誰より重くて愛がないと言われる僕の後ろには、いつも監禁趣味のあいつがいる

迷路を跳ぶ狐

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番外編

98.僕を置いて行くのは


 散々な朝食が終わり、キレながらもフュイアルさんの力には敵わず、無理やり車に押し込まれて、僕は職場に連れてこられた。体の落書きは消してもらったけど、それは僕のためじゃなくて、今晩また新しく書きたいっていう、フュイアルさんの勝手でゲスな理由からだ。

 車の中でも、僕は怒っていたのに、フュイアルさんはまるで気にしていない。

 やっと職場に着いた時、僕はもうくたくただった。

 ぐったりしながら職場のビルに入って、エレベーターに乗ると、誰かが駆け寄ってくる。フュイアルさんの知り合いの魔族のウィウントだ。いつも真っ黒なスーツのような服を着て、紋章のあるマントを羽織った、フュイアルさんと同じくらいの背の男で、髪も目も金色。普段は魔界で魔族の王に仕えているのに、最近よくここに顔を出す。さては待ち伏せしてたな……

「フュイアル!! 遅かったな!!」
「ウィウント……? 何か用?」
「よ、用があるから待っていたんだ……お前がいつまで経っても陛下の招集を無視しているから、こうして俺が使者として来ているんじゃないか」
「トラシュ連れてこいって言ってる、あれ? 断っただろ?」
「そ、そんなに怖い顔をするな……そっちの件は分かった。陛下にもそう説明する。さ、砂漠の魔物が増えている件と、魔界周辺の大型の魔物がこの辺りをうろついている件について、お前の協力が欲しい。その返事がもらえないと、俺も帰れない……頼む」
「……分かったよ。応接室で話そう」
「助かる」

 フュイアルさんはため息をついて、僕に振り向いた。

「トラシュ、先に行ってて」
「なんでですか?」
「聞いてただろ? 俺はウィウントと、魔物の話してから行くから……」
「それなら、僕だって行きます。僕だって魔物退治してるんだし、だいたい、さっきから話してたの、僕のことですよね? だったら、僕も応接室に行きます」
「だめ」
「なんでですか!?」
「トラシュは魔物退治には行かせないし、魔界にも行かせない」
「そんなの、フュイアルさんが決めることじゃありません!! 話なら、僕がします!」
「ダメ」

 そう言って、フュイアルさんは、せっかく繋いでいた手を離してしまう。

「じゃあ、みんなに俺は少し遅れるって言っておいて」
「待ってください!! 僕だって……」

 言いかけた僕をおいて、フュイアルさんはウィウントを連れて、途中でエレベーターを降りてしまう。僕も追おうとしたのに、ありえないスピードでエレベーターのドアが閉まった。フュイアルさんの魔法だ。僕が挟まれたらどうしてくれるんだ。

「フューアの馬鹿……」

 僕のこと置いて行ってるのは、フュイアルさんの方だ。もちろんこんなことで諦める僕じゃない。
 用意しておいた、フュイアルさんの様子を遠くから盗み見るための魔法の鍵を使おうとしたけど、それはすぐに壊れてしまう。これも、フュイアルさんが魔法で壊したに決まってる。

 くっそ……僕に色々言うくせに、フュイアルさんの方が別の男と二人きりだ。

 こんなの、僕が許すと思うなよ。戻ってきたら何話していたか尋問して、今度は僕が鎖に繋いでやる!!!

 いや……待てよ……そもそも別れようと思っていたのか……

 それでもフュイアルさんのことばっかり気になって、イライラしながらオフィスのある階でエレベーターを降りたら、早速、同僚のオーイレールが飛びついてきた。僕と同じくらいの背で金髪のショートカットの男だ。

「トーラシューー!! おっはよーー!!」

 喚くオーイレールを、さっと避ける僕。耳も塞いでおいてよかった。こいつ、すぐ大声出すんだ。

 だけど、オーイレールはくじけない。というか、多分こいつがくじけることってないんだと思う。早速僕の肩を抱いて酔っ払いみたいに絡んでくる。

「なんで昨日の飲み会すぐに帰っちゃったんだよー!! あのあと、すげー盛り上がったのに」
「だって僕、フュイアルさんに連れて行かれちゃったから……オーイレールは? 最後までいたの?」
「もちろんだ!! 八次会まであったぞ!」
「はち!?」
「うん! 居酒屋回って、焼き鳥行って、その後ラーメン屋でラーメンの大食い大会して、それからカラオケ、ボーリング、最後に焼きそば大会だ!!」
「焼きそば大会……?」
「俺んちで焼きそばを作る大会!」
「……それ、焼きそばまで参加した人いるの?」
「いるぞ! 俺!」
「……一人で焼きそば大会?」
「あとヴァルアテア! で、俺んちについたところで、俺が潰れた」
「結局潰れたの!?」
「だから、ヴァルアテアが焼きそば作ってくれた!」
「……どこまで律儀なんだよ……」
「お前も食え!!」

 そう言って、オーイレールは僕に弁当箱を渡してくる。こいつ、絶対まだ酔ってる。だいたい僕は、フュイアルさんの作った朝ごはんでお腹いっぱいだ。

「ヴァルアテアの焼きそばなら美味しそうだけど……」
「それは俺が食った!」
「食ったの? じゃあ、これは?」
「それは俺が朝作った焼きそばだ!! 全員分作って朝から弁当配ったんだ! トラシュも食え!!」
「……」

 僕、まだ答えてないのに、オーイレールは弁当箱を押し付けて自分のデスクに走っていく。絶対まだ酔ってる……

 今日は珍しく魔物に対する通報も少なくて、朝から会議もある予定だから、みんなオフィスにいて、デスクについて焼きそば食べてる。朝食代わりらしい。

 僕も席につこうとしたら、僕の次に、フュイアルさんが手をパンパン叩きながら入ってきた。

「みんなー。集まってー。今日は予定変更して、朝から遠くの魔物退治しに行くことになったからー」

 もう戻ってきたのか……? 早くない?? ウィウントとの話は終わったのかな?

 ……こんなに早く戻ってこられたら、置いていかれた仕返しを考える時間がないじゃないか……

 それなのに、ホッとしてる。フュイアルさんが帰ってきて嬉しいんだ。

 そしてフュイアルさんは、そんな僕の気持ちを見抜いてしまうのか、僕の髪にやさしく触れて、頭を撫でて、耳元で囁く。

「お待たせ」
「べ、別に……待ってなんかいません……」
「俺はトラシュに会えて嬉しいのになー」
「……」

 黙って俯いてしまう僕。

 そんなの、僕だって嬉しいに決まってる。

 これだけ早く戻ってくるなら、僕も連れてけよ……

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