57 / 106
57.勝手な言葉
フュイアルさんの部屋は、リビングの隣。ドアに鍵でもかけているかと思ったけど、それはあっさり開いた。
中は、本棚とデスクが並んでいて、あとはクローゼットがあるだけ。ここに入るのは、僕も初めてだ。
魔法に関する本を探しに来ただけなんだけど……ついでだから、ちょっと探ってみるか。もしかしたら、この前のアルバムみたいなものがあるかもしれない。
まずは、デスクを探す。
だけど、デスクの上には何もなくて、引き出しの中にも、変わったものは何もない。あるのは書類と筆記用具、それに、何に使うのかも分からない、魔法の道具ばかりだ。
一番下の引き出しだけ開かない。ここに何か隠しているのか?
何度か引き出しに魔法をかける。すると、それはなんとか開いた。
だけど、中に入ってたのは書類の束。書いてあるのも盗賊のことばかり。しかも、だいぶ古いものまである。僕がこの街に来たばかりの頃のものだ。フュイアルさんは、ずっと魔物を利用しようとする奴らを追っているようだ。
だけど、仕事の書類なんかどうでもいい。
それを元あったとおりに戻して、今度はクローゼットを探すけど、中は服ばかり。
本棚を探しても、でてくるのは、魔法に関する本や地図だけ。本にも地図にも覚書のようなものが書いてある。特に地図には、魔物やそれを狙う盗賊の位置が書かれていた。その地図には、首都や、その周りの街の位置も示されている。僕はここにくる前、その辺りにいたんだ。
気分が悪くなって、すぐにそれを元に戻した。
ここに来る前のことなんか、二度と思い出したくなかったのに。
もう、リビングに戻ろう。
そう思って立ち上がろうとしたら、背後から声がした。
「ここが、フュイアルの部屋か」
びっくりして、振り返る。するとそこには、エイリョーゾが立っていた。いつの間に入ってきたんだ……
エイリョーゾは、驚く僕に、片手を上げて微笑んだ。
「元気にしてたか? 俺の恋人のトラシュ」
「……恋人?」
僕、まだ返事してないはずなのに。
それなのに、エイリョーゾは僕に近づいてきて、勝手に頬にキスしようとする。僕らまだ、恋人じゃないのに。
「ちょっ……待ってよ。僕、まだ……」
さっと避けると、そいつは不機嫌そうに顔をしかめる。
「なんで逃げるんだよ? いいだろ? お前だって、フュイアルを消したいはずだ。だったら迷うなよ。俺と恋人になっておけ」
「……」
黙っていたら、そいつはニヤリと笑う。
いつもなら、すぐに返事できてたのに。やっぱり返事ができない。なんで返事できないんだ……どうしちゃったんだ。僕。
けれど、勝手に話は進んでいく。
エイリョーゾは、フュイアルさんのデスクの引き出しを勝手に開けた。
「すごいな……こんな部屋にも入れるのか、お前。やっぱり、お前と組んでおいてよかった……」
「待ってよ。僕、まだ組むなんて……」
「分かった分かった」
エイリョーゾは振り向きもせずに、僕を追い払うように手を振る。
絶対にわかってない。というか多分、僕の話なんか聞いてない。僕と付き合う人は、だいたいこうだ。
だけど、別にいいんだ。僕は、この人を好きになれそうだし、付き合って、夢中になればいい。そうなれば、話を聞いてくれないのなんて、なんでもなくなる。
エイリョーゾは、フュイアルさんのデスクの中身にしか興味がないかのようだった。一番上の引き出しを開けて、中のものに手を伸ばそうとしているのを見て、僕は、そいつとデスクの間に割って入って、引き出しを閉めた。
邪魔をした僕を、エイリョーゾは、睨みつける。
「……何すんだよ……俺たち、付き合ってるんだろ? 二人で、フュイアルに復讐するんだろ?」
「……まだ付き合ってない……それに、復讐って、なに? 僕はあなたのこと、全然知らないのに……」
「知らなくていいんだよ。知る必要なんかないだろっっ!!」
僕を怒鳴りつけたエイリョーゾの魔力が膨れ上がる。
膨れた魔力のそばにいると、僕は、息苦しくなりそうだった。魔力で僕の体を包んで、脅しているんだ。従わなかったら、締め上げるぞって。
「お、落ち着いて……」
相手を宥めながら、僕は、自分の魔力を使って自分を守ろうとした。
だけど、腕のアザが激しく痛む。まだ、体が回復していない。魔力が使えないんじゃ、僕に対抗する手立てはない。
ここを退いて、フュイアルさんのデスクを探ることに口を出さなければ、エイリョーゾは僕を傷つけたりはしないんだろうけど……
だけど、そんなの、なんとなく嫌だ。
「…………フュイアルさんのものに勝手に触ると、必ずバレるよ……フュイアルさん、そういうの、すぐに見抜くから……」
「……そうなのか?」
フュイアルさんの仕返しを恐れたのか、エイリョーゾは大人しく、デスクから離れた。
僕の言ったことは嘘じゃない。フュイアルさんのものに勝手に触ると、大体バレる。そして、思いっきり馬鹿にされて吊るされる。
