誰より重くて愛がないと言われる僕の後ろには、いつも監禁趣味のあいつがいる

迷路を跳ぶ狐

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3.大事な日課


 仕事したくない……すごく仕事したくない……

 手錠をかけられた僕は、そのまま職場まで連れてこられた。

 職場の駐車場に車を停めて、そこでやっと、フュイアルさんは僕にかけた手錠を外してくれる。

「行こうか。外、まだ砂嵐だから、ちゃんと傘さして行くんだよ」
「大きなお世話です。砂よりフュイアルさんの方がやばいです」

 キッパリ言ってやるけど、そいつは僕を笑い飛ばして車から降りて、魔法の傘をさし、職場があるビルの方へ向かって行く。

 仕返しに後ろから魔法をかけてやりたいけど、さっき失敗したばかり。

 別の作戦を練るか……

 考えながら、砂嵐の中を、それを防ぐための魔法の傘をさして歩く。
 けれども、さっきまでフュイアルさんに手錠をかけられていた影響か、傘はすぐに消えてしまった。

 魔法までうまくいかないなんて……もう走るしかない。

 ビルに向かって走り出すと、僕の体に、またあの魔法の鎖が巻きついてきた。

「わ! わーー!!」

 体が浮く!!

 まるで釣竿で吊り上げられるように僕の体は飛び上がった。僕を縛る鎖の端を握っていたのは、もちろんフュイアルさん。
 そいつは、砂嵐の中、僕を縛る鎖を握って、魔法で空を飛んでいく。

「ち、ちょっ……離してください!! 何するんですか! フュイアルさん!」
「傘させって言ったのに、ささないから。このまま連れて行く」
「え……お、おいっ!! 待って! さすから!! 傘、自分でさす!!!」

 さすって言ってるのに、フュイアルさんはそれを無視して僕を縛る鎖を握り、オフィスがある最上階まで飛んでいった。







 あっという間に最上階の窓まで飛んだフュイアルさんは、魔法でガラス張りの壁を擦り抜け、オフィスの中に入った。そこまできてやっと、鎖を消してくれる。

 なんで朝っぱらから二回も鎖で巻かれなきゃならないんだ。

「砂、かぶらなかった?」

 差し出されたハンカチを思いっきり跳ね除けてやる。
 魔法のおかげで、砂で汚れることはなかったけど、鎖でぐるぐる巻きにされるくらいなら、砂まみれになった方がいい。

「今度からは死ぬ気で傘さすんで、二度とこんなことしないでください!」
「さしたらね」

 飄々とした態度がまたむかつく……

 もうフュイアルさんのことは考えないようにして、僕は自分のデスクについた。

 だだっ広いオフィスには、デスクがたくさん並んでいるけど、ここにいるのはいつも、僕とフュイアルさんの二人だけ。他の人がいることはほとんどない。みんな街の見回りや、魔物退治に駆り出されているんだ。

 僕らは、街で暴れる魔物を退治するのが仕事。最近は魔物が増えていて、みんな忙しい。
 最近は魔物だけでなく、魔物を売って稼ぐ奴や、魔物を手懐けてその力を試すために、強化した魔物に僕らを襲わせる奴まで現れ始めた。
 そのせいで、魔物以外のそういった奴らの相手までしなきゃならない。

 だから、ここに普段からいるのは、フュイアルさんに大量の事務作業を押し付けられた僕と、何やってるんだか分からないフュイアルさんだけ。

 こんな監禁趣味の上司と同じ空間にいるくらいなら、魔物の相手をしていたいのに、フュイアルさんは、いつも僕にばかり雑用を押し付ける。

 最悪だ。この人、僕に恋人ができるたびに嫌がらせしてくるんだ。もう、僕にとってはこいつの方が魔物だ。

 今も、性悪な悪魔みたいな顔して、自分のデスクでずーっと電話してる。多分、政府の高官かなんかと、魔物の話をしているんだろう。

 今のうちに、僕も僕の仕事をしよう。ここについた時に手錠を外してもらったから、もう魔法だって使える。

 魔法で作り出した双眼鏡を持って、ガラス張りの壁に近づく。
 砂嵐で地上の様子は分かりにくいけど、ダストが毎日通うパチンコ屋の位置は、すぐにわかる。そっちに向かって魔法の双眼鏡をのぞけば、パチンコ台の前に座るダストの姿が見えた。

 このあたりで一番高いこの場所からなら、魔法を使えば、どこにいても、ダストの姿がよく見えるんだ。

 また負けてる。そんなところがいい。金いっぱいあげたから、しばらくはあそこにいるはずだ。僕はゆっくり項垂れるダスト見てよう。

「わっっ!!」

 いいところだったのに、また僕の両手に手錠が現れる。その瞬間、双眼鏡も消えてしまった。

 くそ……またやられた。

 この手錠は、魔力を取り上げる手錠で、フュイアルさんの魔法だ。こんなのつけられたら、僕は魔法が使えない。ダストを見ていることができない。

 僕の大事な時間を奪ったフュイアルさんは、デスクの受話器を置いて、笑顔で言った。

「仕事してね」
「してました」
「嘘つかない。ダスト見てたんだろ?」
「見てません。魔物探してました」
「嘘つくと、また鎖だよ?」
「……」

 ……それだけは嫌だ。

 仕方なく、デスクに戻って仕事を再開。

 あーあ……ダスト見たい……

 それに、ダストと離れたら急にお腹が空いてきた。ダストオムライスを食べる前に、フュイアルさんに監禁されたからだ。

 マジで死んでくれないかな。あの犯罪上司……

 ぐううううっと、お腹が大きな音で鳴る。そしたら後ろから、こん、とフュイアルさんに頭をこづかれた。いつの間に背後に立ってるんだ。

「腹の音大きすぎ。ランチ行っていいよ」
「ありがとうございます!!!」
「ただし、買って来てここで食べてね」
「なんでですか!?」
「外で食べていいって言ったら、ダストのところ行くだろ?」
「……」
「はい。これ。俺が奢ってやるから好きなの買ってきて。ついでに、俺の朝食もお願い」
「……」

 フュイアルさんは、僕に数枚の紙幣を突き出してくる。

 こんな奴に奢られるのも、こんな奴の朝食を用意するのも、こんな奴と食事をするのも、すげー嫌だ。
 だけど、腹は減った……しかも、昨日ダストに財布の金を全部あげたから、朝食代がない。

 空腹に負け、出された金を受け取る。

「行ってきます……」
「傘、さすんだよ」
「わかってます!」

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