誰より重くて愛がないと言われる僕の後ろには、いつも監禁趣味のあいつがいる

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
60 / 106

60.どっち?

しおりを挟む

 調子に乗ったのか、フュイアルさんは、僕の体のあちこちをいやらしく撫で回してくる。尻や内股にまで手が回って、中心まで反応してしまいそう。
 微かな快感に背中が震えて、僕はフュイアルさんの体を押し返そうとした。

「離せよっ……! さっさと弱点教えろ!」
「いいよ」

 フュイアルさんが微笑んで、口を開こうとする。僕は慌てて、そいつの襟元を掴んだ。

 フュイアルさん、この部屋に警戒の魔法をかけていないみたいだし、さっきここへ来たエイリョーゾが、魔法を使ってどこかで聞いているかもしれない。

「ま、待って……ください…………」
「なに?」
「…………耳元で言ってください」
「……もう一回、耳くすぐってほしいの?」
「そんなわけないだろ死ね!! だ、誰かに聞かれたら困るからっ……僕だけが知りたいんだ!!」
「誰かって……誰?」
「え……」

 微笑んで聞かれて、僕はギクッとした。

 フュイアルさんは、いつもと同じ様子で、僕の顔を覗き込んでくるけど、僕はその目を見ることができない。エイリョーゾが聞いているかも、なんて、言えるわけないんだ。

「…………べ、別に……誰かって言ったら、誰かです……と、盗賊、とか……」

 慌てて言い繕うと、フュイアルさんは、僕を見下ろして、微笑んだ。

「……じゃあ、耳元で囁いてあげる」
「囁いてほしいなんて言ってません。死んでください」

 怒りを込めて冷たく言ったのに、フュイアルさんは、僕の耳元に唇を近づけてくる。吐息が耳元に微かに触れて、背筋までくすぐられているみたい。わざとやってるんじゃないだろうな……

 腹に力を入れ、何も感じないように耐えていたら、フュイアルさんは、小さな声で言った。

「好きな子に嫌われたら、悲しくて死ぬかも」

 それだけ言って、フュイアルさんは僕から離れる。

 え……これで終わり? 弱点は??

 見上げても、フュイアルさんはニコニコして、僕を見下ろしている。

「あの……フュイアルさん? 弱点は?」
「だから、話しただろ? 好きな子に振られたら、悲しくて死ぬかも」
「…………真面目に答えてください」
「真面目だよ。大好きなトラシュに振られたら、きっとショックで生きていられないと思う」
「それが弱点ですか?」
「うん」

 ……そういえば、前にもこんなことを聞いた。

 騙された。

 そんなの、弱点なもんか。

 一気に頭に血が昇る。あんな恥ずかしい選択までさせて、こんなのひどい。

 せめて一縷の望みにかけて、僕はフュイアルさんに向き直った。

「フュイアルさん」
「なに?」
「嫌いです」
「うん」
「大嫌いです。付き合うなんて、あり得ません。死ね」
「うん。ご飯にしようか」
「………………全く効いてないじゃないかっっ!!」
「だって、トラシュ、俺のこと好きだろ?」
「……何言ってるんですか? 僕、今、嫌いって言いましたよね? もう怖いんですけど………………死んでくれませんか?」
「そんなに怯えなくても大丈夫だよ?」
「……」

 全く僕の言葉を聞いていない……会話が成り立っていると思えない……
 嫌いって言っても全く効かない。もう、どうしたらいいんだ。

 僕はもう諦めて、ダイニングテーブルについた。
 すると、フュイアルさんは「少し待っててね」って言って、コーヒーを淹れ始める。

 そもそも、この男本人に弱点を聞いて殺そうとした僕が馬鹿だったんだ。別の作戦を立てよう。

 エイリョーゾのこと、フュイアルさんは今のところ気づいていないみたいだし、あいつと組んでもいいんだけど……なぜか、あの時、あいつの手を取れなかった。今度会ったら、あの手を取れるのか?

 顔を上げて、フュイアルさんの後ろ姿を睨み付ける。

 すると、フュイアルさんは急に、僕に振り向いた。

「どうしたの? トラシュ……」
「別に……フュイアルさんって、意外に警戒心ないんだなって思ったくらいです」

 自分に殺意を持っている奴の侵入を許すなんて。僕も殺したいと思ってるから、僕をこうして部屋に入れている時点で、この人はダメなのかもしれない。

 けれど、フュイアルさんは、僕に向かって微笑んだ。

「トラシュを警戒する必要なんて、ないだろ?」
「……そんな余裕でいられるのも、今のうちです」

 僕は一体、こんな男に、何を期待していたんだ。馬鹿らしい……

 肩を落としてしまう僕に、フュイアルさんは、コーヒーを持ってくる。僕、飲むなんて言ってないのに、どういうつもりだ。

「いりません」
「トラシュ」
「なんですか?」
「好きだよ」
「……は?」

 なに言ってるんだ、この人。なんでいきなり、そんな話になるんだ。

 訳がわからなかったけど、好きだよと言ったフュイアルさんの姿に、さっき去り際に僕に好きだと言った、エイリョーゾの姿が重なる。

 ……なんで、今、同じことを言うんだ?

