誰より重くて愛がないと言われる僕の後ろには、いつも監禁趣味のあいつがいる

迷路を跳ぶ狐

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6.別れるって……何?


 フュイアルさんに言われるとおり、車を走らせ、広い大通りに出ると、向こう側から歩道をダストが歩いてくる。

 やっと会えたんだ! こんなにそばにいたのに、なんで捜索の魔法が効かなかったんだろう?

 不思議だけど、もうどうでもいい!! だって、やっとダストを見つけたんだから!!

 僕は急いで車を止め、ダストに駆け寄った。

「ダスト!! 見つけたよ!」
「……トラシュ? 何やってんだ、お前……仕事はどうした?」
「そんな事より、心配したよ! どこにもいないから……」
「はあ? お前、また俺のこと、探しまわってたのかよ……」
「探すよ。ダストが僕の目の届く範囲からいなくなるなんて、耐えられない……ねえ、どこへ行ってたの!?」
「金」
「え?」
「パチンコ代」

 ダストは右の手のひらを出す。パチンコ代が欲しいんだろうけど、僕は今、金なんか持ってない。

「金はないよ……それより、どこ行ってたの?」
「なんだよ……金ねーのかよ……使えねえ……」
「金より僕の質問に答えて! わっっ!!」

 真剣な話をしているのに、後ろから強く肩を引かれ、ダストから離されてしまう。

 またフュイアルさんだ。せっかくダストに会えたのに、何すんだ!!

 フュイアルさんは、僕の隣に並んで、あろうことかダストを睨みつけ、ダストに向かって言った。

「俺の言ったこと、忘れたのか? それとも、聞いてなかったのか?」

 は? こいつ、僕に内緒でダストに何か言ったのか??

 前にもそういうことして僕と怒鳴り合いになったことある。勝手に僕の彼氏に会って、その次の日から、彼氏は僕にひどく冷たくなって、別れを告げられた。

 このクソ上司……またやったな!! どおりでダストがどっか行っちゃうわけだ!!

「フュイアルさん! どういうことですか!!」

 即座に怒鳴りつけたけど、フュイアルさんに腕を掴まれ、フュイアルさんの背後に回されてしまう。魔族なだけあって馬鹿力。ちっとも振り解けない。

 くそっ……こんな奴に腕を掴まれているだけでも嫌なのに!

 フュイアルさんに睨まれたかわいそうなダストは、すぐにフュイアルさんから顔をそむける。

「……聞いてた。俺はただ、これ、返しに来ただけ」

 ダストが僕に何か渡す。財布じゃないか。それも、僕の。なんでこんなの持ってるんだ?

「ダスト? これ……なに?」
「使おうと思ったら空だった」
「え……?」
「なんだよ。財布持ってくくらい、いいだろ? どうせ、全部俺のパチンコ代になるんだから」
「いいけど……なんでこんなの持ってるの?」
「部屋にあったから。じゃあな」
「ま、待って! どこ行くんだよ!! フュイアルさんのことは、無視すればいいんだよ!?」
「別れよう」
「……え?」
「だから、別れようって言ったんだ」
「………………え? ……な、なんで? わ、別れよう? ……別れようって…………え? 別れようって……なに?」
「別れるってこと。一回言ったら理解しろよ。マジめんどくせぇ奴……」

 ダストは、僕に背を向け歩き出してしまう。

 ダストは一体何を言っているの? 別れるって、まさか、僕らのこと? 何を言っているの?? 別れるって恋人じゃなくなるってこと? なんで?

 僕とダストが別れるなんてあり得ないのに、ダストは僕に振り向かない。なんで!?

 僕は、渾身の力を込めてフュイアルさんの手を振り払い、ダストの手を握った。

「待ってっっっ!!! ねえっ!! 別れようって、なんでっっ!!?? どこ行くの!?」
「帰るんだよ。新しい俺の家。もうお前との同棲も終わりだ」
「だからなんでっっ!? わ、別れるなんて……別れるってなに!!?? なんでそんなこと言うの!?」
「だってお前、もう金稼げなくなるんだろ?」
「え……?」
「……そいつから聞いた。金がないなら、もう付き合えない」

 ダストは、顎でフュイアルさんを指している。

 僕がフュイアルさんに振り向いたら、フュイアルさんは、にっこり笑った。

「トラシュは今日からサボらなくなるまで給料なし」
「なんでですかっっ!?」
「説明いる?」

 僕は訳がわからないのに、ダストはすぐに僕に背を向けてしまう。

「そういうこと。俺、貧乏なやつ、嫌いなんだ」

 ……一体、なにを言われているの?

 ダストが……僕を嫌い? ……嫌いって、なに? なんで?

