【完結】極悪と罵られた令嬢は、今日も気高く嫌われ続けることに決めました。憎まれるのは歓迎しますが、溺愛されても気づけません

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
5 / 96

5.せめて最後に復讐してやる!

しおりを挟む

 ここに集まった誰もが、陛下の使者たちにこの城をうろつかれる前に、私を差し出して帰ってもらいたいはずだ。

 というのも、封印の魔法の杖を作るには、竜族の力が不可欠。
 トレイトライル様たちがそれを用意することができたのは、おそらく、竜を捕らえてその力を利用したからだ。

 だって私は見たことがある。

 封印の杖が使われたあの晩。

 煌びやかな祝勝会が行われた城で、私は魔法で城を美しく照らすように言い付けられていた。華やかな会合の際には、私はいつもそんな役回り。そんなことには慣れていたし、結構楽しいので、その仕事に勤しんでいたのだけど、その途中、城の庭で鎖をつけた小さな猫くらいの大きさの竜を見つけた。
 少し弱っているようだったので、回復の魔法が使える方のところに連れていくと約束をしたけれど、その時あの騒ぎが起こり、結局約束を果たすことはできずに、気づいたら竜もいなくなっていた。

 その後、封印の魔法の杖が暴走した話を聞いて、あの竜はそのためにこの城に捕らえられていた竜ではと疑ったけれど、例によって例の如く、誰も私の話なんか聞いてくれない。
 ちょうど、王都の近くの森に住んでいた竜が行方不明になるという事件も起きていたし、きっとあれが行方不明の竜に決まっている!

 陛下も、暴走なんてただの言い訳で、領主は竜を使って陛下を亡き者にする気だと疑っているはずだ。

 そうでなければ、陛下の使者たちがここに来ることもなかったはず。

 イールヴィルイ様は、鋭い目でトレイトライル様を睨みつけて言った。

「反逆者の言うことを、俺たちは信じるつもりはない」

 あら……信じていないなんて、それはありがたいですわ。
 きっと閣下には、最初からトレイトライル様の話を聞く気などないのでしょう。

 誰も信じないというのは困ったけれど、これならまだ勝機はある!

 このままいけば、皆さんの話を聞いた使者の方々は、全ては私の横暴が原因で引き起こされたことで、誰にも陛下を害する気などないと結論づけて、私の処遇を領主様に預け、ここを去ってしまうでしょう。その後の私を待ち受けているのは理不尽な拷問だ。
 矜持に従って殺されるのならともかく、こんな城で罪をなすりつけられて死ぬなんて、ごめんです!
 自分の欲望のために竜を利用し、ことあるごとに横暴な真似を押し通してきた方々に利用されて死ぬくらいなら、最後に復讐してやる!
 封印の杖が作られたのは私のせいではないと明らかにし、あの夜見つけた竜を探し出し、この城の方々の横暴を、使者たちの前で明らかにしてやりますわ!

 ……なんて覚悟を決めたけれど……

 やっぱり恐ろしいものは恐ろしい!!

 陛下が遣わされた使者の方々について、いなくなった竜を探し出し、何があったのか調べさせる……そんなことが、奴隷同然の扱いを受けている私にできるとは思えない。

 何しろ、普段は精一杯の虚勢を張っているけれど、私にはろくな魔法も使えないし、何かに立ち向かうような強い気持ちもない……
 あるのは、この城での長い暮らしで身につけた虚勢だけ。

 けれど、これだけが私の唯一の武器。だったら、これだけでなんとかする!

 私は顔を上げた。

 使者たちの真ん中に立っているのが、イールヴィルイ・ランフォッド。
 優秀な魔法使いだと聞きますが、同時にひどく残酷な男だとも噂されている。

 早速話を否定されたトレイトライル様はますます声を荒らげた。

「そ、そもそも、その女の普段の横暴がなければ、フィレスレアが封印の魔法を求めることもなかったのです!! その女は、遠い昔、国王に刃を向けた一族の女です!」

 けれど、その言葉を使者の一人が笑い飛ばす。

「くだらない。どれだけ昔の話だ」
「あ、あなた方はご存知ないのです! その女は、恐怖で相手を変えるのです!! 私たちも、その女の粗暴な振る舞いにどれだけ手を焼いてきたか……」

 トレイトライル様は、まるで悲劇のヒロインのような仕草で目元を押さえた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

ラヴィニアは逃げられない

恋愛
大好きな婚約者メル=シルバースの心には別の女性がいる。 大好きな彼の恋心が叶うようにと、敢えて悪女の振りをして酷い言葉を浴びせて一方的に別れを突き付けた侯爵令嬢ラヴィニア=キングレイ。 父親からは疎まれ、後妻と異母妹から嫌われていたラヴィニアが家に戻っても居場所がない。どうせ婚約破棄になるのだからと前以て準備をしていた荷物を持ち、家を抜け出して誰でも受け入れると有名な修道院を目指すも……。 ラヴィニアを待っていたのは昏くわらうメルだった。 ※ムーンライトノベルズにも公開しています。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

処理中です...