誰より重くて愛がないと言われる僕の後ろには、いつも監禁趣味のあいつがいる

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
42 / 106

42.尾行して監視してますよね?


 ゆっくりと近づいてきたフュイアルさんは、僕の頬にそっと触れる。よほど体温が低いのか、まるで氷で触れられたようだ。赤くてサラサラの髪が僕の肌に当たる。その髪の間から覗く金色の目が、僕を見下ろし、笑う。

「無事みたいだね。よかった……こんな夜中に、こんな暗いところを歩いたらだめだよ? 襲われたらどうするの?」
「いつも僕を襲う人が、寝言をほざかないでください」
「そんなことより」

 僕は結構大事な話をしているのに、フュイアルさんはまるで聞く気がないらしく、僕の右手を取る。

 まずい。バレていたらしい。

 さっと顔をそむけようとしたけど、フュイアルさんは、僕の顎をとって、僕の顔を覗き込んで微笑んだ。

「この右手に握ったものは何?」
「……」

 バレたか……

 僕がずっと握っていたのは、僕が、今日一日で膨れ上がった憎悪と殺意と丹精を込めた魔法で作った飴玉くらいの小さな玉。

 これの存在を気づかれないように、手の中に隠していたつもりなのに、何でバレたんだ。

「なんでもないです。飴です」

 我ながら、何て下手な嘘だ。

 秒でバレて、フュイアルさんはますます嬉しそうに笑う。

「魔力を奪う魔法だね。俺たち魔族にしてみれば、毒薬も同然だ。こーんな夜中に、こんな暗い路地に通行人を連れ込んで、トラシュはどうする気だったのかなー?」
「連れ込んでません。僕はただ、この空き缶をゴミ箱に捨てようと思っただけです」

 僕が、片手に持った空き缶を見せると、フュイアルさんはそれを取り上げて、握力だけで小さなピンポン球くらいに握り潰してしまう。

「今拾ったみたいに言ってるけど、魔法で近くの空き缶、手元に呼び寄せただろ? だめだよ? そんなことしたら」
「ゴミ拾いくらい、僕だってします」
「空き缶はこうやって潰して消そうね」

 そう言ってフュイアルさんが元空き缶だったものを握りつぶすと、それはさらさらの砂みたいに細かくなって、風に乗って散っていく。

 背後でオーイレールが引いてる。僕も引いた。ヴァルアテアは慣れているらしく、無表情で何の反応も示さない。
 フュイアルさんには、リサイクルとか、そういう考えが浮かばないんだ。

 そして、僕の右手の中にあった飴が、いつのまにかそいつの掌に移動している。魔法で掠め取ったんだ。

 フュイアルさんは、手のひらに置いたそれを、僕に見せつけて言った。

「それで、トラシュ。これは何のつもり?」
「だから、飴です。口の中に入れるものです。だいたいさっきから、僕が、たまたまその辺を歩いていた人を裏路地に誘い込んで殺そうとしたみたいな言い方してますが、それ、違います。あいつがしつこく話しかけて来て、ずっとついて来たんです」
「それで、そいつに振り向いて油断させて、口の中にこれ突っ込むつもりだったんだろ?」
「……なんのことですか?」
「目が泳いでるよー。可愛いねー。さしずめ、俺に飲ませる前に効果を確認したかったのかな?」
「なんで……そんなことまで……」
「やっぱりそうか。だって俺、トラシュのことならなんでも知ってるから。ほら、証拠写真」

 フュイアルさんは魔法で大きなアルバムをだして、中の大量の写真を見せてくる。そこには、僕がフュイアルさんに隠れてデスクの下で魔法を使う姿が写された写真が並んでいた。

「……いつの間に…………」

 アルバムには「俺のために魔法を使う可愛いトラシュ」という事実といえば事実だが、全くの嘘なタイトルが書いてあって、すべてのページが僕で埋まっている。どれもこれも、撮ることを了承した覚えのないものばかり。盗撮以外の何者でもないのに、フュイアルさんは楽しそう。

 キモすぎるので、すぐにアルバムを魔法の炎で焼き尽くす。

 それでもフュイアルさんは「えー、燃やしちゃうのー?」と少し口を尖らせていうだけだ。

「……一体、なんの真似ですか? 証拠写真でも撮ったつもりですか?」
「うん。トラシュが俺を好きな証拠写真。まだいっぱいあるよ。家にも」
「あの大量に積まれたアルバムですか? 燃やしますね」
「あっちはダメだよ。大事な写真なんだから。せっかく、トラシュが大好きな俺のために魔法を使っているところを集めたのに」
「好きじゃありません。嫌いです。すごく嫌いです。死んでください」
「そんな怖い顔しないで。そんなに恐ろしい目にあったなら、俺を呼べばいいのに」
「呼びません。あなたの方がよっぽど怖いですから。だいたい、さっきから、たまたま僕が困ってるところに通りかかって駆けつけたみたいなツラして恩着せがましくほざいてますが、監視してましたよね? 僕のこと」
「見守ってたの。トラシュのこと。悪いことしないように」
「言い方変えてもダメです……キモいんだよ! 変態!!」
「そんなに怒らないでよー」

 ふざけた口調で言って、フュイアルさんが僕から離れると、僕がまだポケットに隠し持っていた玉が、そいつの方に飛んでいく。

 そしてそいつは、あろうことかそれを全部口で受け止めて、飲み込んでしまう。

 そして、にっこり笑う。もちろん無傷。魔力を奪われた気配もない。

「はい。残念でした。効きませーん」
「うるっさいな! 分かってたよっっ!」
「魔力を奪うなんて、いいアイデアだったし、美味しいけど、もう少し刺激が強いように作って欲しいな」
「……」
「ついにこんなものに頼るようになったの? こんな物騒な魔法、どこで覚えたのかな?」
「るっせえよ!!!! お前に関係ないだろ!!」

 ムカつく! なんだこいつ! 人を馬鹿にして!!

 このクズはいつもこうだ。僕を馬鹿にすることしか考えてない。

 怒鳴り散らすは僕だけど、急に体が動かなくなって、フュイアルさんにヒョイッと担ぎ上げられてしまう。

「おい!! なにすんだ離せ!!」
「トラシュはこれからお仕置きね? じゃあねー、二人とも。手伝ってくれてありがとー。お疲れ様ー」

 フュイアルさんは、残された二人に手を振りながら、背中に真っ黒な羽を作り出す。

 ヴァルアテアが「ヒューア、やりすぎるなよ」ととても人道的な忠告をしてくれるのに、フュイアルさんは全く聞いていなくて、僕を担いだまま、暗い夜道から空に飛び立った。

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

平凡な俺が完璧なお兄様に執着されてます

クズねこ
BL
いつもは目も合わせてくれないのにある時だけ異様に甘えてくるお兄様と義理の弟の話。 『次期公爵家当主』『皇太子様の右腕』そんなふうに言われているのは俺の義理のお兄様である。 何をするにも完璧で、なんでも片手間にやってしまうそんなお兄様に執着されるお話。 BLでヤンデレものです。 第13回BL大賞に応募中です。ぜひ、応援よろしくお願いします! 週一 更新予定  ときどきプラスで更新します!

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL要素までとても遠いです。前半日常会多め。

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。

かとらり。
BL
 セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。  オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。  それは……重度の被虐趣味だ。  虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。  だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?  そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。  ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。