エイリョーゾは、舌打ちをして立ち上がった。
「だったらお前がその中のもの、全部出せ。中に入っているもの、一つ一つ、俺に見せるんだ」
「……そんなことをしても、やっぱりバレるよ。バレたら、僕だけでなく、あなたも殺されるよ?」
「……」
そいつは黙り込んでいたけど、顔色が悪い。フュイアルさんの恐ろしさは知っているらしい。そいつがデスクから離れてくれて、僕はほっとした。
けれどエイリョーゾはすぐに振り向いて、僕を睨みつける。
「お前……まさか、裏切る気じゃないだろうな?」
「裏切る……?」
「俺のこと裏切って、あいつに全部話す気じゃないだろうな!?」
「裏切るって……僕はまだ、協力するとは……」
「俺たち付き合ってるんだぞ!! お前はもう俺の恋人なんだよっっ!! 言っておくが、俺を裏切ったら、お前のことも全部フュイアルに話すからな! お前から誘ってきたんだからな!!」
「待ってよ……僕はっ……!」
僕は誘った覚えはない。付き合うとも言ってない。
だけどそう反論しようとした僕を、エイリョーゾは床に押し倒した。
「な、なに……?」
抵抗しようとするけど、強く両手首を押さえつけられ、床に組み敷かれてしまう。
エイリョーゾは、僕を見下ろし、睨みつけてきた。
「とりあえず、一回やるか」
「は!? な、なんで……」
「付き合ってるからだよ!! 付き合ってるんだからやるんだよ!! 文句ねえよなあっっ!? お前から誘ったんだからっっっ!!!」
そいつが僕の服に手をかける。
僕はいつもこうだ。無理矢理押し倒されて、相手の性欲を満たすための道具にされる。
だけど、そんなの僕も承知の上。
それでもいいし、そうされたって、何も感じないはずなのに。
昔の彼にだって、強姦紛いに犯されてきたのに。
今されるのは嫌だった。
「離してっ……嫌だっっ!!」
抵抗しようと身を捩る僕に腹を立てたのか、エイリョーゾが拳を振りかぶる。
殴られるんだと思ったけど、エイリョーゾは突然、僕から離れた。
「ちっ……フュイアルが帰ってくる……」
「え……? 分かるの?」
僕が聞くと、その男は、僕に向き直って頷いた。
「フュイアルの部屋に忍び込むんだ。それくらいの対策はする。もうすぐここにあいつが帰ってくる……俺は帰る。トラシュ、お前、ここ、片付けておけよ! 俺が来たの、分からないように!!」
「うん……」
「俺のこと、話すんじゃねえぞっっ!!」
「言わないよ……」
「よし……約束だぞ」
僕が言わないって答えたことで安心したのか、エイリョーゾの姿が消えていく。そして、完全に消える前に、僕に微笑んだ。
「好きだぞ、トラシュ」
その言葉だけを残して、エイリョーゾの姿が消える。
その時、リビングの方から物音がした。鍵を開ける音だ。フュイアルさんが帰ってきたんだ。
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!
由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って?
いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
平凡な俺が完璧なお兄様に執着されてます
クズねこ
BL
いつもは目も合わせてくれないのにある時だけ異様に甘えてくるお兄様と義理の弟の話。
『次期公爵家当主』『皇太子様の右腕』そんなふうに言われているのは俺の義理のお兄様である。
何をするにも完璧で、なんでも片手間にやってしまうそんなお兄様に執着されるお話。
BLでヤンデレものです。
第13回BL大賞に応募中です。ぜひ、応援よろしくお願いします!
週一 更新予定
ときどきプラスで更新します!
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL要素までとても遠いです。前半日常会多め。
被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。
かとらり。
BL
セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。
オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。
それは……重度の被虐趣味だ。
虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。
だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?
そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。
ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…