3 / 106
3.大事な日課
仕事したくない……すごく仕事したくない……
手錠をかけられた僕は、そのまま職場まで連れてこられた。
職場の駐車場に車を停めて、そこでやっと、フュイアルさんは僕にかけた手錠を外してくれる。
「行こうか。外、まだ砂嵐だから、ちゃんと傘さして行くんだよ」
「大きなお世話です。砂よりフュイアルさんの方がやばいです」
キッパリ言ってやるけど、そいつは僕を笑い飛ばして車から降りて、魔法の傘をさし、職場があるビルの方へ向かって行く。
仕返しに後ろから魔法をかけてやりたいけど、さっき失敗したばかり。
別の作戦を練るか……
考えながら、砂嵐の中を、それを防ぐための魔法の傘をさして歩く。
けれども、さっきまでフュイアルさんに手錠をかけられていた影響か、傘はすぐに消えてしまった。
魔法までうまくいかないなんて……もう走るしかない。
ビルに向かって走り出すと、僕の体に、またあの魔法の鎖が巻きついてきた。
「わ! わーー!!」
体が浮く!!
まるで釣竿で吊り上げられるように僕の体は飛び上がった。僕を縛る鎖の端を握っていたのは、もちろんフュイアルさん。
そいつは、砂嵐の中、僕を縛る鎖を握って、魔法で空を飛んでいく。
「ち、ちょっ……離してください!! 何するんですか! フュイアルさん!」
「傘させって言ったのに、ささないから。このまま連れて行く」
「え……お、おいっ!! 待って! さすから!! 傘、自分でさす!!!」
さすって言ってるのに、フュイアルさんはそれを無視して僕を縛る鎖を握り、オフィスがある最上階まで飛んでいった。
あっという間に最上階の窓まで飛んだフュイアルさんは、魔法でガラス張りの壁を擦り抜け、オフィスの中に入った。そこまできてやっと、鎖を消してくれる。
なんで朝っぱらから二回も鎖で巻かれなきゃならないんだ。
「砂、かぶらなかった?」
差し出されたハンカチを思いっきり跳ね除けてやる。
魔法のおかげで、砂で汚れることはなかったけど、鎖でぐるぐる巻きにされるくらいなら、砂まみれになった方がいい。
「今度からは死ぬ気で傘さすんで、二度とこんなことしないでください!」
「さしたらね」
飄々とした態度がまたむかつく……
もうフュイアルさんのことは考えないようにして、僕は自分のデスクについた。
だだっ広いオフィスには、デスクがたくさん並んでいるけど、ここにいるのはいつも、僕とフュイアルさんの二人だけ。他の人がいることはほとんどない。みんな街の見回りや、魔物退治に駆り出されているんだ。
僕らは、街で暴れる魔物を退治するのが仕事。最近は魔物が増えていて、みんな忙しい。
最近は魔物だけでなく、魔物を売って稼ぐ奴や、魔物を手懐けてその力を試すために、強化した魔物に僕らを襲わせる奴まで現れ始めた。
そのせいで、魔物以外のそういった奴らの相手までしなきゃならない。
だから、ここに普段からいるのは、フュイアルさんに大量の事務作業を押し付けられた僕と、何やってるんだか分からないフュイアルさんだけ。
こんな監禁趣味の上司と同じ空間にいるくらいなら、魔物の相手をしていたいのに、フュイアルさんは、いつも僕にばかり雑用を押し付ける。
最悪だ。この人、僕に恋人ができるたびに嫌がらせしてくるんだ。もう、僕にとってはこいつの方が魔物だ。
今も、性悪な悪魔みたいな顔して、自分のデスクでずーっと電話してる。多分、政府の高官かなんかと、魔物の話をしているんだろう。
今のうちに、僕も僕の仕事をしよう。ここについた時に手錠を外してもらったから、もう魔法だって使える。
魔法で作り出した双眼鏡を持って、ガラス張りの壁に近づく。
砂嵐で地上の様子は分かりにくいけど、ダストが毎日通うパチンコ屋の位置は、すぐにわかる。そっちに向かって魔法の双眼鏡をのぞけば、パチンコ台の前に座るダストの姿が見えた。
このあたりで一番高いこの場所からなら、魔法を使えば、どこにいても、ダストの姿がよく見えるんだ。
また負けてる。そんなところがいい。金いっぱいあげたから、しばらくはあそこにいるはずだ。僕はゆっくり項垂れるダスト見てよう。
「わっっ!!」
いいところだったのに、また僕の両手に手錠が現れる。その瞬間、双眼鏡も消えてしまった。
くそ……またやられた。
この手錠は、魔力を取り上げる手錠で、フュイアルさんの魔法だ。こんなのつけられたら、僕は魔法が使えない。ダストを見ていることができない。
僕の大事な時間を奪ったフュイアルさんは、デスクの受話器を置いて、笑顔で言った。
「仕事してね」
「してました」
「嘘つかない。ダスト見てたんだろ?」
「見てません。魔物探してました」
「嘘つくと、また鎖だよ?」
「……」
……それだけは嫌だ。
仕方なく、デスクに戻って仕事を再開。
あーあ……ダスト見たい……
それに、ダストと離れたら急にお腹が空いてきた。ダストオムライスを食べる前に、フュイアルさんに監禁されたからだ。
マジで死んでくれないかな。あの犯罪上司……
ぐううううっと、お腹が大きな音で鳴る。そしたら後ろから、こん、とフュイアルさんに頭をこづかれた。いつの間に背後に立ってるんだ。
「腹の音大きすぎ。ランチ行っていいよ」
「ありがとうございます!!!」
「ただし、買って来てここで食べてね」
「なんでですか!?」
「外で食べていいって言ったら、ダストのところ行くだろ?」
「……」
「はい。これ。俺が奢ってやるから好きなの買ってきて。ついでに、俺の朝食もお願い」
「……」
フュイアルさんは、僕に数枚の紙幣を突き出してくる。
こんな奴に奢られるのも、こんな奴の朝食を用意するのも、こんな奴と食事をするのも、すげー嫌だ。
だけど、腹は減った……しかも、昨日ダストに財布の金を全部あげたから、朝食代がない。
空腹に負け、出された金を受け取る。
「行ってきます……」
「傘、さすんだよ」
「わかってます!」
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!
由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って?
いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
平凡な俺が完璧なお兄様に執着されてます
クズねこ
BL
いつもは目も合わせてくれないのにある時だけ異様に甘えてくるお兄様と義理の弟の話。
『次期公爵家当主』『皇太子様の右腕』そんなふうに言われているのは俺の義理のお兄様である。
何をするにも完璧で、なんでも片手間にやってしまうそんなお兄様に執着されるお話。
BLでヤンデレものです。
第13回BL大賞に応募中です。ぜひ、応援よろしくお願いします!
週一 更新予定
ときどきプラスで更新します!
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL要素までとても遠いです。前半日常会多め。
被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。
かとらり。
BL
セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。
オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。
それは……重度の被虐趣味だ。
虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。
だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?
そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。
ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…