23 / 106
23.このムカつく男を誘う方法
気持ち悪い……
やっとフュイアルさんから解放されて、デスクに戻った僕は、さっきされたことを思い出して、イライラしながら仕事を続けていた。
オフィスには相変わらず、フュイアルさんと僕の二人だけ。他の人たちは今頃、魔物を探して街を巡回してるはずだ。
いつもオフィスにいるフュイアルさんだけが、デスクで鼻歌歌いながら仕事してる。
余裕かよ……
このまま負け続けるなんて我慢できない!
力も魔力も段違いなら、やっぱりさっきの作戦で行くしかない。今度こそ勝つ!!
さっきズモアルケが言っていたように、僕らを恨んでいる奴らはたくさんいる。略奪者や盗賊たちの一部は、この砂漠の街の、特に砂嵐が起こりやすい東区の奥に隠れ住んでいるって聞いたことがある。
一度そこへ連れ出してみるか……
フュイアルさんも、そのうちあの辺りに調査に行くって言ってた。きっと簡単に誘い出せるはず。
そして、フュイアルさんが襲われたら後ろから刺す。もうこれしかない。
顔を上げたら、フュイアルさんは、デスクに向かって何かの書類を作っている。
もしかして、ああやってオフィスにずっといるのは、恨みを買った奴らに襲われるのが怖いからなのかもしれない。そんな気がしてきた。
今日は風が強い。嵐とまではいかないけど、風に砂が混じっている。これなら、視界は悪くなるし、敵が出れば、フュイアルさんはそっちに気を取られることになる。
今日がチャンスだ。今日こそ、あの僕を馬鹿にする上司を殺す! そして見返す!! やるぞ!!
問題は、なんて言ってフュイアルさんを連れ出すかだ。仕事って言えば来るかな?
とにかく、まずは誘ってみるか……フュイアルさんを誘うなんて、かなり嫌だけど。ここは我慢だ。フュイアルさんに勝てるなら、フュイアルさんを誘う辛さにも耐えられるはず。
僕は席を立って、フュイアルさんにゆっくり近づいた。
「あ、あの……フュイアルさん」
デスクまで行って呼びかけると、フュイアルさんは、すぐに顔を上げた。
「なに? トラシュ」
「……そ、外へ行きませんか!? 魔物が出たらしいんです!! 東の大通りで!」
「そっちは大丈夫。一人、そっちに巡回に行かせてる」
「……で、でも……一人だけじゃ……」
「大丈夫だよ。そいつ、俺の次くらいに優秀な魔族だから」
「……そうですか……」
ダメか……失敗だ。
あっさりまた負けた。
僕は、自分のデスクの椅子に座り直した。
作戦練り直しだ。そもそも大して練ってないけど。
今度はどんな作戦で行こう……
考えながら、僕はデスクについたまま、あたりを見渡した。僕とフュイアルさん以外、誰もいない。ヴァルアテアも、オーイレールも。あいつらいないと、静かだ。
次の作戦を考えながら、僕は、フュイアルさんに話しかけた。
「あの……フュイアルさん……」
「なにー?」
「なんか最近、この職場、魔族増えてません?」
「昔から多かっただろ? 魔物を相手にする職場なんだから、当然じゃない?」
「街にも増えましたよね!?」
「魔物相手に暴れられるからじゃない? 多少無茶やっても、お咎めなしになることが多いから、ああいう奴らには住みやすいんだろ」
確かに、都の方でやったらすぐに捕まることが、ここでは黙認されたりする。だから、フュイアルさんみたいなのが出るんだ。
そうだ! こんなのはどうだろう!!
いい作戦を思いついて、僕はまた、フュイアルさんのデスクまで走った。
「あの……じ、じゃあ、僕らも巡回にいきましょう!! 人数多い方が、みんな楽です!!」
「俺は行かないよー。魔物の被害を報告するので忙しいんだ。壊されたものの補修もある」
「そうですか……」
遠回しに誘い出す作戦も失敗。
肩を落とす僕。
また失敗……本当に僕、全然あの人に敵わない。
こんなことやってたら、いつまで経ってもフュイアルさんを誘い出せない。もうこうなったら、ストレートに誘う作戦だ!
「フュイアルさん!!」
「いきなり大きな声出さなーい。びっくりするだろ」
「……うっぜーな。びっくり? いつしたんだよ……」
「で、なに?」
「外へ行きましょう!! 東区に行くんです!!」
「なんで?」
「え!? だ、だって、前にいつか調査に行くって言ってたじゃないですか!! ほら!! 街を狙う奴らが集まってるらしいから! ぼ、僕も行きますから……」
「……トラシュってさー、ずっと思ってたんだけど、結構馬鹿だよね?」
「は!?」
「魔力だけはあるから勘違いしてるけど、かなりの馬鹿だよね。たまに可愛くて笑える」
「はあっ!?」
「俺は行かないよ」
「なんでですかっ!?」
「俺はここで、トラシュがさぼらないように見張ってなきゃいけないから」
「サボりません!! 僕も行くって言ってるじゃないですか!!」
「ああ、そうだったね。どうしようかなー?」
……大人しく来ればいいのに、勿体つけて!! なんだこのムカつく男!!
フュイアルさんは少し考えて、僕に向き直る。
「もしかして、仕返し?」
「ぇっ!? え!? え!?」
嘘だろバレた!? そんなに分かり易かったのか!? いや、ちゃんと演技できてたはずだ!!
焦りを必死に押し隠す。だらだら汗が出てきた。
なんとか笑顔を作る僕を、フュイアルさんは微笑んで眺めてから、口を開いた。
「トラシュの元恋人が、東区の盗賊と繋がってるらしいから、それを知って、その仕返しに行きたくなったのかと思った」
「え!? あ、ああ……」
よかった……フュイアルさんへの仕返し計画がバレたわけじゃないのか。
あんな男のことはもうすっかり忘れた。いつもなら半日くらいは引きずるのに、あっという間に消えた。もう何も思いはない。
最近、こういうことが増えた。
そして、最高に気持ち悪いことに、僕の頭はいつも、フュイアルさんへの怒りでいっぱいだ。
愛した人との楽しいはずの時間に集中できないのも、きっとそのせいだ! やっぱりこの男、殺すしかない!
何がなんでも誘い出す!
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!
由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って?
いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
平凡な俺が完璧なお兄様に執着されてます
クズねこ
BL
いつもは目も合わせてくれないのにある時だけ異様に甘えてくるお兄様と義理の弟の話。
『次期公爵家当主』『皇太子様の右腕』そんなふうに言われているのは俺の義理のお兄様である。
何をするにも完璧で、なんでも片手間にやってしまうそんなお兄様に執着されるお話。
BLでヤンデレものです。
第13回BL大賞に応募中です。ぜひ、応援よろしくお願いします!
週一 更新予定
ときどきプラスで更新します!
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL要素までとても遠いです。前半日常会多め。
被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。
かとらり。
BL
セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。
オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。
それは……重度の被虐趣味だ。
虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。
だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?
そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。
ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…