7 / 106
7.ひどい……
ダストの馬鹿……あんまりだ……ひどすぎる……
泣き続けて目が痛い。
カバーを剥ぎ取って、顔を埋めていたクッションも、涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。
ダストにあんなひどいことを言われた僕は、ショックすぎて、もう泣くことしかできなかった。まともに動くことすらできなくなくて、フュイアルさんに連れられるままに、停めっぱなしだった車に乗った。
助手席には涙で前が見えない僕。運転席にはフュイアルさん。フュイアルさんは、何も言わず、車を職場に向けて運転していた。
車の窓からは、街の修繕を行うため役所から派遣された修繕課の魔法使いたちが歩いているのが見える。
僕の魔法で魔物は灰になったし、明日には多分、街も全部元どおりになっているんだろう。
ダストは全身火傷で病院に運ばれた。魔物退治中の事故として処理されたから、僕はお咎めなしだ。
ダスト……ひどい……僕はずっと大好きだったのに、あんなこと言うなんて……
「ダストの馬鹿ダストの馬鹿ダストの馬鹿ダストの馬鹿ダストの馬鹿ダストの馬鹿ダストの馬鹿ダストの馬鹿ダストの馬鹿ダストの馬鹿ダストの馬鹿ダストの馬鹿ダストの馬鹿ダストの馬鹿…………」
剥ぎ取ったダストのクッションカバーを、魔法で呼び出した絵の具で黒く塗っていると、ハンドルを握るフュイアルさんが、呆れたように言った。
「なにやってるの?」
「呪いの魔法かけてます」
「……クッションカバー塗っても、なんの意味もないんじゃない? 人族のトラシュに、呪いなんて高度な魔法も無理だし」
「……」
なんで今、そういうムカつくことを言うんだ。もう腹いせに、この人を刺したい。
だいたい、普段ダストを悪く言うくせに、なんで庇ったんだ? 僕のことは縛り上げて痛めつける冷血上司のくせに。
「フュイアルさん……」
「なに?」
「まさか、ダストを好きになったんですか!?」
「あり得ないね。むしろ、この上なく嫌い」
「じゃあ、なんでダストを庇ったんですか……?」
「なんのこと?」
「さっきダストを僕の魔法から守りましたよね!? ダスト、火傷だけだったじゃないですか!!」
「だって、さすがに巻き込まれた人が死んだとなれば、トラシュはただじゃ済まないよ? 逮捕、とまではいかなくても、しばらくしつこく話聞かれたり、場合によっては謹慎くらいあるかもしれない。そしたら、職場に来れなくなるんだよ?」
「別に仕事なんか行きたくありません……胸が痛すぎて、しばらく仕事なんか無理です」
「無理なんて言わない。魔物の前でボーっとしてたことと、他人を巻き込もうとして俺の手を煩わせたことを減点しても、今日はよくやったよ。合格点のご褒美に、いい酒飲ませてあげる。今夜は俺の部屋に来て」
「いりません。行きません。キモいです。死んでください!!」
「泣いてるくせに断るの早いねー。行くか行かないかなんて、聞いてない。これ、命令だから」
「そんな命令聞けるかっ!! お前になんの権利があるんだ!!」
「俺、上司だよ?」
「だからなんだ!! そんなの、関係ないだろ! 行かない!! 家に帰る!!」
「ダストの写真まみれの家に帰ったら、トラシュ、キレるでしょ。トラシュがマンションとその周辺破壊して捕まったら困る。俺の仕事もキツくなる。帰さないよ」
「帰るっ!! わっっっっ!!!!」
油断してたら、また鎖で巻かれた。しまった……
だけどもう、朝みたいに抵抗する力は残っていない。
泣きながらフュイアルさんを睨みつけるけど、そいつは気にもとめず、笑顔でハンドルを握っていた。
「どうせ夕飯代もないんでしょ? いいもの食べさせてあげるから」
「フュイアルさんなんかに奢られたくない! こんなことする奴が出すもんなんか、怖くて食べられるもんか! 離せっっ!!」
「ダメ。いい子にしてないと、骨が折れるまで締め上げるよ?」
このっ……最低上司!!
なにがなんでも逃げたくて、魔法を使おうとするけど、全く使えない。連れて行かれるしかなかった。
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!
由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って?
いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
平凡な俺が完璧なお兄様に執着されてます
クズねこ
BL
いつもは目も合わせてくれないのにある時だけ異様に甘えてくるお兄様と義理の弟の話。
『次期公爵家当主』『皇太子様の右腕』そんなふうに言われているのは俺の義理のお兄様である。
何をするにも完璧で、なんでも片手間にやってしまうそんなお兄様に執着されるお話。
BLでヤンデレものです。
第13回BL大賞に応募中です。ぜひ、応援よろしくお願いします!
週一 更新予定
ときどきプラスで更新します!
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL要素までとても遠いです。前半日常会多め。
弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~
マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。
王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。
というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。
この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。
被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。
かとらり。
BL
セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。
オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。
それは……重度の被虐趣味だ。
虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。
だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?
そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。
ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…