誰より重くて愛がないと言われる僕の後ろには、いつも監禁趣味のあいつがいる

迷路を跳ぶ狐

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番外編

99.連れて行け!


 フュイアルさんは、「はい、みんな聞いてー」って言って、みんなの注目を集めてから話し始めた。

「まずは最近、近くの街道の先に出てる魔物だけど。最近ずっと増えているみたいだから、連休前にぶっ潰しに行く。誰か今日、俺と行ける人ー」

 ニコニコ笑顔で言うフュイアルさんだけど、誰も手を上げない。当たり前だ。

 こういう顔してる時のフュイアルさんは、本気で魔物を蹴散らしに行く時で、膨大な魔力で敵に向かっていく彼について行くのは、かなり大変。多分、誰も行きたがらない。

 フュイアルさんもそれが分かってて聞いてる。一応、魔物退治に行く時は複数で行くことが原則になっているから、形式上聞いているだけ。誰も手を上げなければ、運転手役にヴァルアテアあたりを連れて、今日は一人で魔物退治に出かけるつもりなんだろう。

 だけど……逆に言えば、これに行く人は多分、フュイアルさんと二人きりになれる……二人だけで行けるなら、ちょっとハードな魔物退治もいいかも知れない。

 それに、街道の先の魔物は倒しておかないと、その辺りから出ている列車に乗れない。旅行に行くなら、その列車に乗るはずだ。
 フュイアルさんが提案したクソ旅行には絶対に行かないけど、ほかの旅行なら行きたい。僕だって、連休にフュイアルさんと旅行いけるかも、なんて思ったら嬉しかったんだ。

 行く気になった時のために、列車が出ているあたりは、安全な場所にしておきたい。

 僕は、いかにも嫌そうな顔を作りながら、渋々っぽく手を上げた。

「あ、あの……僕……行ってあげてもいいです」
「トラシュはだめ」

 即断られて、頭に血が昇る。

 ダメってなんだよ。ダメって!! 僕が行くって言ってるのに!!

「なんでダメなんですか!!」
「トラシュは魔物退治行っちゃダメって、いつも言ってるだろ?」
「大きなお世話です!! 僕だって、魔物退治くらいできます!!」
「だめ。怪我でもしたらどうするの?」
「そんなの平気です!! なんで僕だけいつも魔物退治行かせてくれないんですか!! たまには僕も連れていけ!」
「だめ」

 どれだけ頼んでも、フュイアルさんは「だめ」の一点張り!! なんでなんだ!

「フュイアルさん!! なんで僕はダメなんですか!! 僕の魔法が魔物なんか焼き尽くしちゃうこと、知ってますよね!?」
「ダメなものはダメ。怪我でもしたらどうするの?」
「僕がそんなのしたことありますか!?? 僕は絶対に、魔物なんかに負けません!! 僕を連れて行ってください!!」

 それから何を言っても、フュイアルさんは振り向いてくれない。

 フュイアルさんめ……

 いつもいつも僕は魔物退治に行かせてもらえない。僕だって魔物退治くらいできるのに、フュイアルさんは、トラシュはだめ、しか言わない。
 危ないからってフュイアルさんは言うけど、僕は魔物退治に行って怪我をしたことなんかない。なんでダメなのか理解できない!!

 それなのに、フュイアルさんは僕を無視して続ける。

「誰もいないなら仕方ないね。俺だけで行ってくる」
「待ってください!! フュイアルさん! 僕が行きます!! 所長が規則を破っていいんですか!! それなら僕だって破りますよ!?」
「トラシュはいつも破ってるだろ?」
「もっとたくさん破ります!」
「困ったなぁ……」

 フュイアルさんは、全く困っていないような様子で肩をすくめる。

 僕が何を言っても連れて行かない気だ。フュイアルさんめ……そんなに僕を連れて行きたくないのかよ!!

