【完結】極悪と罵られた令嬢は、今日も気高く嫌われ続けることに決めました。憎まれるのは歓迎しますが、溺愛されても気づけません

迷路を跳ぶ狐

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3.お会いできて、光栄です

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 そんなわけで、皆さんに囲まれて、寄ってたかって責め立てられている真っ最中の私。

 本来なら、今からここにいらっしゃる使者たちを交えて、城に封印の魔法の杖がないか調べるはずなのに。
 皆さん、今のうちに私が全て悪いことにしてしまいたいようだ。

「私は何も知りません。言いがかりは見ていられないほどに醜いものですわ。トレイトライル様」
「なんだとっ……」

 一言で腹を立てたトレイトライル様は、今にも真っ赤な顔で剣を抜きそう。

 あまり怒らせない方がいいかしら……?

 けれど、今ここで弱気な態度なんかとったら、内心ひどく怯えているのがすぐにバレる!

 婚約破棄をされた次期領主の元婚約者、なんて、邪魔者以外の何者でもない。だからこそ私は虚勢を張って、怯えていることを誰にも悟られないように努力してきた。震えていたら、その隙を好機とばかりに責め立てられて、最悪の場合、暗殺もあり得るのだから。

 でも、怖いものは怖いっ……!

 だってカッとなったらしいトレイトライル様が、今にも私を手にかけてしまいそうな顔をしてる!!

 どれだけ強がろうが、虚勢は虚勢。私には大した魔法も使えないし、トレイトライル様が剣を抜けば、あっさり殺されてしまう。

「リリヴァリルフィランっ……! 用済みになってもここに居座る役立たずめっ! もう今ここでっ……!」
「お待ちください! トレイトライル様!!」

 甲高い声をあげてトレイトライル様を止めたのは、彼の今の婚約者のフィレスレア様。

 止めてくださるのは嬉しいのですが、フィレスレア様はとにかくトレイトライル様が大好き。トレイトライル様のいるところに必ず現れるので、トレイトライル様が「怖いからやめてくれ」と言うくらいに。
 そんな彼女が口を挟むと、だいたいろくなことにならない。

「それでは閣下が到着された時、トレイトライル様が責められてしまいます! 早まった真似をすれば、リリヴァリルフィラン様の思う壺ですわっ……!」
「フィレスレア……」

 なんだか再び盛り上がった様子の二人……

 思う壺だと言いますが、私は何も企んではいない。

 トレイトライル様は、私に振り向いた。

「リリヴァリルフィラン……お前には、逃げないように拘束の魔法を焼き付けろと、父上から命じられている。悪く思うな」
「……と、とても思います。トレイトライル様。虚言はおやめください。領主様がそんなことをおっしゃるはずがありませんわ!」
「黙れ……お前の逃亡を防止するためだ……」

 ご立派な大義名分ですが、私はそんなの御免です!

 拘束の魔法は、体に拘束の印を焼き付けることで、その効果を発揮するもの。体には激しい火傷の痛みと共に、焼き印のような跡がつく、恐ろしいものだ。

 それがトレイトライル様には喜ばしい事なのでしょうが……そんな魔法、絶対に嫌! そんなことをしなくても、私は絶対に逃げられないのに!

 以前晩餐会で引っ叩いて頬に手形をつけてしまったことの仕返しかしら!?
 あの時はやりすぎたかと思ったけれど、悪いのは、私の目の前で精霊の召使に酷い罰を下そうとしたこの方なのに!

「トレイトライル様、私にはそのようなもの、必要ありませんわ。私、逃げも隠れもしません。それとも、私に話されてはよほど困ることがあるのですか?」
「卑怯な罪人の言葉などに、私は騙されたりしない。リリヴァリルフィラン、逃げる気がないと言うなら、その身を差し出せ。拘束の魔法をかけなければ安心できない」
「あなたの安心のために、なぜ私が傷付けられなければならないのです?」

 言い返すと、トレイトライル様の顔はますます真っ赤になってしまう。

 まずい……もっと怒らせた……逃げ場がない今、この男を怒らせることは得策ではないのに……迂闊だった。

 冷や汗をかくような思いだけど、引き下がるわけにはいかない。

 一歩も引かずに相手を睨んでいると、その場に、冷たく押しつぶすような威圧感を持った声が響いた。

「何をしている?」

 誰……?
 知らない声のようなのに、聞いたことがあるような気もする。

 私もトレイライル様もフィレスレア様も、声が聞こえた方に振り向いた。

 雨の音が窓の外からうるさいほどに聞こえる中、薄暗い廊下に男が一人、立っている。

 私の頭のてっぺんが、ちょうど彼の首の根元くらいにくるであろう背の高い男だ。その男の魔力なのか、廊下の消えていた照明が、奥から順に光を灯していく。
 アメジストのような色の長い髪を背後で括り、肩にはいくつも後れ毛がかかっている。おそらく、雨風に吹かれたのでしょう。
 私たちを見下ろす金色の目は、どこか冷たく寂しい感じがする。
 着ているものは真っ黒。羽織った外套は、先程私が窓から見下ろしていたものと同じ。
 あの祝勝会でチラッとその姿を見たことがある……彼がイールヴィルイ・ランフォッド様だ。

 さっきまで門のところにいたのに、この短時間で、ここまで上がって来たの……?

 お会いできて光栄ですけれど、そばにいるだけで、ひどく息苦しくなりそう。

 さすが陛下の腹心と呼ばれる方は、迫力が違う……

 トレイトライル様が口を開く。

「……閣下…………な、なぜここに……先ほど門にご到着されたばかりでは……」
「……飛んできた。ここにあの晩陛下を害そうとした者がいると聞いてな」
「わ、私たちは陛下を害そうなどとは決して考えておりません!!! 全てはこの女の横暴な振る舞いを正すためと申し上げたではありませんか! 今、拘束の魔法をかけるところでした!」
「黙れ。俺は貴様らの吐く言葉など信じない」

 冷たく言われて、トレイトライル様は絶句。

 そう言ってくださるのは嬉しいのですけれど……

 蔑ろにされたトレイトライル様が、ひどく悔しそうに彼を睨んでいる。
 イールヴィルイ様の方も、じっと私だけを見ていた。

 きっと閣下は、私のことも心底憎んでいらっしゃるはず。
 彼は、陛下の腹心とも言われている方。陛下を傷つけた私たちに対する怒りは、それはそれは耐え難いもののはずだ。
 彼の後ろから、次々と使者の方々が魔法で飛んできて、私は震え上がってしまう。

 けれど……私は何もしてません!

 …………って言っても分かってくれなさそうな顔してる…………
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