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75.足止め
フュイアルさんが、鎖でできた手綱を握ると、竜に姿を変えられたチイラントは、羽を広げてビルを目指して突っ込んでいく。ビルのガラス扉を粉々に割って入ってきた竜に、中にいた人たちが驚いて飛び出してきた。みんな、チイラントやエイリョーゾと似たような格好をしていて、ビルの床には、魔物を捕獲するためだろう、魔法の鎖が落ちていた。小さな魔物を連れている奴までいる。
「ふ、フュイアルっ……!? フュイアルだっっ!!」
「な、なんで……こんなところにっっ!!」
「ひっ……!!」
みんな、フュイアルさんを知っている。ほとんど魔族だけど、他の種族もいるようだ。
そして誰もが、フュイアルさんの顔を見て逃げて行く。
けれど、フュイアルさんから逃げられるなら、僕だって苦労はしない。
あっという間にみんな鎖で締め上げられて、倒れていく。
フュイアルさんは、逃げ惑う面々に向かって、冷淡に言った。
「俺の魔力を奪う毒って、誰が持ってるんだ? 出せばそいつだけは楽にしてあげるよ?」
この人は、それで出す人がいると思って話しているのか? とてもそうは思えないようなセリフだけど、フュイアルさんは本気らしい。
僕らが飛んだ後には、鎖で締め付けられた人たちが地の底から湧く怨嗟のようなうめき声を上げている。たまに嫌な音もしているから、骨が折れるほどに締め付けられているんだろう。
あんな目に遭うくらいなら、息の根を止められたほうが楽かもしれない。
ビルの奥から飛び出してきた人が、フュイアルさんに向かって、魔法の炎を放つ。けれどフュイアルさんの鎖はその炎すら絡め取って飛んで、魔法を放った人を縛り上げる。ひどい悲鳴が響いた。
そんな惨状の中、縛られて竜に乗せられた僕は、周りに毒を持った奴がいないか見渡していた。
みんな逃げて行く。フュイアルさんを狙うような勇気があるとは思えない。
だけどその時、僕らに背を向け、逃げて行く後ろ姿が見えた。
その手元に、奇妙な光が見える。光っているのに、周りの闇を吸っていくような、黒く、冷たい光だ。
今の……
僕も一回やったから分かる。あれは、魔力を奪う毒の魔法だ。あれが、彼らが作った毒?
逃げ惑う人たちを全て鎖で縛り上げているフュイアルさんは、そっちにまで気づいていないみたい。鎖を伸ばしては、逃げる人たちを捕まえている。
あれは、魔力を奪う毒の魔法。彼ら相手に気を許したのは僕。あれは、僕が処分するっ……!!
フュイアルさんは、逃げる人たちに夢中なようだ。
その隙に、僕は全身の魔力をかき集めた。
魔力で鎖を切ろうとするけど、なかなか切れない。
早く切らないと、フュイアルさんに気づかれるのに、思うように魔力が集まらない。
「トラシュ?」
フュイアルさんが、僕に振り向いた。
まずい。このままだと鎖をちぎる前に、フュイアルさんに止められてしまう。そう思った僕は、集めた魔力を一気に増幅させた。
無理に膨らませた魔力が破裂する。激しい風が吹いて、僕はその風に乗って、逃げた男が入っていった部屋目掛けて飛んだ。
途中で体に魔力を巡らせて、部屋に飛び込む。
背後から、フュイアルさんが呼ぶ声がして、僕は自分が飛び込んできたドアに魔法をかけて鍵をかけた。
相手はフュイアルさんだから、多分長くは持たない。魔法をかけたドアがフュイアルさんを足止めしているうちに、あの毒を処分しなきゃ。
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