 じっとフュイアルさんを睨んでいると、ズモアルケがドアを開けて入ってきた。

「フュイアル……魔界からの書類が来ている。目を通しておけ」

 そう言って、何枚かの書類を出す彼を、フュイアルさんは引き寄せて、そいつの肩を抱いた。

「じゃあ、こいつと一緒に行くから」
「…………ズモアルケさんは、今は部署が違います」
「大丈夫。俺がこいつの上司に掛け合うから」

 そう言って、フュイアルさんは戸惑うズモアルケを連れて出て行こうとする。

「フュイアル? おい……どういうことだ?」
「いいからいいから。今日は俺に付き合え。な? じゃあみんな、後はいつも通りやっておいてー。かいさーん」

 一方的に言って、フュイアルさんはズモアルケと肩を組んだまま出て行った。

 周りのみんながデスクについていく。

 だけど僕は、フュイアルさんがズモアルケと一緒に出て行ったドアを睨んだまま。

 フューア……僕の目の前で、僕じゃない奴に微笑みかけて、僕じゃない奴を引き寄せて、僕じゃない奴の肩を抱いて、僕じゃない奴を誘ったな……それは、許されると思っているの??

 ずーっと立ったままの僕の隣のデスクのやつが、こっそり席を立って、周りからも、人がコソコソ離れていく。

 いつのまにか魔力を使っていたらしく、吹き出した魔力が燃えて、僕の体の周りだけちょっと暑い。だけど僕は、そんな暑さすら感じなくなっていた。

 そんな僕に、オーイレールが声をかけてくる。

「トラシュー。どうしたんだ? なんで燃えてるんだー?? 危ないぞー?」
「オーイレール……」
「うわ! どうした? そんな怖い顔して」
「そんな顔してない……」
「そうか? 今から魔物が出たところの検証に行くんだけど、どこに出たか忘れてさー。地図あるかー?」
「…………僕も行く」
「へ!?? で、でも、トラシュは危ないから外に出すなって…………」

 言いかけたオーイレールの両肩に、僕はぽん、と手を置いた。

「行く。連れて行ってよ。オーイレール」
「はあ!? な、なんだよどうしたんだよ!! 検証くらい、俺だけで行くから……」
「僕も連れて行くよね!!??」
「い、いいい行くから!! その怖い顔やめろ!! どうしたんだよ!!」

 嫌がる彼の手を握って捕まえる。

 フュイアルさんは、いつも僕を見張るようにオフィスにいる。他の奴らが魔物退治に出かけると、魔物退治に連れて行ってもらえない僕と、オフィスで仕事をするフュイアルさんは、いつも二人きり。
 それなのに、今日はフュイアルさんがいない。そして、フュイアルさんが僕を監視しているような魔力も感じない。

 いつも僕にずっと付き纏うくせに、僕のこと放り出して、他の野郎と魔物退治? 許すと思うのか、そんなこと!!

「なんで僕を連れて行かないんだよ!」
「フュイアルはトラシュを独占したいだけだろー」

 嫌がるオーイレールを無理やり引っ張ると、オーイレールは通りかかったヴァルアテアの手を握った。

「お前も来いよ! 俺だけ怖い目に遭うのは嫌だ!」
「離せ……」

 嫌そうにしている彼は、黒い長髪を一つに括って、黒いスーツを着た背の高い男で、フュイアルさんの部下のヴァルアテア。僕の話し相手にもなってくれて、いつもめちゃくちゃなオーイレールにも付き合う、やけに付き合いのいい男だ。だけど今回は珍しく、ひどく嫌そう。

「俺は首都の方に送る書類の作成で忙しいんだ……」
「なんだよ! 紙切れと俺とどっちが大事なんだよ!!」
「紙切れではなく書類だ。そして、その書類はお前が先日魔物と共に破壊したエネルギー施設の損壊状況を報告するためのものだ」
「じゃあ、そのエネルギー施設と俺のどっちが大事なんだよ!」
「エネルギー施設だ。嫌なら二度と、俺と組んだ時に、それを破壊するな! お前が魔物にやられて吹き飛ばされて医務室で気絶している間、俺が首都に弁解していたんだぞ!」
「じゃあ次は気をつけるから今は助けろ!」

 ぎゃーぎゃー喚くオーイレールと、彼に捕まったヴァルアテアを引きずって、僕はオフィスを出た。

 フュイアルさんめ……僕の目の前で他の男を誘って、ただで済むと思うなよ!!

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