誰より重くて愛がないと言われる僕の後ろには、いつも監禁趣味のあいつがいる

迷路を跳ぶ狐

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57.勝手な言葉


 フュイアルさんの部屋は、リビングの隣。ドアに鍵でもかけているかと思ったけど、それはあっさり開いた。

 中は、本棚とデスクが並んでいて、あとはクローゼットがあるだけ。ここに入るのは、僕も初めてだ。

 魔法に関する本を探しに来ただけなんだけど……ついでだから、ちょっと探ってみるか。もしかしたら、この前のアルバムみたいなものがあるかもしれない。

 まずは、デスクを探す。

 だけど、デスクの上には何もなくて、引き出しの中にも、変わったものは何もない。あるのは書類と筆記用具、それに、何に使うのかも分からない、魔法の道具ばかりだ。

 一番下の引き出しだけ開かない。ここに何か隠しているのか?

 何度か引き出しに魔法をかける。すると、それはなんとか開いた。

 だけど、中に入ってたのは書類の束。書いてあるのも盗賊のことばかり。しかも、だいぶ古いものまである。僕がこの街に来たばかりの頃のものだ。フュイアルさんは、ずっと魔物を利用しようとする奴らを追っているようだ。

 だけど、仕事の書類なんかどうでもいい。

 それを元あったとおりに戻して、今度はクローゼットを探すけど、中は服ばかり。
 本棚を探しても、でてくるのは、魔法に関する本や地図だけ。本にも地図にも覚書のようなものが書いてある。特に地図には、魔物やそれを狙う盗賊の位置が書かれていた。その地図には、首都や、その周りの街の位置も示されている。僕はここにくる前、その辺りにいたんだ。
 気分が悪くなって、すぐにそれを元に戻した。
 ここに来る前のことなんか、二度と思い出したくなかったのに。

 もう、リビングに戻ろう。

 そう思って立ち上がろうとしたら、背後から声がした。

「ここが、フュイアルの部屋か」

 びっくりして、振り返る。するとそこには、エイリョーゾが立っていた。いつの間に入ってきたんだ……

 エイリョーゾは、驚く僕に、片手を上げて微笑んだ。

「元気にしてたか? 俺の恋人のトラシュ」
「……恋人?」

 僕、まだ返事してないはずなのに。

 それなのに、エイリョーゾは僕に近づいてきて、勝手に頬にキスしようとする。僕らまだ、恋人じゃないのに。

「ちょっ……待ってよ。僕、まだ……」

 さっと避けると、そいつは不機嫌そうに顔をしかめる。

「なんで逃げるんだよ? いいだろ? お前だって、フュイアルを消したいはずだ。だったら迷うなよ。俺と恋人になっておけ」
「……」

 黙っていたら、そいつはニヤリと笑う。

 いつもなら、すぐに返事できてたのに。やっぱり返事ができない。なんで返事できないんだ……どうしちゃったんだ。僕。

 けれど、勝手に話は進んでいく。

 エイリョーゾは、フュイアルさんのデスクの引き出しを勝手に開けた。

「すごいな……こんな部屋にも入れるのか、お前。やっぱり、お前と組んでおいてよかった……」
「待ってよ。僕、まだ組むなんて……」
「分かった分かった」

 エイリョーゾは振り向きもせずに、僕を追い払うように手を振る。

 絶対にわかってない。というか多分、僕の話なんか聞いてない。僕と付き合う人は、だいたいこうだ。

 だけど、別にいいんだ。僕は、この人を好きになれそうだし、付き合って、夢中になればいい。そうなれば、話を聞いてくれないのなんて、なんでもなくなる。

 エイリョーゾは、フュイアルさんのデスクの中身にしか興味がないかのようだった。一番上の引き出しを開けて、中のものに手を伸ばそうとしているのを見て、僕は、そいつとデスクの間に割って入って、引き出しを閉めた。

 邪魔をした僕を、エイリョーゾは、睨みつける。

「……何すんだよ……俺たち、付き合ってるんだろ? 二人で、フュイアルに復讐するんだろ?」
「……まだ付き合ってない……それに、復讐って、なに? 僕はあなたのこと、全然知らないのに……」
「知らなくていいんだよ。知る必要なんかないだろっっ!!」