 フュイアルさんには、好きだとは言われているけど、この人は僕を嬲りたいだけ。
 それなのに、これまで、こんなに優しく好きだ、なんて言ってたか? いや、そんなこと、絶対になかった。
 いつも僕を縛り上げて好き放題するフュイアルさんなのに、僕が回復していないくらいで何もしないっていうのも、おかしいんじゃないか?
 それに、この人が何度も部屋への侵入を許しているのも、やっぱり怪しく思えてきた。

 ただの疑心暗鬼?

 それとも……

 まさか、フュイアルさん……気づいてる?

 全部気づいてて、やっているのか? 全部わかってて、黙っているのか?

 顔を上げる。
 フュイアルさんと目があった。

 その目はいつもと同じはずなのに、今は違うような気がする。

 バレている……一度そう思うと、そんな気がしてならない。
 フュイアルさんには、バレている。僕の全部が。
 心臓に、その男の手が迫っているような気する。

 でも、バレてるなら、なんで何も言わないんだ? もしかしたら、今は自由にさせて、後で吊るして延々拷問する気なのかもしれない。

 もう一度見上げても、フュイアルさんは、いつもと変わらないようにしか見えない。いつも、僕の前で軽口ばかり叩く、ムカつく男のままだ。

 それなのに、ひどく、恐ろしく思えてきた。

 いつの間にか僕は、開いた口を閉じることすら忘れていた。
 喉が渇いていく気がした。
 目の前の男の目が恐ろしい。目をあわせているだけで、腹の中まで覗かれているようで。

 なにを怯えているんだ、僕は。こんな奴の前で怯えるなんて、どうかしている。バレてたらなんだって言うんだ。こんな男、返り討ちにしてやればいい。

 だけど……僕にそれができるのか?

 カラカラになった喉を空気が通るだけで痛くて、息をすることが苦しくなりそうな中、なんとか口を動かす。

「あ……あの…………フュイアルさん…………」
「どうしたの? 顔色が悪いよ?」
「……っ!」

 大きな、頭全体に響くような、インターホンの音がした。

 何度もドアを叩く音がして、大声で、僕とフュイアルさんを呼ぶ声がする。

 この声、オーイレール?

 そうだ。オーイレールとヴァルアテアが後で来るって、フュイアルさんが言ってたんだ。

 フュイアルさんは、僕に微笑んだ。

「あいつら、来ちゃったね」
「……うん…………あ、迎えに行ってきます……」

 僕は、自分から、フュイアルさんに背を向けた。
 それ以上、フュイアルさんと目を合わせていることができなくなっていたんだ。

 相手が何を考えているのか分からない。一体、どっちなんだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

平凡な俺が完璧なお兄様に執着されてます

クズねこ
BL
いつもは目も合わせてくれないのにある時だけ異様に甘えてくるお兄様と義理の弟の話。 『次期公爵家当主』『皇太子様の右腕』そんなふうに言われているのは俺の義理のお兄様である。 何をするにも完璧で、なんでも片手間にやってしまうそんなお兄様に執着されるお話。 BLでヤンデレものです。 第13回BL大賞に応募中です。ぜひ、応援よろしくお願いします! 週一 更新予定  ときどきプラスで更新します!

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。

あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。 だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。 よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。 弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。 そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。 どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。 俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。 そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。 ◎1話完結型になります

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

次期当主に激重執着される俺

柴原 狂
BL
「いいかジーク、何度も言うが──今夜も絶対に街へ降りるな。兄ちゃんとの約束だ」 主人公ジークは、兄にいつもそう教えられてきた。そんなある日、兄の忘れ物を見つけたジークは、届けなければと思い、迷ったのち外へ出てみることにした。そこで、ある男とぶつかってしまう。 「コイツを王宮へ連れて帰れ。今すぐに」 次期当主に捕まったジーク。果たして彼はどうなるのか。 溺愛ヤンデレ攻め×ツンデレ受けです ぜひ読んで見てください…!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

処理中です...