誰より重くて愛がないと言われる僕の後ろには、いつも監禁趣味のあいつがいる

迷路を跳ぶ狐

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13.もう次の恋を見つけたから


 それから数日がたち、僕は、僕の部屋にあったものを全て焼き払い、ピカピカに掃除して、家具はこれまであったのと全然違うものを並べて、新しい生活を始めることにした。

 しばらくは落ち込んだけど、もう大丈夫。

 今日はすごく気分がいい。フュイアルさんにムカつくことを言われても、今日だけは魔法を使うのを我慢できそうなくらいだ。

 この世の全てを愛せそうな気持ちで、職場の廊下を歩いていたら、向こうからフュイアルさんが歩いてくるのを見つけた。

「おはようございます。フュイアルさん」
「おはよう。トラシュ。挨拶ができるなんて成長したね」
「挨拶くらい、僕にもできます。普段しないのは、フュイアルさんにはしたくないからです」
「……なにかいいことでもあった? 随分ご機嫌だけど」
「そんなの、フュイアルさんに関係ありません」
「なにがあったかくらい、教えてくれてもいいんじゃない? 俺、上司なんだし」
「上司とか、関係ありません。キモいです。死んでください。そうだ、僕、今日、早退します」
「だめ」
「朝からフュイアルさんに会って気分が悪いんです」
「そんな理由だめ」
「それでも帰ります!」
「まさか、新しい恋人でもできた?」
「なんで分かったんですか?」
「……分かるよ。トラシュは新しい恋人ができると、一ヶ月くらいは早退したがるから」

 突然、それまで笑顔でいたフュイアルさんが、ひどく冷徹な目になる。

 愛というものなんか一生理解できなさそうなフュイアルさんだから、これがどれだけ素晴らしいことか、分からないんだろう。哀れな魔族だ。

 だけど、今はそんな最低上司にも優しくできる。理解できないなら説明してあげればいいんだ。

「だって、片時もそばを離れたくないんです。僕を誰より愛してくれる、優しい人だから」
「……あれだけ夢中だったダストと別れたばっかりなのに、もう次なんだ」
「あんないなくなっちゃった人なんか、もう知りません。僕には彼がいるからいいんです」
「相変わらず、次ができるの早いな…………」
「そんなの、フュイアルさんにどうこう言われたくないです。好きになったんだから、いいじゃないですか。あ、今度は邪魔しないでくださいね。毎回毎回、人の邪魔ばっかりして、意味がわかりません」
「今度はいくら貢いだの?」
「貢ぐ? なにを言っているんですか? 僕と彼は恋人なのに、貢ぐってなんですか?」
「じゃあ、いくら渡したの?」
「ああ、そういうことですか。お金は渡していません。彼にあげるのは愛だけです」
「トラシュの頬が赤くなっているのも愛なの?」
「これは愛じゃないけど、あの時の彼は、ちょっとカッとなっちゃっただけです。だから、仕方ないんです」
「仕方なく殴られて貢いだんだ?」
「違います! 彼はどうしてもお金が必要だったから、僕が貸しただけです!」
「………………付き合い始めたばかりで何貢いでんだよ……殴られてるし……馬鹿?」
「馬鹿じゃないし貢いでないし、殴ったのはもういいんです! そんなふうに歪んだ捉え方しかできないなんて、哀れな魔族だ。かわいそうだから、いいもの見せてあげます!」

 僕は、昨日魔法で作り上げた彼の銅像を出して見せてやる。

「うわっ!! 何これっっ!!」
「彼です」
「……うわー……魔法で作ったの? 何に使うんだよ、これ」
「オフィスに飾ります」
「ダメ」

 そう言ってそいつが手を叩くと、僕の大事な銅像は突然消えてしまう。

「なにするんですかっっ!! せっかく僕の魔力全部使って作ったのに!!」
「処分した。俺のオフィスに飾られたら困るから」
「クソ上司! 見せるんじゃなかった……いいです!! 家にまだあるから!! 僕はもう帰ります。彼の後をつけて歩きたいので!」
「待ってー。仕事してー。最近いい餌見つけた魔物が味をしめて街の周りに来てる。忙しいんだから」
「そんなの知りません! さようなら!」
「待ちなさい」

 フュイアルさんは後ろから僕の腕を掴んで止める。
 振り払おうとしても、どうしても敵わない。

「離せっ!!! フュイアルさん! 離してください!」
「いいから、トラシュは俺のそばにいなさい。それが一番だから」
「嫌だっ! 誰がっ……彼のそばに行く!!」
「今度の彼は、どこの誰なの?」
「教えません!! 絶対にフュイアルさんには教えない! お前に関係ないだろっ! 僕を監禁して殴って強姦しようとしたフュイアルさんなんかに教えるもんか! 離せっ!!」
「珍しくもっともなこと言うねー。俺が手を離しても、いつも離れて行かないくせに」
「はあっ!?」
「だから、トラシュは俺に繋がれてるのが一番いいんだよ」

 呟いたそいつの目が細くなる。

 すると、魔法の光が僕を包んだ。

 またやられた。フュイアルさんの魔法だ。

 いつものあの部屋に連れて行かれる少し前、そいつが笑った気がした。







 こうしてフュイアルさんは、僕に新しく恋人ができるたびに邪魔しにきた。

 だけど、べつにいいんだ。そんなので、僕の愛は揺らがない。

 その彼とは、しばらく付き合ったけど、なぜか愛せなくなって、別れてしまった。

 だけど、べつにいいんだ。

 僕には、すぐに新しく最愛の彼ができた。その人といれば、その人のことだけを考えていれば、それだけで僕は幸せ。僕は、朝から晩までずっと、その人のことを考えていた。

 そしてしばらくして、その人とは別れた。
 今回はいつもより早くて、その人のことを好きじゃなくなるまで、数日くらいしか持たなかった。

 だけど、べつにいいんだ。

 また新しく最愛の恋人ができたから。その人とだけいれば、その人のことを考えていれば、それだけで僕は、前よりずーっと幸せだった。僕は、毎日ずっと、彼のことだけを考えていた。

 やっぱりフュイアルさんが邪魔しにきたけど、僕はフュイアルさんが何をしようとも、彼が好きだ。

 ずっとこうして、その恋人が好きで、その彼のことだけ考えていればいいんだと思った。

 それなのに、なぜか、また、その気持ちが揺らいできた。

 ずっと、永遠にその人のことが好きでいられるはずだったのに、なんでだろう。

 結局、やっぱりすぐに別れた。

 だけどいいんだ。また新しく最愛の人ができたから。

 その人とだけ一緒にいれば、その人のことだけずっと考えていれば、それだけで、僕は、本当に、夢を見ているように幸せでいられた。僕は、ずっと彼に夢中だった。

 またまたフュイアルさんが邪魔しに来たけど、監禁されたって襲われそうになったって、僕は彼が好き。

 ずっと好き。

 ずっとずっと、溺れていられる。

 そのはずだったのに。

 数日付き合って、ひどく居心地が悪く感じるようになってきた。

 なんでだ? こんなはずないのに。

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