【完結】極悪と罵られた令嬢は、今日も気高く嫌われ続けることに決めました。憎まれるのは歓迎しますが、溺愛されても気づけません

迷路を跳ぶ狐

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20.約束を

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 しばらく二人で黙ってしまい、先に口を開いたのは閣下の方だった。

「とにかく、リリヴァリルフィラン。今日はもう眠るといい」
「……なぜですか?」
「もう夜遅いからだ」

 閣下は当然のことのように答えるけれど、まだまだ甘いです。

 私は、胸を張って彼と対峙した。

「閣下。私は見張りをします」
「見張り……? 魔物ならこの城の結界で防げる」
「いいえ。魔物ではありません。お分かりになりませんか? 私は今、この部屋にいます。ですからデシリー様も、とてもとても私を殺したくても、手を出せません。しかし、眠ってしまえば話は別ですわ。デシリー様は魔法の名手ですし、結界を破壊の魔法で破るくらい、造作ないのですよ」
「……貴方をトレイトライルの婚約者にしたのは、デシリーだろう?」
「よくご存知ですね……」
「…………俺は城で、魔物を討伐するための部隊を率いている。魔物が多い地域へ陛下が向かわれる時に護衛を引き受けているのも俺だ。討伐へ向かう魔法使いをアクルーニズ家が紹介するとしつこく言ってくるくらいだ。デシリーの情報は、必然的に入ってくる。ただ、それだけだ」
「そ、そうですか……? トレイトライル様は、魔法の名手を輩出してきたフォーフィイ家に、魔力の高い令嬢を妻に欲しいと声をかけて来たようです。その話を受けたフォーフィイ家がトレイトライル様に差し出したのが私です。魔力なんてほとんどない私が来て、トレイトライル様はそれはそれはお怒りでしたけれど……結局は私と婚約なさいました。デシリー様から強く勧められて、断れなかったようですわ」
「デシリーが……そうか……あの男と婚約などという話になったのも、あれが原因か……」
「デシリー様が、と言うより……アクルーニズ家とフォーフィイ家の利害が一致しただけです。あの……閣下?」
「どうした?」

 どうした、と聞かれましても……

 閣下がいつの間にか握っていた燭台が折れていますが、気づいていないのかしら……

 目の前で、人族の力ではなし得ない力で燭台をポッキリ折られてしまうのを見ると、平静を保つのが難しくなりそうなのですがっ……!

 閣下の手の中では、ついさっきへし折られてしまった燭台が、無惨に折り曲がっている。
 なぜ、急に燭台を折ってしまうの? それに、なんだかずいぶんご機嫌斜めなご様子。

「……なぜデシリーはそのようなことをした?」
「へ!? だって、デシリー様は、これからもここで権勢を奮いたいのに、領主の後継者と言われているトレイトライル様が力をつけることを警戒していましたもの。フォーフィイ家の方も、トレイトライル様と仲良くするふりだけして、本当はアクルーニズ家に力を貸していました。デシリー様とうまくやったフォーフィイ家は、こちらの領地から、色々と……魔法に必要なものを流通させてもらっているようで…………それなのに、トレイトライル様ったら、デシリー様に内緒で突然私との婚約を破棄して、ロネリーヤ家のご令嬢のフィレスレア様を迎えてしまったのだから、デシリー様は相当お怒りになられていました。感情なんてまるでなかった私のそばで、トレイトライル様に掴みかかってしまって」
「そうか…………」

 そうかって……納得してくださったのかしら? 折れた燭台も、魔法で元に戻してくださったようですし……

 も、もうそういうことにしておきましょう!! そうでないと、あまりに恐ろしいので!

「……そ、そんなわけですから、デシリー様が殺すと言えば、殺すのです。自殺に見せかけてしまえば、強引にでも幕を引けますもの! で、ですから閣下! 油断は禁物なのです!! 私は、扉の前で番をします! 閣下はどうぞ、お休みになってください!!」
「見張りなら、俺がする」
「使者の方に、そのようなことをしていただくわけには参りません!」
「……俺の言うことには従うのではなかったか?」
「それは……」
「先ほど、一度言ったことは曲げないと言っただろう? それなら、今日はもう眠ってほしい」
「…………でも……」
「約束を破るのか?」
「……わかりました」

 私が頷くと、閣下は部屋のドアを開けて出て行ってしまう。

「俺は廊下にいる」
「えっ……で、でもっ……待ってください!」

 私の言葉は聞かずに、彼はドア閉めてしまう。けれど、私だけが部屋の中にいて、閣下が外で見張りなんて、そんなこと、許されるはずがありません!

「か、閣下! お待ちくださいっ!! 閣下!!」

 喚いてドアを叩いても、閣下はドアを開けてくれない。

「閣下! 閣下!? あ、あのっ……見張りなら私がっ……」

 叫んでいると、ドアの向こうから閣下の声が聞こえてくる。

「今日は……そこで眠ってほしい……俺は見張りをしている」
「閣下にそんなことをしていただくわけにはっ……!」
「していただいているんじゃない。俺がそうしたいだけだ」
「……? な、何が違いますの?」
「とにかく、俺の言うことに従うのなら……そこにいてほしい」
「……????」

 閣下のおっしゃっていることがよく分かりません。

 こんなことをされたら、いつもなら恐ろしいはずなのに。

 けれど、閣下の声はひどく優しくて、私を気遣ってくださっているような気がする……イールヴィルイ様が私に気を使う必要なんて、ないはずなのに……

「わ、分かりました……けれど閣下。私だけがここにいるわけには参りません。どうか、閣下も部屋の中にお入りください」
「……それはできない」

 なんで!!??

 けれど、私がどれだけたずねても、閣下はそれ以上何も答えてはくれなかった。
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