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14.失礼しました!
しおりを挟む顔を上げると、閣下は頷いた。
「王都の近くで行方不明になった竜が、ここに囚われているのではないかと、陛下も疑っておられる。俺たちは、竜を救えとも命じられている」
「……そうでしたか……け、けれど、そのようなこと、一言もっ……」
「下手に話せばデシリーが何をするか分からない。陛下に、封印の魔法の杖をどうやって用意したのかと聞かれた時は、ダイティーイが知り合いの魔法使いの商人から竜の魔力の薬を譲り受けたと話したらしい」
「そうですか……」
「竜の居場所に心当たりがあるのか?」
「は、はい……おそらくは、地下かと……」
「では、明日からはそれを探しにいく」
「……」
「どうした?」
「い、いえ……閣下がそうおっしゃるとは思っていなかったので……」
こんなにもうまくいってしまうなんて……ますます恐ろしくなってきた……
戸惑う私に、閣下はそっけなく言った。
「……リリヴァリルフィラン。今日はここにいろ」
「え、ええ……感謝いたします」
「それと、風呂に入ってこい」
早速それか。
この下衆が!
この部屋には、客人用のお風呂がついている。そこで体を洗って準備してこいってことか! もちろん分かっていましたが!! けれど、私の話を信じてくれたのかと、一瞬だけでも考えてしまっていたのに! そっちが約束を果たすのが先でしょう!
怯えている場合じゃない。
甘いですわよ。閣下。私とて、この謀略ばかりの城で生きてきたんです。下手に他人を信じたせいで、後で痛い目にあったことなんて数知れず! ついさっきいらした方にいいようにされる私ではありません!
冷静に対抗させていただきます。
「あらあら…………何をおっしゃっていますの? 約束を果たすといいながら、それだけは先に楽しもうということですか? 公爵家といえども、思い上がりが過ぎるのではないでしょうか」
「…………服も髪も濡れている。それに、先ほどの牢獄の魔法のせいで汚れている」
「え!? あ……」
「それと……その格好でいないでほしい……目のやり場に困る……」
そう言って、閣下は私から顔を背けたまま。
私は、自分の姿を見下ろした。
そういえば私、牢獄の魔法のせいで破れたボロボロの服を着た姿だった。それに、トレイトライル様の魔法のせいで、まだ髪も服も濡れている。
よく見ると、だいぶ淫らな格好をしている。
まさか……それを気遣ってくれていたの? だ、だったら、ひどい勘違いをしたのは私の方!!??
急に恥ずかしくて、赤くなっているであろう顔を隠す。
「も、申し訳ございません…………」
絞り出した声は小さすぎて、絶対に閣下まで届いていない。
落ち着きなさい……こんな風に慌てていては、この方に弱みを見せるようなもの。怯えている隙なんて見せるわけにはいかない。しっかりしなくては。
「申し訳ございません。とんだ勘違いをいたしました」
「……」
「け、けれど! 目のやり場なんて、そんなものを気にすることはございません! 私、そんなことは全っ然気にしませんものっ……! どこからでも、好きに見ていただいて結構ですのよ?」
謝りながらも腰に手を置いて、目一杯虚勢を張ってみる。
けれど、イールヴィルイ様は、窓から大きな月を見上げたまま。私に背を向けて無言。
せ、せめて振り返ってくださいっ…………!! こんなこと言って腰に手を当て胸を張る私が馬鹿みたいではありませんか!
な、何をしているの……私は!!
ますます恥をかいたではありませんか!
もう残されたのは逃げの一手のみ。
「し、失礼しました!!」
叫んで、私は浴室に走った。
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