【完結】極悪と罵られた令嬢は、今日も気高く嫌われ続けることに決めました。憎まれるのは歓迎しますが、溺愛されても気づけません

迷路を跳ぶ狐

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36.やっぱり怖い!

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 こうして、予定とはだいぶ違うけれど、私は地下牢に向かうことになった。

 なぜこんなことになったのか……

 いつもならすぐに終わる作業。簡単に地下牢に連れて行かれるはずだったのに、随分長引いてしまった。
 しかも苦労した割に、かなり強引に閣下に鍵を奪わせてしまった。
 こんなことをデシリー様が知ったら、「国王が使者として遣わした男が横暴な真似をした」と言って、きっと嬉々として閣下や使者様たち、国王陛下に対する糾弾を始めそう。

 それなのに……本当にこれでよかったのですか?
 そう聞きたいけれど、少し前を歩くイールヴィルイ様は、自分の使い魔の背にダイティーイ様を乗せて、私にずっと背を向けて、地下へ向かう階段を降りて行く。
 その背中を見上げたところで、何も読めない。

 彼は、封印の魔法の杖と、行方不明の竜を探しに来たはず。国王陛下のために、その目的を達成することが、何より大切なはずなのに。

 しばらく彼の背中を見つめて歩いていると、彼が突然振り向いた。

「あっ…………」

 その背中を見つめていたことがバレてしまったようで気まずい。すぐに顔をそむけるけれど、それで誤魔化せるはずもない。

 何をしていたと、そう言われるのかと思った。

 けれど彼は、そっと私に手を差し出した。

「……この先は、少し暗くなっている。手を……とってもいいか?」
「…………」

 戸惑って、なかなか答えられないでいると、閣下は何やら勘違いしたらしく、その手を下ろしてしまう。

「……怒っているのか?」
「へっ……!?」
「……あなたの作戦を台無しにしてしまったことを……」
「い、いいえ!! そ、そんなっ……怒っているだなんてっ……!! た……ただ少し……戸惑っています…………本当に、これでよかったのでしょうか……ダイティーイ様を糾弾されたり、私の手を取ったり……こ、このようなことをしてしまって、閣下は本当に大丈夫なのですか!? 竜を探さなくてはならないのに……や、やはり、私を地下牢に送るべきだったのでは……」

 言いかけた私の手を、閣下は握ってしまう。
 なぜ閣下が私をこんなふうに扱うのか分からず、戸惑っていると、彼はじっと私を見つめて、口を開いた。

「俺はあなたに会いに、ここに来たんだ」
「…………? 何をおっしゃっているのです?」
「どうしても、あなたに会いたかった。だから、他の使者候補を辞退させて、ここに来た」

 彼が私の手を握る力が強くなる。

 私を迎えに来た?

 そんなはずがない。だって私が閣下と初めてお会いしたのは昨日のこと。初対面だったはずだし、それまで接点なんかもなかった。何度か会合で見かけたことはありますが、その時の私は貴族の令嬢としてそこにいたのではなく、会場を整備する召使いたちのうちの一人。私を気に留める貴族の方がいるはずがない。

「あ…………あの…………か、閣下…………?」

 握られた手が震えていると、自分でも分かった。
 すると、やっと閣下は私の手を離してくれた。

「…………怖かったか?」
「……っ!! ……い、いいえ! ただ……す、少し驚いただけですわ!! か、閣下も冗談をおっしゃるのですね! わ、私を迎えにだなんて……ど、ど、どうされたのです?」
「………………冗談…………?」
「だ、だって、そうではありませんか! 私たち、昨日初めてお会いしたばかりですよね?」
「…………いいや」
「え!!??」
「もっと前から、俺はあなたを知っていた。あなたがずっと、城を守るために働いていたことも知っているし、あなたが晩餐会の端で給仕をさせられていたことも知っているし、城を照らしながら窓の向こうのダンスを見つめていたことも知っているし、別の晩餐会で馳走をくすねてきた警備の兵士たちから菓子を譲ってもらって、落としたそれを慌てて口に入れたことも」
「おやめくださいっっっっ!!!!」

 つい、閣下の話を遮り、叫んでしまった。

 何で拾い食いのことまで知ってるの!??? あの時、周りには誰もいなくて、私は暗い庭に一人きりだった。よりにもよって閣下に、そんなところを見られていたなんて……は、恥ずかしい……

「わ、忘れていただけませんか……?」
「なぜ? ジャムを頬につけていたじゃないか」
「そんなことまでっ……!! 忘れてください! そんなことっっ!! だ、だいたいっ……あ、あの時、絶対に誰もそばにいなかったはずなのにっ……!」
「その時あなたが着ていたドレスの色まで覚えているぞ」

 怖!!

 あと少しで、そう口に出すところだった。

 百歩譲って、あの拾い食いの件は見ていたとしても、ドレスの色まで覚えてるなんて……
 それに、晩餐会にしても、公爵家の方がいらしていれば、さすがに全く会場に足を運ばない私でも覚えているはずなのに。

「リリヴァリルフィラン? どうした?」
「……っ!」

 声をかけられて、ハッとした。

 ……落ち着いて考えなければ。

 公爵家の、それも次期当主と噂され、国王陛下からの信頼も厚く、こうして使者としていらした方が、魔力もなく家から摘み出された奴隷同然の私のことになぜかひどく詳しい…………そんなことが、あるはずがない。

「み、見られていたなんて思いませんでしたわ! ぶ、無様なところを見せてしまい、申し訳ございません。たまたま……見えてしまったのですよね!??」
「トレイトライルと街に出たあなたが、召使を庇ってあの男を引っ叩いたことも知っている」
「………………」

 あの時街に出たのは、所用があったトレイトライル様にそうするように言われたから。その場に閣下がいらっしゃるはずがない。まして、召使のことまで、知りようがないはずなのに。

「か、閣下…………あの……ご、ご冗談が過ぎるのでは…………」
「…………冗談だと思うか?」

 ……ご冗談で知れるようなことじゃない……なぜそんなことまで知っているの!?
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