 僕を怒鳴りつけたエイリョーゾの魔力が膨れ上がる。
 膨れた魔力のそばにいると、僕は、息苦しくなりそうだった。魔力で僕の体を包んで、脅しているんだ。従わなかったら、締め上げるぞって。

「お、落ち着いて……」

 相手を宥めながら、僕は、自分の魔力を使って自分を守ろうとした。

 だけど、腕のアザが激しく痛む。まだ、体が回復していない。魔力が使えないんじゃ、僕に対抗する手立てはない。

 ここを退いて、フュイアルさんのデスクを探ることに口を出さなければ、エイリョーゾは僕を傷つけたりはしないんだろうけど……

 だけど、そんなの、なんとなく嫌だ。

「…………フュイアルさんのものに勝手に触ると、必ずバレるよ……フュイアルさん、そういうの、すぐに見抜くから……」
「……そうなのか?」

 フュイアルさんの仕返しを恐れたのか、エイリョーゾは大人しく、デスクから離れた。

 僕の言ったことは嘘じゃない。フュイアルさんのものに勝手に触ると、大体バレる。そして、思いっきり馬鹿にされて吊るされる。

 エイリョーゾは、舌打ちをして立ち上がった。

「だったらお前がその中のもの、全部出せ。中に入っているもの、一つ一つ、俺に見せるんだ」
「……そんなことをしても、やっぱりバレるよ。バレたら、僕だけでなく、あなたも殺されるよ?」
「……」

 そいつは黙り込んでいたけど、顔色が悪い。フュイアルさんの恐ろしさは知っているらしい。そいつがデスクから離れてくれて、僕はほっとした。

 けれどエイリョーゾはすぐに振り向いて、僕を睨みつける。

「お前……まさか、裏切る気じゃないだろうな?」
「裏切る……?」
「俺のこと裏切って、あいつに全部話す気じゃないだろうな!?」
「裏切るって……僕はまだ、協力するとは……」
「俺たち付き合ってるんだぞ!! お前はもう俺の恋人なんだよっっ!! 言っておくが、俺を裏切ったら、お前のことも全部フュイアルに話すからな! お前から誘ってきたんだからな!!」
「待ってよ……僕はっ……!」

 僕は誘った覚えはない。付き合うとも言ってない。
 だけどそう反論しようとした僕を、エイリョーゾは床に押し倒した。

「な、なに……?」

 抵抗しようとするけど、強く両手首を押さえつけられ、床に組み敷かれてしまう。

 エイリョーゾは、僕を見下ろし、睨みつけてきた。

「とりあえず、一回やるか」
「は!? な、なんで……」
「付き合ってるからだよ!! 付き合ってるんだからやるんだよ!! 文句ねえよなあっっ!? お前から誘ったんだからっっっ!!!」

 そいつが僕の服に手をかける。

 僕はいつもこうだ。無理矢理押し倒されて、相手の性欲を満たすための道具にされる。
 だけど、そんなの僕も承知の上。

 それでもいいし、そうされたって、何も感じないはずなのに。
 昔の彼にだって、強姦紛いに犯されてきたのに。

 今されるのは嫌だった。

「離してっ……嫌だっっ!!」

 抵抗しようと身を捩る僕に腹を立てたのか、エイリョーゾが拳を振りかぶる。

 殴られるんだと思ったけど、エイリョーゾは突然、僕から離れた。

「ちっ……フュイアルが帰ってくる……」
「え……? 分かるの?」

 僕が聞くと、その男は、僕に向き直って頷いた。

「フュイアルの部屋に忍び込むんだ。それくらいの対策はする。もうすぐここにあいつが帰ってくる……俺は帰る。トラシュ、お前、ここ、片付けておけよ! 俺が来たの、分からないように!!」
「うん……」
「俺のこと、話すんじゃねえぞっっ!!」
「言わないよ……」
「よし……約束だぞ」

 僕が言わないって答えたことで安心したのか、エイリョーゾの姿が消えていく。そして、完全に消える前に、僕に微笑んだ。

「好きだぞ、トラシュ」

 その言葉だけを残して、エイリョーゾの姿が消える。

 その時、リビングの方から物音がした。鍵を開ける音だ。フュイアルさんが帰ってきたんだ。

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