誰より重くて愛がないと言われる僕の後ろには、いつも監禁趣味のあいつがいる

迷路を跳ぶ狐

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32.なんでこんな奴に

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 フュイアルさんは、僕が怯えていることを感じ取ったのか、勝ち誇り見下すように微笑んだ。

「嫌なら言われたとおりにしろ」
「うっ……ぐっ…………」

 どうせ言うとおりにしたって、やりたい放題するに決まってる。

 逃げなきゃ。

 怯えている場合じゃない。

 僕だって、一気に魔力を爆発させれば、ここから逃げ出すことくらいはできるはず。

「どうした? トラシュ。おいで……」
「来るなっ!」

 僕は、近づいてくるフュイアルさんに向かって、思いっきり魔法を放とうとした。

 だけど、腕に力が入らない。あの盗賊の館で、魔力を使いすぎたんだ。

 愕然とする僕の前で、フュイアルさんは、不気味に笑う。

「もう魔法は使えないはずだ。それで逆らおうなんて…………そんなに酷くお仕置きされたいのか?」
「あ、う…………わっ!!」

 僕の両手に、フュイアルさんの魔法の鎖が巻きつき、僕を吊るしてしまう。
 着ていた服は、鎖が触れると破れて消えてしまい、皮の細いベルトが、僕の体に絡みついてきた。

 鎖とベルトで体を拘束され、手首には、宙に浮かぶ強固な手枷をかけられ、足は床についていないから、手首も腕もちぎれてしまいそう。

「い、嫌……離せ!!」

 薄暗い部屋の照明が、フュイアルさんの顔を不気味に照らしている。
 そいつは薄笑いを浮かべ、裸同然の姿で足掻く僕を眺めていた。

 なんとか逃げようとしても、腕にますます負荷がかかるだけだ。もう腕が折れちゃいそう。

 鎖を鳴らしながら悶える僕の横をすり抜け、フュイアルさんは、ソファに座った。

「逃げられるはずないのに美味しそうに暴れる……体力が回復するまで待った甲斐があった。いやらしくて、可愛い」
「ふざけんな!! お仕置きなんか、されるいわれない!! はーなーせーーっ!!」

 暴れようとしても、体に絡みついた細い皮のベルトが僕を締め付けて、腕と足に食い込むばかりだ。痛くて、肌が擦り切れそう。

 こうなったら、いつもみたいに魔力で打ち破るしかない。

 だけど、どれだけ体に力を入れようとしても、もう魔力は途切れてしまっている。魔力も使えないなら、逃げる手立てなんてない。

 フュイアルさんは、僕を見上げてニヤニヤ笑っていた。

「諦めろ。どうやったって、トラシュじゃ逃げられない」
「……魔力なんか使えなくったって……こんなの力で千切ってやる!」
「魔力がなかったら、トラシュはただの可愛いペットだ。大人しくいたずらされろ」
「ざけんな!! 離せ、変態!!」

 フュイアルさんが、さっき自分で入れたコーヒーを一口飲んで、僕に近づいてくる。
 その男の指が、僕の頬に触れて、いつもはなかった体温を感じた。温かいコーヒーのはいったマグカップに触れていたせいだろう。

 くすぐったいような感触に寒気がする。

 その男は、僕の肌とそいつの肌が触れ合いそうなくらい近い距離にまで来て、冷笑を浮かべていた。

「お仕置きされるいわれがないってことはないだろ? 俺の仲間をあんな風にする奴を利用してまで、俺を殺したかったのか?」
「あ……そ、それは…………」
「……思い出した? お仕置きされる理由」

 すうっと、そいつの目が細くなり、さっきまで温かかったはずの指から、体温が消えて行く。

 頬に、氷のような手が、まとわりつくように触れて、僕の口から「ひゃっ!」と、ねだるような声が出た。

 僕を見るその目は、今までで一番、温度を感じない。

 本気で怒っているらしい。

 いつもだいたい笑顔でいる男に、全然笑っていない目を向けられると、僕の体温まで消えていくようだ。

 普段ならこんなに近づかれたら、動けなくても、せめて怒鳴りつけてやるのに、声すら出ない。

 くそ……なんでこんな奴に怯えてるんだ!!

 僕を吊るしている手枷は、ゆっくり下されていき、僕は床に膝をついた。

 そのまま少し離れたところに立つフュイアルさんを見上げると、まるで、手枷で後ろ手に拘束され、フュイアルさんの前に跪いているようだ。

 こうしてそばにいるだけで、ひどく体が冷たくなっていく。

 ゆっくりと近づいてくるフュイアルさんが恐ろしい。

 そいつは、僕の髪を優しくすくうと、唇で、僕の髪に触れてきた。

「あ……ふ、フュイアルさん……」
「トーラシュ……これなんだ?」

 聞かれると同時に、僕の背中に、何か温かいものが触れる。触れたかと思えば、まるでそれは染み込むように中に入ってくる。

 じわっと、熱くて甘いものが、体を侵食していくようだった。

「あ……あぅ……」

 これ……媚薬の魔法だ。あの光の粒を、背中に垂らされたんだ。

 体の感覚が麻痺してきた。うまく力が入らない。足の先も手の先も、ピクピクしてる。

 ゆっくりと、汗まで滲んできた。
 汗は粒になって、肌を伝って落ちる。
 その感触すらくすぐったくて、腹が揺れた。

「う……うえ……いや……あ…………」

 涙が浮かびかけた目に映ったのは、フュイアルさんの周りを飛ぶ、光の粒。媚薬の魔法だ。
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