誰より重くて愛がないと言われる僕の後ろには、いつも監禁趣味のあいつがいる

迷路を跳ぶ狐

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23.このムカつく男を誘う方法


 気持ち悪い……

 やっとフュイアルさんから解放されて、デスクに戻った僕は、さっきされたことを思い出して、イライラしながら仕事を続けていた。

 オフィスには相変わらず、フュイアルさんと僕の二人だけ。他の人たちは今頃、魔物を探して街を巡回してるはずだ。

 いつもオフィスにいるフュイアルさんだけが、デスクで鼻歌歌いながら仕事してる。

 余裕かよ……
 このまま負け続けるなんて我慢できない!

 力も魔力も段違いなら、やっぱりさっきの作戦で行くしかない。今度こそ勝つ!!

 さっきズモアルケが言っていたように、僕らを恨んでいる奴らはたくさんいる。略奪者や盗賊たちの一部は、この砂漠の街の、特に砂嵐が起こりやすい東区の奥に隠れ住んでいるって聞いたことがある。

 一度そこへ連れ出してみるか……

 フュイアルさんも、そのうちあの辺りに調査に行くって言ってた。きっと簡単に誘い出せるはず。
 そして、フュイアルさんが襲われたら後ろから刺す。もうこれしかない。

 顔を上げたら、フュイアルさんは、デスクに向かって何かの書類を作っている。

 もしかして、ああやってオフィスにずっといるのは、恨みを買った奴らに襲われるのが怖いからなのかもしれない。そんな気がしてきた。

 今日は風が強い。嵐とまではいかないけど、風に砂が混じっている。これなら、視界は悪くなるし、敵が出れば、フュイアルさんはそっちに気を取られることになる。

 今日がチャンスだ。今日こそ、あの僕を馬鹿にする上司を殺す! そして見返す!! やるぞ!!

 問題は、なんて言ってフュイアルさんを連れ出すかだ。仕事って言えば来るかな?

 とにかく、まずは誘ってみるか……フュイアルさんを誘うなんて、かなり嫌だけど。ここは我慢だ。フュイアルさんに勝てるなら、フュイアルさんを誘う辛さにも耐えられるはず。

 僕は席を立って、フュイアルさんにゆっくり近づいた。

「あ、あの……フュイアルさん」

 デスクまで行って呼びかけると、フュイアルさんは、すぐに顔を上げた。

「なに? トラシュ」
「……そ、外へ行きませんか!? 魔物が出たらしいんです!! 東の大通りで!」
「そっちは大丈夫。一人、そっちに巡回に行かせてる」
「……で、でも……一人だけじゃ……」
「大丈夫だよ。そいつ、俺の次くらいに優秀な魔族だから」
「……そうですか……」

 ダメか……失敗だ。

 あっさりまた負けた。

 僕は、自分のデスクの椅子に座り直した。 

 作戦練り直しだ。そもそも大して練ってないけど。

 今度はどんな作戦で行こう……

 考えながら、僕はデスクについたまま、あたりを見渡した。僕とフュイアルさん以外、誰もいない。ヴァルアテアも、オーイレールも。あいつらいないと、静かだ。

 次の作戦を考えながら、僕は、フュイアルさんに話しかけた。

「あの……フュイアルさん……」
「なにー?」
「なんか最近、この職場、魔族増えてません?」
「昔から多かっただろ? 魔物を相手にする職場なんだから、当然じゃない?」
「街にも増えましたよね!?」
「魔物相手に暴れられるからじゃない? 多少無茶やっても、お咎めなしになることが多いから、ああいう奴らには住みやすいんだろ」

 確かに、都の方でやったらすぐに捕まることが、ここでは黙認されたりする。だから、フュイアルさんみたいなのが出るんだ。

 そうだ! こんなのはどうだろう!!

 いい作戦を思いついて、僕はまた、フュイアルさんのデスクまで走った。

「あの……じ、じゃあ、僕らも巡回にいきましょう!! 人数多い方が、みんな楽です!!」
「俺は行かないよー。魔物の被害を報告するので忙しいんだ。壊されたものの補修もある」
「そうですか……」

 遠回しに誘い出す作戦も失敗。

 肩を落とす僕。

 また失敗……本当に僕、全然あの人に敵わない。

 こんなことやってたら、いつまで経ってもフュイアルさんを誘い出せない。もうこうなったら、ストレートに誘う作戦だ!

「フュイアルさん!!」
「いきなり大きな声出さなーい。びっくりするだろ」
「……うっぜーな。びっくり? いつしたんだよ……」
「で、なに?」
「外へ行きましょう!! 東区に行くんです!!」
「なんで?」
「え!? だ、だって、前にいつか調査に行くって言ってたじゃないですか!! ほら!! 街を狙う奴らが集まってるらしいから! ぼ、僕も行きますから……」
「……トラシュってさー、ずっと思ってたんだけど、結構馬鹿だよね?」
「は!?」
「魔力だけはあるから勘違いしてるけど、かなりの馬鹿だよね。たまに可愛くて笑える」
「はあっ!?」
「俺は行かないよ」
「なんでですかっ!?」
「俺はここで、トラシュがさぼらないように見張ってなきゃいけないから」
「サボりません!! 僕も行くって言ってるじゃないですか!!」
「ああ、そうだったね。どうしようかなー?」

 ……大人しく来ればいいのに、勿体つけて!! なんだこのムカつく男!!

 フュイアルさんは少し考えて、僕に向き直る。

「もしかして、仕返し?」
「ぇっ!? え!? え!?」

 嘘だろバレた!? そんなに分かり易かったのか!? いや、ちゃんと演技できてたはずだ!!

 焦りを必死に押し隠す。だらだら汗が出てきた。

 なんとか笑顔を作る僕を、フュイアルさんは微笑んで眺めてから、口を開いた。

「トラシュの元恋人が、東区の盗賊と繋がってるらしいから、それを知って、その仕返しに行きたくなったのかと思った」
「え!? あ、ああ……」

 よかった……フュイアルさんへの仕返し計画がバレたわけじゃないのか。

 あんな男のことはもうすっかり忘れた。いつもなら半日くらいは引きずるのに、あっという間に消えた。もう何も思いはない。

 最近、こういうことが増えた。

 そして、最高に気持ち悪いことに、僕の頭はいつも、フュイアルさんへの怒りでいっぱいだ。

 愛した人との楽しいはずの時間に集中できないのも、きっとそのせいだ! やっぱりこの男、殺すしかない!

 何がなんでも誘い出す!

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