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番外編
106.ずっと
それから、僕とフュイアルさんとで魔物退治を続けた。と言っても、フュイアルさんの恐ろしい魔法が一気に魔物を吹き飛ばしていたから、僕はほとんど見てるだけだったけど。
それから彼は、「列車動くようにしてくる」って言って、出掛けていった。
壊れた道路の補修は、この町にいる魔法使いたちがやってくれるけど、列車は一回止まると、安全の確認と魔物がいるかどうかの調査があって、再開までに時間がかかる。首都の許可も必要になる。それをしに行ったんだから、もっと時間がかかるかと思ったのに、翌日の深夜ごろ、フュイアルさんはマンションの部屋に帰ってきた。
「ただいまー! トラシューー!!」
飛びかかってくるフュイアルさんに、されるがままに抱きしめられる。何でもう帰って来てるんだ?
「寂しかっただろー。トラシューー」
「ちょっ……! 離せよ! フュイアルさん! 寂しくなんかっ……!」
もちろん、少しくらいは寂しかった。
だけど、今日は僕が部屋で一人になるのを心配して、オーイレールとヴァルアテアが部屋に来てくれた。
二人がいてくれて、オーイレールが焼きそば作ったりして騒いでいたら、ウィウントも訪ねて来た。彼はフュイアルさんに会いに来たんだけど、フュイアルさんはいなくて、お土産にお酒とケーキまで持ってきてくれたから、僕が招き入れたんだ。皆でご飯食べてケーキ食べて、そのあと雑談していた。
だから、フュイアルさんがいなくても気が紛れた。
それがまさか、こんなに早く帰ってくるなんて思わなかった。
オーイレールも驚いたみたいだ。
「フュイアルー。お前、早すぎないか? もう列車は動くようになったのか?」
「もちろん。俺が魔物、全部退治したし、道路もちゃんと元通りだよ。また出たら、俺にすぐに連絡してね」
「うん……」
オーイレール、顔色が悪い。あの時のフュイアルさん、怖かったもんな……
あのあたりに湧いていた魔物を一人で塵に変えたフュイアルさんは、僕でもちょっと怖くなるような勢いだった。
そして今、その時と似たような顔で、さっきまで僕の手をぎゅっと握っていたウィウントに近づいていく。多分、さっき彼が僕の手を握って「魔界に来てくれ!」って言ってたのを聞いていたんだ。
「何してるの? 俺のトラシュに」
「……違うんだ。フュイアル。落ち着け……頼む。落ち着くんだ。よく考えてみろ。魔界に来ることは、トラシュのためになるぞー? 陛下もそれなりの地位を用意すると約束されている。わ、悪い話じゃない。そうだ!! お前も来い!! 二人一緒に来ればいい!!! どうだー? ん??」
「か、え、れ」
「はい…………」
何を言ったって、フュイアルさんが僕を連れて行くはずがない。僕を離すはずがない。
僕の全ては、すでにフュイアルさんのもの。それでも、僕はまだ足りないって思ってる。
彼が僕から少しでも離れることが許せなくて、僕だって、彼の全部を握ってないと我慢できないなんて……自分自身にも困ってしまう。
ため息をつく僕の後ろに、突然ウィウントが隠れ始めた。キレたフュイアルさんが、彼を追いかけ回し始めたらしい。全く、何をしているんだ。
「と、トラシュ! フュイアルをなんとかしてくれ!!」
「はい……フュイアルさん。僕、どこへも行かないし、ウィウントだって、僕らを心配して来てくれたんです。彼は悪くないので、乱暴はやめてください」
一応止めると、フュイアルさんは一応止まってくれた。だけど、やめる気はないみたい。
「なんで? そいつ、本気でトラシュ連れて行く気だよ? そのうち、トラシュに手を出すかも知れない。そんなことになる前に、消しておく」
「ダメです。大体、そんなに嫌なら、なんで僕に魔力注ぐんですか?」
「トラシュは自分の魔力に気づいてないんだよ。俺がそうしなかったとしても、トラシュの魔力は膨大だよ? そいつは、本気でトラシュを連れて行く気だ」
「……僕、絶対行きません。フュイアルさんだって、そんなの分かってますよね…………」
「分かってるけど、トラシュを誘うのは許せない」
「そんなの知りません。僕は自分で断るし、いい迷惑です。とにかく、ウィウントを怒らないでください。それと、僕以外と追いかけっこなんてしないでください」
フューアは僕以外に構わないでほしい。僕以外と話すのも、仲良くするのも、喧嘩するのだって、ちょっと嫌なんだから。
僕のこの嫉妬心も、日に日に膨らんで、すでに手がつけられないものになった。
だけど、自分のことにはまるで鈍いフュイアルさんは、僕を睨んで言う。
「なんでそんなにウィウントを庇うの? 俺以外の奴を庇うなんて、俺が許すと思う?」
「そっちこそ。僕以外と仲が良すぎ」
「トラシュ……もしかして、やきもち?」
「…………そっちこそ…………」
睨んだまま言うと、フュイアルさんの顔が急に明るくなって、僕を抱きしめてきた。
「ちょっ……フュイアルさん!!??」
「可愛いっ……! そんなに妬いてたんだーー!」
「はあ!? う、うるさい!! そっちの方が嫉妬してるくせにっ……!」
「トラシュー」
「は、離せっ……!」
僕がどれだけ拒絶しても、フュイアルさんの勢いは止まらなくて、結局みんなが帰った後、朝まで抱かれることになった。
欲しいものは絶対に欲しいし、他の誰かがそれに手を伸ばすことも許せない。フューアには、僕だけでなきゃ。
「離せよ!! フューアはずっと、僕のだからな!!」
*番外編*完
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