【完結】極悪と罵られた令嬢は、今日も気高く嫌われ続けることに決めました。憎まれるのは歓迎しますが、溺愛されても気づけません

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
18 / 96

18*イールヴィルイ視点*重いのかもしれない

しおりを挟む

 俺はため息をついた。

「結界に封じていたものを連れて行くとは……面倒な連中だ……」
『落ち着けー。アクルーニズ家より、お前に暴れられた方が面倒だ』
「あれが余計なことをしたせいで、俺はリリヴァリルフィランに怯えられる羽目になったのです。どうしてくれるんだ……」
『とりあえず、行方不明の竜を探すことを優先しろ』
「デシリーは? 放っておいていいのですか?」
『竜が優先だ』
「……もう全て殺しましょう」
『ダメだぞ』
「全て破壊してしまえば、手っ取り早いでしょう」
『そういう方向に持ってくなと言っただろう。ここにはお前のことを知っている俺とエウィトモートたちしかいないが、公の場で、そんなことを口走るなよ』
「分かっています……」
『……そんな顔をしていると、リリヴァリルフィランも怖がる。せめてもう少し優しく挨拶でもしてやったらどうだ? 初対面だろう?』
「いいえ」
『……紛れもなく初対面だ』
「俺はリリヴァリルフィランが城を照らしていた姿を遠目に眺めていましたし、リリヴァリルフィランが参加した晩餐会には全て顔を出していますし、そこでリリヴァリルフィランが何をしていたか、具にここで話すことができます」
『監視か!? なんでそんな事まで話せるんだ! ゲスなことをするなら、すぐに呼び戻すからな!!』
「…………」

 初めてリリヴァリルフィランに会ったのは、この近くにある砦で行われた夜会に参加した時だった。
 この城の魔法使いが、魔物が暴れているという谷へ討伐に向かうというので、谷の近くの砦で夜会が開かれていた。
 その時のリリヴァリルフィランは、砦を魔法で照らし、魔物から守る役割を言いつけられていた。あまり魔力を感じない人族が警備の魔法使いに混じっているから、何の冗談かと思った。
 聞けば、あのランペジ伯爵のもとからきたというではないか。
 ランペジは陛下が王座にいることをよく思っていない。そこから来た女が警備など、どういうつもりなのかと思い、彼女を追って俺も砦の外に出た。
 彼女は砦の周りで魔法の光を武器に、小さな魔物を追い払っていた。
 あの程度の魔力で陛下を守るために戦う彼女に、興味が湧いた。

 次に会ったのは、谷の魔物たちを討伐するための会議に呼ばれた時のことだった。会議とは名ばかりで、遠回しにデシリーが嫌味を言うだけの集まりだ。
 俺はその時、警備のために街に出ていた。
 リリヴァリルフィランも、デシリーに言われたのか、街に使いに出ていたようだ。一緒に一人の男がいるから、誰かと思い従者に聞くと、それは婚約者だというではないか。
 連れ立って歩いていたかと思えば、男の方は自分の前に倒れた召使に手を上げようとしていた。それを引っ叩いたのが、リリヴァリルフィランだった。
 声をかけようかと思ったが、彼女は召使を助けて行ってしまった。

 次に会議が行われた時には、警備につくはずのリリヴァリルフィランを呼び寄せようとした。しかし、砦の者たちは、彼女は今はここにはいないと言う。城周辺を照らす仕事についていたらしい。俺は使い魔を飛ばして、リリヴァリルフィランの様子を見ていた。
 俺は彼女が魔物に傷つけられることが嫌だったのだが、彼女にしてみれば、重いのかもしれない。

 陛下も俺に念を押す。

『いいか。言っておくが、少しでもゲスなことするなら呼び戻す』
「……俺は何もしていません」
『何もしなくてどうする。竜を探せ』
「…………分かっています」

 俺が答えると、陛下の使い魔は羽を広げて、頼んだぞと言っていた。

 そこで、トルティールスが口を開く。

「では、僕は僕の仕事に戻ります」
「……周囲の魔物調査だったか?」

 俺がたずねると、彼は「はい」と言って微笑む。

「デシリーが魔物退治に向かわせた討伐隊ですが、その周辺に魔物が現れたという情報はありません。討伐隊長のコーレジェアスは、国王派の子爵家の婚約者で、アクルーニズ家にしてみれば、早く消しておきたい存在でしょう。魔物を使って、陛下に賛同する貴族たちを潰しているのかもしれません。閣下は竜の子を探してください。それが監禁された事実が発覚すれば、コーレジェアスを呼び戻す口実になります。どうせ地下牢です。あなたが本気で探せば、すぐに見つかるはずです」
「…………ああ」

 俺が答えると、彼はバルコニーから出て行った。

 残ったエウィトモートも俺に手を振った。

「じゃあ、俺もそろそろ行く」
「どこにだ?」
「封印の魔法の杖探し」
「それは明日からにするのだろう?」
「いいじゃん。この城も見ておきたいし。じゃあねー」

 その男は、「リリヴァリルフィランと仲良くね」と、余計なことを言って、夜空に飛んでいった。

 全くあいつは余計なことばかりする。

 特に今回は最悪だ。

 背後で人が近づいてくる気配がする。風呂から上がったらしいリリヴァリルフィランが、バルコニーに出てきたのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】 エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

「俺にしがみつくのはやめろ」と言われて恋が覚めたので、しがみつかずにリリースします。相容れないとほざくあなたは、今、私に捨てられましたわ

西野歌夏
恋愛
前世でフラれた記憶を思いだしたフローラ・ガトバンは、18歳の伯爵令嬢だ。今まさにデジャブのように同じ光景を見ていた。 エイトレンスのアルベルト王太子にまつわるストーリーです。 ※の付いたタイトルは、あからさまな性的表現を含みます。苦手な方はお気をつけていただければと思います。 2025.5.29 完結いたしました。

断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…

甘寧
恋愛
主人公リーゼは、婚約者であるロドルフ殿下に婚約破棄を告げられた。その傍らには、アリアナと言う子爵令嬢が勝ち誇った様にほくそ笑んでいた。 身に覚えのない罪を着せられ断罪され、頭に来たリーゼはロドルフの叔父にあたる騎士団長のウィルフレッドとその場の勢いだけで婚約してしまう。 だが、それはウィルフレッドもその場の勢いだと分かってのこと。すぐにでも婚約は撤回するつもりでいたのに、ウィルフレッドはそれを許してくれなくて…!? 利用した人物は、ドSで自分勝手で最低な団長様だったと後悔するリーゼだったが、傍から見れば過保護で執着心の強い団長様と言う印象。 周りは生暖かい目で二人を応援しているが、どうにも面白くないと思う者もいて…

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

処理中です...