誰より重くて愛がないと言われる僕の後ろには、いつも監禁趣味のあいつがいる

迷路を跳ぶ狐

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42.尾行して監視してますよね?

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 ゆっくりと近づいてきたフュイアルさんは、僕の頬にそっと触れる。よほど体温が低いのか、まるで氷で触れられたようだ。赤くてサラサラの髪が僕の肌に当たる。その髪の間から覗く金色の目が、僕を見下ろし、笑う。

「無事みたいだね。よかった……こんな夜中に、こんな暗いところを歩いたらだめだよ? 襲われたらどうするの?」
「いつも僕を襲う人が、寝言をほざかないでください」
「そんなことより」

 僕は結構大事な話をしているのに、フュイアルさんはまるで聞く気がないらしく、僕の右手を取る。

 まずい。バレていたらしい。

 さっと顔をそむけようとしたけど、フュイアルさんは、僕の顎をとって、僕の顔を覗き込んで微笑んだ。

「この右手に握ったものは何?」
「……」

 バレたか……

 僕がずっと握っていたのは、僕が、今日一日で膨れ上がった憎悪と殺意と丹精を込めた魔法で作った飴玉くらいの小さな玉。

 これの存在を気づかれないように、手の中に隠していたつもりなのに、何でバレたんだ。

「なんでもないです。飴です」

 我ながら、何て下手な嘘だ。

 秒でバレて、フュイアルさんはますます嬉しそうに笑う。

「魔力を奪う魔法だね。俺たち魔族にしてみれば、毒薬も同然だ。こーんな夜中に、こんな暗い路地に通行人を連れ込んで、トラシュはどうする気だったのかなー?」
「連れ込んでません。僕はただ、この空き缶をゴミ箱に捨てようと思っただけです」

 僕が、片手に持った空き缶を見せると、フュイアルさんはそれを取り上げて、握力だけで小さなピンポン球くらいに握り潰してしまう。

「今拾ったみたいに言ってるけど、魔法で近くの空き缶、手元に呼び寄せただろ? だめだよ? そんなことしたら」
「ゴミ拾いくらい、僕だってします」
「空き缶はこうやって潰して消そうね」

 そう言ってフュイアルさんが元空き缶だったものを握りつぶすと、それはさらさらの砂みたいに細かくなって、風に乗って散っていく。

 背後でオーイレールが引いてる。僕も引いた。ヴァルアテアは慣れているらしく、無表情で何の反応も示さない。
 フュイアルさんには、リサイクルとか、そういう考えが浮かばないんだ。

 そして、僕の右手の中にあった飴が、いつのまにかそいつの掌に移動している。魔法で掠め取ったんだ。

 フュイアルさんは、手のひらに置いたそれを、僕に見せつけて言った。

「それで、トラシュ。これは何のつもり?」
「だから、飴です。口の中に入れるものです。だいたいさっきから、僕が、たまたまその辺を歩いていた人を裏路地に誘い込んで殺そうとしたみたいな言い方してますが、それ、違います。あいつがしつこく話しかけて来て、ずっとついて来たんです」
「それで、そいつに振り向いて油断させて、口の中にこれ突っ込むつもりだったんだろ?」
「……なんのことですか?」
「目が泳いでるよー。可愛いねー。さしずめ、俺に飲ませる前に効果を確認したかったのかな?」
「なんで……そんなことまで……」
「やっぱりそうか。だって俺、トラシュのことならなんでも知ってるから。ほら、証拠写真」

 フュイアルさんは魔法で大きなアルバムをだして、中の大量の写真を見せてくる。そこには、僕がフュイアルさんに隠れてデスクの下で魔法を使う姿が写された写真が並んでいた。

「……いつの間に…………」

 アルバムには「俺のために魔法を使う可愛いトラシュ」という事実といえば事実だが、全くの嘘なタイトルが書いてあって、すべてのページが僕で埋まっている。どれもこれも、撮ることを了承した覚えのないものばかり。盗撮以外の何者でもないのに、フュイアルさんは楽しそう。

 キモすぎるので、すぐにアルバムを魔法の炎で焼き尽くす。

 それでもフュイアルさんは「えー、燃やしちゃうのー?」と少し口を尖らせていうだけだ。

「……一体、なんの真似ですか? 証拠写真でも撮ったつもりですか?」
「うん。トラシュが俺を好きな証拠写真。まだいっぱいあるよ。家にも」
「あの大量に積まれたアルバムですか? 燃やしますね」
「あっちはダメだよ。大事な写真なんだから。せっかく、トラシュが大好きな俺のために魔法を使っているところを集めたのに」
「好きじゃありません。嫌いです。すごく嫌いです。死んでください」
「そんな怖い顔しないで。そんなに恐ろしい目にあったなら、俺を呼べばいいのに」
「呼びません。あなたの方がよっぽど怖いですから。だいたい、さっきから、たまたま僕が困ってるところに通りかかって駆けつけたみたいなツラして恩着せがましくほざいてますが、監視してましたよね? 僕のこと」
「見守ってたの。トラシュのこと。悪いことしないように」
「言い方変えてもダメです……キモいんだよ! 変態!!」
「そんなに怒らないでよー」

 ふざけた口調で言って、フュイアルさんが僕から離れると、僕がまだポケットに隠し持っていた玉が、そいつの方に飛んでいく。

 そしてそいつは、あろうことかそれを全部口で受け止めて、飲み込んでしまう。

 そして、にっこり笑う。もちろん無傷。魔力を奪われた気配もない。

「はい。残念でした。効きませーん」
「うるっさいな! 分かってたよっっ!」
「魔力を奪うなんて、いいアイデアだったし、美味しいけど、もう少し刺激が強いように作って欲しいな」
「……」
「ついにこんなものに頼るようになったの? こんな物騒な魔法、どこで覚えたのかな?」
「るっせえよ!!!! お前に関係ないだろ!!」

 ムカつく! なんだこいつ! 人を馬鹿にして!!

 このクズはいつもこうだ。僕を馬鹿にすることしか考えてない。

 怒鳴り散らすは僕だけど、急に体が動かなくなって、フュイアルさんにヒョイッと担ぎ上げられてしまう。

「おい!! なにすんだ離せ!!」
「トラシュはこれからお仕置きね? じゃあねー、二人とも。手伝ってくれてありがとー。お疲れ様ー」

 フュイアルさんは、残された二人に手を振りながら、背中に真っ黒な羽を作り出す。

 ヴァルアテアが「ヒューア、やりすぎるなよ」ととても人道的な忠告をしてくれるのに、フュイアルさんは全く聞いていなくて、僕を担いだまま、暗い夜道から空に飛び立った。
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