 振り向かないダストを、フュイアルさんが止める。

「待て。お前、トラシュが金出さなくなったら捨てる気だったのか?」
「ああ。そうだよ。だって、財布、空じゃん。それじゃ俺、ギャンブルできないじゃん?」

 ……財布が空になったから、僕とはお別れなの? なんで……??

 立ち尽くす僕に、ダストはさようならと言う時のように手を振る。

「じゃあな。あ、これでキレて俺に何かしたら、お前のこと訴えるから」

 ダストは……本気なの?

 僕に背を向けて行っちゃうの?

 なんで?

 なんでそんなことを言うんだ? だって、あんなに愛し合っていたのに。

 彼が言っていることを、僕は理解できないのに、涙だけはボロボロ流れている。

 手にも力が入らなくなって、返された財布が地面に落ちた。それから、二人で撮った写真が落ちる。
 その写真の中では、僕を好きだと言ってくれたダストが、僕が大好きだった笑顔で、僕の隣にいてくれている。
 だけど、今、僕に背を向けてしまったダストは、僕が一番大切にしていた写真を踏みつけて、僕に背を向け、僕から離れていく。

 僕が愛した写真の中のダストの笑顔が、泥で汚れてもう見えない。

 いつも持っていた写真に、必死に手を伸ばす。早く拾いたいのに、震えてうまくいかない。

 写真はなんとか拾い上げたけど、いくら拭いても汚れが落ちなくて、写真の中のダストの顔は見えないまま。

 ギュッと写真を握ると、優しかったダストのことばかりが思い出されて、胸が痛くてたまらない。

 僕は写真を抱きしめ、声を殺して泣いた。

「ふ、う……う……」
「なにやってるんだ!! 出たぞ!!」

 いきなりフュイアルさんが僕の腕を強く引く。痛いし、一体なんだよ!

「は、離して……離せよ!!」
「早く来い!! 魔物だ!!」
「え……ああ……」

 あー……本当だ。魔物だ。

 少し離れたところで、ビルをも超すほどの巨人のような魔物が、拳を振り上げて暴れてる。その場にいた人は、みんな逃げ惑っているけど、僕は傷心で、それどころじゃないんだ。

 それなのに、フュイアルさんは、僕の腕を引っ張りながら喚いている。

「戦えないなら逃げろ! 俺がやる!」
「知らない……一人で行ってください。僕、もう動けないよ……」
「馬鹿!!」

 フュイアルさんが、僕を担ぎ上げて走り出す。

 余計なお世話だ。僕は、逃げることも戦うこともしたくないのに。

 だけど、ぐったりしたまま担がれている僕のところに、ダストが走って来た。考え直してくれたんだ!!

 僕は、フュイアルさんを振り払ってダストに駆け寄った。

「ダスト! やっぱり戻って来てくれたんだ!」
「お前、何やってるんだよ!! 早く、あれなんとかしろ!!」
「………………え……?」
「ああいうの追い払うのがお前の役目だろ!! さっさと倒してこい!!」
「……僕のところに戻って来たんじゃないんだ……」
「今そんなこと言ってる場合か!」

 言ってる場合に決まってる。

 僕はいつだって、ダストのことしか考えてない。ダスト以外、どうでもいい。

 例え今、空から崩れたビルの破片が雨のように落ちて来ようが、道路がひび割れて信号機が倒れようが、周りの建物が崩されていこうが、向こうの方で人が倒れていようが、ダストさえそばにいてくれれば、どうでもいいんだ。

 それなのに、なんでそんなこと言うの? ダストは僕のことを全く考えていないの? なんで逃げていくの? なんで僕に背を向けているの? なんで今魔物のことなんか考えてるの? なんで僕のこと考えないの?? なんで僕のそばから離れようとしてるの!?

 僕はダストさえいればそれでいいのに、ダストはそうじゃないんだ。

 写真、踏むなんてひどい。あれは僕とダストのツーショットなのに。

「ダストの馬鹿……」
「あ!? なんだよ!?」
「ダストのばぁかああああぁぁぁーーーーーーーーっっっ!!!!」

 怒りに任せて打った魔法は、その場にいた魔物とダストを巻き込んで、一気に燃え上がった。噴き上がる炎が、巨大な竜巻のように空に登っていく。

 魔物は一瞬で灰になった。

 これが僕の魔力。魔物くらいだったら、あっさり倒せるけど、僕の後ろにいる嫌味な上司から見たら、カスみたいなもんだ。

 燃やされた魔物とその魔物がいたあたりにあったものが燃えて、灰が空からパラパラ落ちてくる。その灰にまみれて、ダストが倒れていた。僕の背後にいるフュイアルさんが魔法で守ったんだろう。

 フュイアルさんは、僕の後ろで「よくできました」と言いながら、馬鹿にするように手を叩いていた。

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