになんだか気になることを言われてるんだけど……これも、勘違い?

 僕が黙っていると、彼は慌てた様子で言った。

「あ…………そうじゃなくて、よろしくね?」
「……よろしく」
「じゃあ、行こうか」
「は、はい……」

 返事をすると、彼は僕の手を握って引き寄せる。そして抵抗する間も無く、僕の体が急に浮き上がったかと思えば、彼は僕を横抱きにしてしまう。

「わっ………………な、何!??」
「途中で逃げられたら困るから。ちゃんと捕まえておかないと」
「あ、あのっ…………でも、僕っ……」

 ……顔が……近すぎるっ…………!

 こんな風に抱っこされてるだけでもびっくりなのに、顔が近すぎるだろっ…………!
 しかも、これじゃ顔を背けても、体が密着したままだ。

 僕を抱き止める手の感触が伝わってくる……

 ひどく、心強く感じた。なんだか、包まれているみたいで。

「あ、あのっ………………下ろしてください……」
「だめ。逃げられたら困る」
「逃げたりしませんっっ!!!!」

 すぐに、こんな至近距離にいるとは思えない勢いで、叫んでいた。

 僕、悲鳴以外でこんなに大きな声、出るんだ。

 言った後で急に恥ずかしいけど、そんなこと、僕はしないのに。

 ヴァソレリューズ様は少しびっくりしていたけど、嬉しそうに微笑んだ。

「……屋敷に帰ったら、たくさん可愛がるからね」
「…………え…………」
「さあ、行こうーー」
「え、あ、あのっ…………まず下ろしてっ……!!」

 相手は高名な魔法使いだし、俺が抱っこされてていいわけがない。
 それなのに、暴れたって彼はまるで僕を離す様子がないし……なんなんだよ……!!

 そのまま廊下に連れて行かれて、そろそろ「下ろして」と言うのを諦め始めた頃、廊下の端に、数人が倒れているのを見つけた。僕に掃除を言いつけて、枷をつけた奴らだ。みんなぐったり倒れているのに、体がたまに激しく震えている。誰もが苦しげに呻いていた。

 なんだっ……?! 毒の魔法? ……じゃない。これ、雷撃の魔法だ。

「あ、あのっ…………」

 彼らに向かって手を伸ばして、すぐに駆け寄ろうとしたけど、ヴァソレリューズ様に強く抱きかかえられてしまい、動けない。

「あの……」

 見上げても、ヴァソレリューズ様は微笑むだけ。

「…………どうしたの?」

 どうしたのって……

 この状況でそれ、そんなに笑顔で聞く?

 何も返事できないでいると、彼はさらに続ける。

「彼らのことが…………心配?」
「え…………だっ……て…………その、倒れて……」
「雷撃の魔法が暴走してしまったみたいなんだ。かわいそうに」
「へっ…………?? だ、だったら誰か呼ばないとっ……」

 また彼の腕から降りようとするけど、結果は同じ。強く抱き止められて、全く動けない。

「あの……」
「彼らなら、大丈夫。もう領主を呼んだから」
「へ?」

 僕が驚いていると、廊下の向こうから、護衛や側近を引き連れた領主様が走ってくる。そして、倒れた魔法使いたちを見て、ひどく驚いていた。

「これは…………」
「雷撃の魔法が暴走したみたいなんです。かわいそうに」

 さっきと全く同じことを言って、ヴァソレリューズ様は僕を抱き抱えたまま、領主様の横をすり抜けて歩いて行く。

「ヴァソレリューズ殿っ…………!」

 呼んで、領主様はヴァソレリューズ様に振り向いた。

「あのっ…………彼らはやけに魔力が減っているようなのですがっ……!」
「ずっと自らの魔法が暴走していて魔力を消費してるんだから、当たり前ではありませんか?」
「…………」
「彼のことは、もらっていきます」

 満足げに言って、彼は僕を連れて行く。

 みんな、さっきの僕みたいに呆然としてこっちを見ていた。

 そして、誰もいないところまで来てから、僕は恐る恐る、口を開いた。やっぱりそろそろ下ろして欲しかったからだ。

「あの…………」
「彼らのことなら、心配いらない」
「え……」
「だから、俺以外の奴のこと、心配したりしないでね?」
「……」
「もう……俺以外の奴を見るの、禁止だよ?」
「……………………」

 えーーっと……見てないけど…………

 本当に、どうしちゃったんだろう……
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